長崎「被爆体験者」6300人に被爆者と同等の医療費助成…「黒い雨」判決には控訴方針

 岸田首相は21日午前、国が定めた援護対象区域外で長崎原爆に遭った「被爆体験者」に対し、被爆者と同等の医療費助成を行う考えを表明した。被爆体験者の一部を被爆者と認めた9日の長崎地裁判決については、控訴する方針を示した。

長崎市の鈴木市長(左端)、長崎県の大石知事(中央)と面会する岸田首相(21日午前、首相公邸で)=代表撮影

 長崎県の大石賢吾知事と長崎市の鈴木史朗市長と首相公邸で面会後、記者団に明らかにした。

 助成については、訴訟の原告に限らず、約6300人いる長崎の被爆体験者全員を対象とする。現在の助成は、被爆体験によるうつ病や不眠症などの精神疾患とそれに伴う合併症などを対象としているが、幅広く一般的な疾病が対象で医療費が原則無料となる被爆者と同等の制度とする。

大石・長崎県知事と面会し、訪米前に記者団の取材に応じる岸田首相(21日午前、首相公邸で)=後藤嘉信撮影

 首相は「精神科の受診を不要とするなど利便性を高め、年内のできるだけ早い時期の医療費から適用する」と述べた。詳細な制度設計を国と県と市で協議する。

 一方、被爆体験者を巡る長崎地裁判決については、放射性物質を含む「黒い雨」が降った地域について国の主張と認定が異なるなどとして控訴する方針だ。21日の面会に同席した武見厚生労働相から知事と市長に「控訴せざるを得ない」と伝え、両氏は「重く受け止める」と応じたという。

 首相は8月9日、長崎市で被爆体験者と初めて面会し、同席した武見氏に「合理的に解決できるよう、具体的な対応策の調整」を指示していた。その後、長崎地裁は長崎市東部で「黒い雨」が降ったと認定し、原告44人(うち4人死亡)のうち、15人(うち2人死亡)を被爆者と認めて被爆者健康手帳の交付を命じる判決を出していた。

 広島原爆では、国が被爆者援護法で定めた区域外でも、「黒い雨」に遭った人を被爆者と認定する2021年の広島高裁判決が確定し、国は22年から被爆者と認める新基準による救済を始めたが、長崎は含まれていなかった。

 ◆ 被爆体験者 =長崎の爆心地から半径12キロ内で原爆に遭ったものの、被爆者援護法で国が定める被爆地域外にいた人。被爆体験に伴う精神疾患などの医療費が助成される。被爆者健康手帳が交付されて医療費が原則無料となる被爆者と異なり、支援内容に差がある。

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