《萩生田光一氏・下村博文氏の明暗》「萩生田ジャイアンに守られている」で笑いをさらった片山さつき、下村応援で大マジメな高市早苗、裏金猛批判の青山繁晴…「応援演説」に大違い

当落を分けたものは何だったのか(時事通信フォト)

 今回の総選挙では、自民党派閥の裏金候補46人のうち、萩生田光一・元政調会長など18人が当選し、下村博文・元文部科学相ら28人が落選した。当落を分けたものは何だったのか。

【写真】片山さつき氏がブルーの服を着ると、確かに似ているような…

 自民党非公認となったとはいえ、萩生田氏と下村氏には大物政治家らが次々に応援に入った。本誌・週刊ポストの2人への密着取材では、その応援演説に対する聴衆の反響は対照的だった。まず、萩生田氏の応援に駆けつけたのは片山さつき・元女性活躍相だ。

「八王子のみなさん、おはようございま~す。ぼくドラえもんだよ~」

 屋外駐車場にパイプ椅子を並べただけの演説会場で、意外な声真似を披露した片山氏。

「大山のぶよに声が似ていると言われる片山さつきですが、今日は八王子のジャイアン、萩生田光一さんの応援にやってまいりました。よろしくお願いいたします~」と聴衆を笑わせ、つかみは成功。

「私は2005年(当選)の小泉チルドレンなんですけど、一期上の先輩が萩生田さんで、『萩生田先輩、政界に入ったきっかけってなんですか』と聞いたら、『実家を水洗トイレにしようと思って』とおっしゃったんです。そして今どうなっているかというと、多摩浄化センターは八王子にあるんです。すごいですよ。実力、実績。持ってきちゃった。

 山口にもよく行くんですが、(安倍)昭恵さんのお宅で、思い出の写真が飾ってあるんですが、萩生田さんと映っている(安倍晋三元首相の)写真は、本当に、リラックスして笑っているんです。だから、萩生田ジャイアンに守られている、安心した顔をしているんです」

「国会議員全員脱税している」

 萩生田氏が安倍元首相の側近だったことをアピールした。もう一人、萩生田氏の強力な援軍となったのが松井一郎・元日本維新の会代表(元大阪府知事)だ。

「僕は萩生田さんを応援しに来たんじゃありません。萩生田さんは仲間ですから一緒に頭を下げてね、ごめんなさいねと。皆さんに謝ろうと思ってきました」

 猛烈なヤジが飛び交う中で応援演説に立つと、最初にそうお詫びを口にしたうえで、亡くなったばかりという父の教えで応援に来たのだと言う。

「うちの親父が天寿を全うしてね、亡くなりましてあの世にいきました。うちの親父の教えでね、友達を大事にせえよと。苦しい時にね、ただ応援してるだけじゃダメなんだよ、叱咤激励やるんだよ。ダメなところはダメだとはっきり言えるのが友達だと親父の教えがあったんです。だから萩生田さんには今回のことはダメだと、政治とカネの問題、これは応援してくれている人の信頼を失ったんだと、はっきり申し上げました。

 国会議員になれば、まぁその瞬間にお金の感覚が民間の人から見ると狂ってしまうんですよ。文通費(現・調査研究広報滞在費)、月100万円の経費が支給された瞬間から感覚がずれてくるんです。このお金はね、自民党のみならず、維新、立憲、共産党ももらっているんです。これは領収書が必要ないからね、現金で100万円支給されて領収書も必要ないというルールでやってるから狂ってしまう訳です。だから維新の会では全員領収書を公開させていました。

 このお金が政治とカネの一番の根幹。みんなパーティー券の不記載ばっかり言っているけどね、これ脱税だと言われるけど、そんなこと言ったら国会議員全員脱税していますよ。今回萩生田さんは皆さんの期待、信頼を失いました。でも人間ですから、反省してもう一度やり直すというのならチャンスを与えてやりましょうよ」

 そう“浪花節”を聞かせたのである。

応援演説に来たのになぜか裏金批判を展開する青山繁晴氏

 一方の下村氏には自民党総裁選で石破茂・首相に僅差で敗れた“保守のカリスマ”高市早苗・前経済安保相が応援に入った。

 高架下の会場では、演説が始まる前に、反対派がサザエさんのエンディングの替え歌で「ほーらほーらー自民は~、うそをつ~く~ さーなえさん さなえさん」と歌っていた。そこに高市氏が到着した。

「高市早苗です。新時代を切り開く下村博文候補をよろしくお願い致します。私は総合的な国力を今こそ強くしなければいけない、そう訴えをいたしております。国力とは何か、それは外交力であり、防衛力であり、経済力であり、技術力であり、総合力でございますが、そのすべてに関係するのが経済力でございます。下村博文候補が経済力の重要性を訴え、なによりもこれからの日本の、強い経済を作っていく。経済成長を支えていくのは、皆様おひとりおひとりの力と私は思っております。

 コロナ禍の深刻な状況で、たくさんの方がお亡くなりになっている。その中で下村政調会長は歯をくいしばって、感染症の対策をする、また経済をじっくりと行なう、一生懸命やってくださった。そのころ私は総務大臣でございましたので、一緒に仕事をさせていただいたんですけど、またこれから一緒にやらなければいけないことはたくさんあります。いざ、どうやったら皆さんの命を守れるか、そういった取り組みを下村博文さんと一緒にやらせてください」

 経済の真面目な話ばかりだったせいか、聴衆は盛り上がってはいなかった。別の日、高市氏と同様、岩盤保守層に根強い支持がある青山繁晴・自民党参院議員が下村氏の応援に立ち、こちらは「政治とカネ」の問題に正面から切り込む演説をして驚かせた。

「私は国会議員になってまだ8年3か月ですけれど、献金を一銭も受け取っていません。企業団体はもちろん、みなさんのような善良な市民の方からも。可哀想だから100円あげる、と言ってもダメです。

 派閥に属していないので派閥のパーティーも個人のパーティーもありません。団体献金も全部お断わりしてきました。後援会も作らない、後援会長も置いていません。こういうことはみんなができるとは思いませんが、一つのモデルとしてきました。そして派閥とカネ問題にぶつかりました。自由民主党現職議員であっても言うべきことは、主権者の方にありのままに話します」

 この話の切り出しでは裏金問題で非公認となった下村批判にしか聞こえない。どうやって下村氏の支援を呼びかけるのだろうか、と取材班もびっくりして聞いていると、「自由民主党の議員は『裏金と言うな』という人もいますが、私は裏金だと思います。なぜかというと、集まってきたお金を政治資金収支報告書に記載していなかったということは、その分の使い道を知られたくないということですよね」と演説は続いていく。

 結局、応援部分は、「私は下村博文さんにも問うべきことは問うていますし、何よりも下村博文さんが世襲の議員じゃないということをもう一度再評価しています」というもの。下村氏の演説を聞きに来た支持者らしい聴衆も首をひねっていた。

 同じ叱咤激励でも、松井氏の萩生田氏への応援演説とはかなり違うテイストだった。結果は明暗を分けた。

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