アクセサリーなら不要 拉致問題の解決意思「ブルーリボン」自民総裁選出馬会見で6人着用

自民党総裁選(12日告示、27日投開票)は、10日に加藤勝信元官房長官が正式な出馬表明を行った。これまでに、出馬に必要な推薦人20人の目途をつけた8人が正式な記者会見を開いたが、安倍晋三、菅義偉、岸田文雄の直近3政権が「最重要課題」に掲げてきた北朝鮮による日本人拉致問題は、埋没感が否めない。各候補の出馬会見をチェックすると、8人中6人が拉致被害者救出の意思表示である「ブルーリボンバッジ」を胸元に付けていた。

問われる具体的な行動

10日までに正式な出馬会見を開いた8人のうち、ブルーリボンを付けていたのは、小林鷹之前経済安全保障担当相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安保担当相、加藤氏の6人だった。

ブルーリボンは、北朝鮮に捕らわれた被害者と家族を結ぶ「青い空」と、日朝を隔てる「日本海の青」をイメージしている。平成14年に北朝鮮から5人の被害者が帰国し、残る被害者を救出する運動が本格化するのに合わせ、支援組織「救う会」の青年有志が発案。救出に向けた決意表明のシンボルとして官民問わず広がってきた。

北朝鮮はブルーリボンに対して厳しい感情を抱いているため、あえて着用せずに情報収集などをする関係者もいる。着用の有無よりも、具体的な行動をとっているかどうかが重要で、「アクセサリーではない」(関係者)。いわゆる免罪符のような取り扱いも、被害者家族らは望んでいない。

着用した6人の過去の拉致問題関連の言動では、拉致問題担当相を兼ねる林氏が国民大集会などの関連行事で、被害者家族の高齢化を念頭に「(拉致問題は)時間的制約がある人道問題」との認識を重ねて表明した。

茂木氏は外相時代、家族会などが求める被害者の「即時一括帰国」の実現に向け、米国など主要国に協力を呼びかけてきた。今月5日の政策発表会見では「拉致被害者の一日も早い帰国の実現に向け、米国をはじめ国際社会との連携をしつつ、早期のトップ会談を実現し、拉致問題の解決を図る」と訴えた。

安倍氏を「最も尊敬する政治家」と仰ぐ小林氏は今年8月の出馬表明の直前、拉致被害者の横田めぐみさん(59)=拉致当時(13)=の新潟市内の拉致現場周辺を視察した。出馬表明後に出演したインターネット番組では「国家としての最重要課題。総理、総裁になったら当然、あらゆる手段を排除することなく、解決に向けて全力を尽くしたい」などと述べた。

小泉氏は、過去に目立った言及はない。ただ、今月6日の出馬会見では、「これまでと同じアプローチでは何も変わらない」とした上で、現在40歳とみられる北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記と「同年代のトップ同士、胸襟を開いて直接向き合う適切な機会を模索したい」などと意気込みを示した。

また、高市氏は9日の出馬会見で、「(日朝)首脳会談の実現、同盟同志国との協力などあらゆる手段を通じ、一日も早い拉致被害者の帰国のため働いていく」と強調。税金が投入されているNHKの国際放送を通じ、拉致問題解決に向けて国際世論を喚起していくなどと具体案を提示した。

拉致問題担当相を長く務め、現在は党の拉致問題対策本部長を担う加藤氏は、かねて、事態の膠着が続き問題が風化しかねないとして、子供や若者への啓発活動にも力を注ぐよう訴えており、10日に発表した政権公約にも「日朝首脳会談の早期実現」などを盛り込んだ。

着けないからやらないではない

一方、未着用は石破茂元幹事長と河野太郎デジタル相の2人だった。

石破氏は訪朝経験があり、超党派の「拉致議連」の会長を務めたこともある。平成14年9月17日、日朝首脳会談で北朝鮮がめぐみさんらを「死亡」と説明してきたことを受けて東京で開催された会見で、涙に暮れるめぐみさんの父の滋さん=令和2年に87歳で死去=や母の早紀江さん(88)のすぐ隣で、険しい表情でたたずんでいた姿も印象的だ。

石破氏は問題解決への道筋として、従前から、東京と平壌に連絡事務所を開設して成果を逐次検証する仕組みの導入を主張している。まずは信頼関係構築が重要との立場だ。

ただ、連絡事務所の設置については、関係者の間で、「北朝鮮は『被害者はすでに死んでいる』などとするこれまでの主張を維持してくるのは必至で、日本がそれを追認する形に追い込まれかねない」と危惧する意見もある。

河野氏も北朝鮮との意思疎通や信頼関係構築の必要性を強調しており、今月5日の政策発表会見では「ご家族がさまざまな思いを抱かれているのはよく分かっているが、それを一方的に言ったからといって向こうが(対話に)出てくるわけではない。そうした気持ちを受け止めながら、一歩一歩議論を進めていくことが大事だろうと思う」などと述べた。

河野氏を巡っては、令和3年9月の前回総裁選への出馬会見の際はブルーリボンを付けていたが、1週間後に実施された各候補者による演説会では外した経緯がある。

河野氏は当時、自民党のインターネット番組で「アトピーがひどく、顔の皮などがポロポロ落ちる。それを手で払うとき、(胸元の)バッジ類が手にぶつかってしまう」と釈明した。ただし、「リボンバッジを着けているからやる、着けていないからやらないという問題でない」とも指摘。外相時代、北朝鮮の外相へ国際会議などの場で声をかけ続け、国連総会に合わせて対面の会談に持ち込んだことなどを紹介した。

今回の総裁選では、上川陽子外相が11日にも出馬会見する見通しで、上川氏は最近の記者会見などではブルーリボンを着用している。

家族会、11日に会見へ

早紀江さんら家族会メンバーや救う会は告示日前日の11日、東京都内で記者会見を予定。すでに告示された立憲民主党代表選(23日投開票)も併せ、拉致問題に関する活発な議論が行われるよう求める。一部高齢家族らは、論戦が低調のまま推移することに強い危機感を抱いているという。(中村翔樹)

ジャンルで探す