〝一極集中〟めぐり自治体バトル…東京都が四面楚歌 人口減少、子育て支援で矢面に

東京一極集中が人口減少を助長し、豊かな税収は他県との行政サービスの「格差」を生んでいると都への批判が絶えない。人口減少の克服に向け8月に全国知事会で採択された緊急宣言をめぐっては、一極集中が要因と読める文言に小池百合子都知事が反発。近隣県の知事からは、独自の子育て支援策を実施する都への人口流出を懸念する声があり、都は四面楚歌(そか)だ。

都と他都道府県の主張「平行線」

福井市内で8月1日に開かれた全国知事会。多くの知事が人口減少問題に危機感を表明する中、緊急宣言の原案をまとめる段階で、「人口減少の構造を改めていくためには、人口や産業が特定の地域に集中している現状を見過ごすことなく…」との文言に小池知事が待ったをかけた。

小池知事は人口や産業の集中と人口減の因果関係が不明確だとし、「考慮しないなら賛同しかねる」と削除を要求。これに対し、島根県の丸山達也知事は「まとまろうと言うので、なまくらな表現でも了承したが、削除と言うなら『東京一極集中』と明確に書くことを検討すべきだ」と不快感を示した。

他道府県は、全国で合計特殊出生率が最低の東京都に人口が集中すれば、それだけ人口減が加速すると考える。一方、都は人口と産業の集中が国際競争力を強化し、日本経済を牽引(けんいん)するため、「各地域の人口や経済の伸びを実現している」と主張。双方の立場は平行線をたどる。

結局、原案のとりまとめは翌日に持ち越され、文言を削除せずに都の意見を追記する形で、宣言は2日に採択された。

「まだやるの?」 公約にも不満

「まだやるのっていう感じだ。東京とそれ以外で福祉の格差はどんどん開く」

小池知事が7月の都知事選で3選を決めたことについて記者団に問われた千葉県の熊谷俊人知事はため息をついた。念頭には、小池知事が公約した「保育無償化を第1子まで拡大」がある。

合計特殊出生率が全国最低の東京都は少子化対策に注力する。だが、その結果、自治体間の子育て支援策の差はさらに拡大し、東京への人口流出が加速しかねない。

こうした懸念は千葉、神奈川、埼玉の首都圏3県で共通している。5月には3県知事がそろって総務省などを訪問し、行政サービスに差が生じるとして、国に税収差の是正を求めた。

特に3県知事が危機感を募らせたのが、都が今年度から実施している高校授業料の実質無償化だ。5月の関東知事会では、神奈川県の黒岩祐治知事が「住んでいる地域により、教育費負担に大きな差が生じている」と都を牽制した。

また、埼玉県の大野元裕知事は、都独自の子育て支援策を県内で実施した場合の予算額を試算。「(同様の施策を実施すれば)他の行政サービスが行われなくなる。(政策の)優先順位の問題ではなく、税の偏在性の問題に他ならない」と訴えている。

「国の自治体任せが問題」と指摘

こうした周辺3県の不満に対し、小池知事は、教育や子育て支援策は「大前提として国が責任をもって取り組むべきものだ」とする。地方自治体が国に働きかけるべき課題であるとし、「行政サービスの違いを財政の問題にすり替えるのは自治の観点からどうか」と疑問を呈している。

財政状況が地方自治体の行政サービスの格差を生む現状を、どう是正すべきなのか。

関西学院大学の上村敏之教授(財政学)は「大企業の本社が多い東京に税金が多く入る仕組みになっているので、どうしても税収は偏在化する」と話す。

その上で「教育や子育て関連の公共サービスは本来は国がやらないといけない」と述べ、「国が本腰を入れないため、財源が豊かな地方自治体が実施してしまうところに問題の本質がある」と指摘。「税収の偏在是正もやるべきだが、そもそも国がやるべき仕事を地方に任せている構造にも光を当てるべきだ」と語った。(楠城泰介)

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