総裁選候補の投資先で見える経済戦略 成長企業株の茂木敏充氏、高市早苗氏らは預貯金

自民党総裁選(27日投開票)では、出馬した9人の候補の大半が経済成長を最重点課題として論戦に挑んでいる。金融市場の関心も高く、野村証券は、各候補が閣僚を務めた際の保有資産の情報を分析。株式投資の経験などから市場感覚を推し量ろうとしている。それぞれの資産公開時をみると、足元の株価で換算した金額ベースで最も株式を保有していたのは茂木敏充幹事長(68)で、次に金融所得課税強化を打ち出した石破茂元幹事長(67)が続いた。加藤勝信元官房長官(68)は候補中最多の18銘柄を保有していた。

加藤氏は18銘柄、林氏は5銘柄

野村証券の分析は、あくまで各候補が閣僚時に行われた資産公開に基づくもので、データには年単位のばらつきはある。それでもそれぞれの保有株を検証すると、成長性重視の茂木氏、大型株中心の石破氏、幅広い銘柄に分散投資していた加藤氏など、各候補の投資傾向の一端も浮き上がってくる。

茂木氏は3年11月の資産公開時に2億9670万円分の株式を保有していた。その半分以上の1億8304万円が、大阪市に本社を置くソフト開発会社eBASEの株式だった。そのほかにも介護・医療業界向け人材紹介サービスのエス・エム・エスや、EC(電子商取引)業者向けに決済処理サービスを提供するGMOペイメントゲートウェイなどを保有していた。 茂木氏は米マッキンゼーで経営コンサルの経験もあり、スタートアップ支援を重視している。

閣僚時の資産公開なので、石破氏の場合は10年前の平成26年に遡る。この時は日本製鉄や川崎重工業、三菱重工業と大手企業を中心に7銘柄保有していた。総額は1億5356万円だった。

加藤氏は令和4年9月の資産公開時、9347万円相当の株式を保有していた。広島県福山市に本社を置く路線トラック大手、福山通運や積水ハウス、いすゞ自動車などに分散投資していた。

林芳正官房長官(63)も、今年1月の公開時点で、三井物産を中心に5銘柄、1509万円相当の株式を保有していた。

河野氏、小泉氏は手堅く運用か

「証券投資信託及び貸付信託等」という区分の資産が多く、当時と方針が変わっていなければ投信などで手堅く運用しているとみられるのが河野太郎デジタル相(61)で、4年9月の公開時点で1億4574万円保有。河野氏はトヨタ自動車やソニーグループなどの大手企業を中心に997万円相当の株式も保有していた。

小泉進次郎元環境相(43)は2年10月の資産公開時点で、802万円分の証券投資信託及び貸付信託等を保有していたほか、1億5000万円相当の国債を保有していた。金利は高くない国債だが、多くの資産を投じれば低リスクで一定の利回り益を享受できる。

高市氏、小林氏、上川氏は預貯金

資産に占める預貯金の割合が大きかったのは高市早苗経済安全保障担当相(63)、小林鷹之前経済安保担当相(49)、上川陽子外相(71)で、それぞれの閣僚時の公開情報を見る限りは、リスクを取って個人的な資産を運用することには関心がなさそうだった。


ただ、「資産運用立国実現プラン」を掲げて「貯蓄から投資へ」を推進した岸田文雄首相も株式保有はなかったとみられる。首相は3年の総裁選で金融所得課税を打ち出していたが、政権発足後、「岸田ショック」と呼ばれる株価下落局面を招いた。首相は早々に方針を棚上げし、4年5月にはロンドンの金融街シティーで「安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と演説。貯蓄から投資の流れを促進する方向に政策を転換し、新しい少額投資非課税制度(NISA)の創設にも踏み切った。

足もとでは日銀が追加の金利引き上げを模索する一方、今月18日には米FRB(連邦準備制度理事会)が4年半ぶりの利下げを決めるなど世界的な金融政策の転換期にあり、今後も不安定な市場環境が予想される。新たに首相に就任する新総裁にとって、これまで以上に市場との対話や長期的視点に立った財政・経済政策が重要になりそうだ。(高橋寛次)


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