人口減少にどう対応? 観光補助金に頼らぬ方法模索、温泉郷の栃木・那須も宿泊税導入検討 深層リポート

那須温泉郷などを抱え、皇室の御用邸がある「ロイヤルリゾート」としても知られる栃木県那須町で、宿泊客に課税する「宿泊税」の導入に向けた議論が活発化している。主導するのは宿泊業者らも加盟する同町観光協会。年内にも宿泊税条例の策定を求めて要望書を町に提出する方針だ。年間約500万人が訪れる観光地だけに、新たな税収入につながる町も前向きで、導入されれば県内で初めてとなる。

旅行客数が回復

今年2月、同観光協会が町内の宿泊事業者を対象に開いた、宿泊税に関する初の説明会。旅館やホテル、簡易宿泊所などの宿泊事業者約540件に案内を出し、同協会の非会員を含め85人が出席した。

質疑応答では、新たな課税による観光や宿泊への影響を懸念し、導入に慎重な声もあったが、同協会の阿久津千陽会長(53)は「持続可能な観光地づくりに向け安定的な財源の確保が必要」と強調。協会会員以外の宿泊業者とも合意形成を図り、「導入にこぎつけたい」との意向を示した。

昨年、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「5類」へ移行し、全国の観光地でインバウンド(訪日客)を含めた観光客は急速に回復している。

那須町でも観光客はコロナ禍前の水準に戻りつつあり、令和5年の観光客数は平成22年以来、13年ぶりに500万人台に回復。前年より約70万人(15・86%)増え、約513万人に。宿泊客数も約174万人と前年より約10万人(6・28%)の増。特に外国人宿泊数は約1万5千人と前年の4倍強に上っている。

観光振興予算が先細り

宿泊税導入の動きは、全国的に広がる。観光振興に向けた財源の確保が目的で、那須町のように宿泊事業者側から導入を提案するケースは少ないという。

那須町観光戦略会議が示した人口将来予測(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口に基づく)によると、町の人口は令和12(2030)年までに約4千人減少(現在の人口は約2万4千人)。定住人口1人当たりの年間消費額を130万円とすると、約52億円の経済損失となり「人口減少により、このままでは経済維持が困難になる」としている。

運営費の多くを町の補助金で賄っている同協会は「観光振興の予算も先細りとなり、協会自体も今までの形では運営が難しくなる」と危機感を募らせ、新たな財源として着目したのが宿泊税だった。

阿久津会長は「2次交通の整備やインバウンドへの対応など魅力ある那須を維持するには財源が必要」と話し、町に宿泊税導入を促そうと要望書の提出を決めた。

具体的には5月に観光協会のほか、旅館組合や経済団体、学識経験者らで組織する「宿泊税」の検討委員会(仮称)を立ち上げ、宿泊税の具体的な税額や課税対象、使途などを議論。年内に要望書にまとめて町に提出、宿泊税条例の策定を求める方針だという。

那須町の平山幸宏町長は「持続可能な観光地づくりを目指す宿泊業者らの思いに応えたい」と前向きに受けとめる。条例施行までに必要な手続きは多く、令和8年度からの導入が有力視されている。那須町の隣の那須塩原市でも宿泊税導入に向けた検討を進めており、導入に向けた動きはさらに広がりそうだ。

宿泊税 ホテルや旅館の宿泊客に課税される法定外目的税。自治体が条例を定めることで独自に課税でき、課税対象や税率は自治体によって異なる。主に地域の観光振興を図るのための財源として利用される。これまでに東京都や大阪府、京都市、金沢市、北九州市など9自治体が導入し、静岡県熱海市でも来年4月から導入される見通し。


~記者の独り言~ 「宿泊税」導入に向けた動きが全国的に広がる中、栃木県でも那須町観光協会の主導で始まった導入の議論。人口減少で税収が減れば、観光振興予算にも影響するとの危機感が、宿泊業者らも加盟する同協会を独自の財源確保に向かわせた。ただ、課税による宿泊客の減少も懸念され、導入に慎重な意見があるのも事実。持続可能な観光地づくりに向け、地域間の競争も激しさを増しており、各地の判断が注目される。(伊沢利幸)

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