《国民民主「まさかの28人目の当選者」》司法試験2度失敗の氷河期世代で、本人は「日本一動く比例単独議員を目指す」と意気込む 党の事務方と候補者を両立して当選果たすまで

比例北海道ブロックの当選を勝ち得た臼木秀剛氏

 先の衆院選で議席を4倍に増やした国民民主党。そのラスト1枠、28番目で比例北海道ブロックの当選を勝ち得たのが党職員の臼木秀剛氏(43)だ。同党で初めての北海道での当選者ともなった。1か月前は出馬の予定もなかったが、「まさか、まさか」が重なって、“想定外の初当選”を手にした。どのような思いなのか、臼木氏本人に話を聞いた。

【写真】国民民主党・臼木秀剛氏、当選の瞬間。他、当選を受け笑顔を見せる玉木雄一郎代表ら

 臼木氏はこれまで、党国会対策委員長の古川元久氏を補佐するのが仕事だったが、上司にあたる古川氏は「当選しないっていうから名簿に入れるのを了承したのに、話が違う!」と嬉しい悲鳴をあげた。

 玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長と抱き合ったのは、投開票日から日付が変わった10月28日午前2時47分だった。臼木氏が語る。

「開票センターのために借りていた部屋の片付けを済ませた後、“北海道ブロックはまだ票が伸びるかも”というので控え室に残って党幹部やスタッフたちと一緒に見守っていたら、本当に速報が入ったんです」

 どんな気持ちで開票速報を見守っていたのか。

「新聞各紙の情勢調査でも北海道ブロックでは“国民が議席獲得の見込み”なんて書いたところは一紙もありませんでした。もちろん、期間中にチラシの受け取りなど手応えは感じてはいたけれど、まさか議席をいただけるほどまで伸びるなんて。

 その瞬間は、一緒に回ってくれた人たちの顔とか、議席をいただいた責任感の重さとか、いろんな感情が一挙に押し寄せてきました」(臼木氏)

公認が出たのは解散の当日

 父親の仕事の関係で幼少期は神奈川県や兵庫県内を転居し、高校は姫路市の県立高校、大学は信州大学に通ったが、北海道には縁はなかった。

 そんな臼木氏に公認が出たのはなんと石破茂首相が解散に踏み切った10月9日。内定していた別の新人候補が辞退したため、党職員の臼木氏に急遽、白羽の矢が立った。

「心の準備は皆無でした。党の選挙の事務方として、私は街頭演説や遊説計画の担当になって9月以降、体制の準備に慌ただしくやっていましたから、まさか自分が、と。ただ、党の事情もわかる立場でもありましたから」(臼木氏)

 党の事務方の仕事と候補者との二足のわらじを履いた選挙期間中は大忙しだ。玉木代表が都内各所で街頭演説をやるとなれば、その場所取りはもちろん前座も務め、仙台、大阪、兵庫など各地でチラシ配りをしたりと飛び回った。

 そのため街頭演説で北海道に入ることができたのは、4~5日間が精一杯。札幌市内を中心に街頭に立った。

ハローワークで見つけた民主党秘書の募集

 その甲斐あって初当選を手にした臼木氏だが、政治の世界に入ったのも、実に偶然の展開だったという。

「法科大学院を修了した後、司法試験に2度チャレンジしたけれどダメで、気づけば30歳目前。就職氷河期のいちばん最後の世代で、友人たちの苦労も知っていましたから“もうやばい”と仕事探しを本格化させました」

 出会いは2011年のことだ。

「たまたまハローワークに国会議員の秘書の仕事の募集が出ていた。民主党政権への批判から、秘書のなり手が見つからなくなっていたようです」(臼木氏)

 こんな機会はめったにない、と考えた臼木氏はすぐに応募。「採用の電話をもらったのは2011年3月11日、東日本大震災が起きる日の午前中だった」(同前)という

党の政策を実行するため汗をかきたい

 2011年に長野県選出の衆議院議員の地元事務所に就職したのをスタートに、2012年に政策担当秘書試験に合格すると、2022年3月までに野党系の国会議員の地元事務所や議員会館の秘書として通算11年勤務した。2022年7月の参院選では、現在の国民民主党の公募に応じて立候補するも落選。その後は裏方として、同党の事務局に転じた。

 今回躍進を果たした国民民主党は、自民党と立憲民主党それぞれから秋波を送られるなど国会内で存在感が爆上がり中だが、臼木氏は気を引き締める。

「党の名前でお預かりした議席なので、きちんと党の政策を実行するため汗をかきたい。それに選んでいただいた北海道は、人口減少も深刻化していますし、鉄道の廃止が続くなど本州とは違う課題も多い地域です。地域の課題に寄り添うためにやらなければいけないことは山ほどある。同世代の友人からも励ましの連絡をもらいましたし、“日本一動く比例単独議員”を目指します」

 就職氷河期世代の星となれるか。自民一強時代に終わりを告げた国会での新人議員たちの活動にも注目していきたい。

◆取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)

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