《何があったのか》衆院選、小池百合子都知事、石丸伸二氏、蓮舫氏らの“ねじれた応援”「まるで都知事選場外バトル」の様相

 昨日の敵は今日の友、そして友が敵になることもよくあること、と言われるが、わずか3か月で関係性が激変してしまうと、やはり戸惑いを覚える。10月27日に投票・開票日を迎えた衆議院議員選挙の選挙運動で、小池百合子都知事、石丸伸二・元安芸高田市市長、蓮舫・前参議院議員の3人がとった行動は、7月に行われた東京都知事選挙のときには予想もしなかった「ねじれた」ものだった。選挙取材を続けてきたライターの小川裕夫氏が、衆院選挙運動の際にあらわになった、都知事選場外バトルについてレポートする。

【写真】街頭演説に立った蓮舫氏。定番の白ジャケット姿

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 政治資金収支報告書への不記載、いわゆる裏金をめぐる問題で自民党に大逆風が起きた今回の衆院選は自民党と公明党の連立与党が過半数を割る大敗北を喫した。連立与党を組む公明党も苦戦を強いられ、石井啓一代表は小選挙区の埼玉14区(草加市、八潮市、三郷市)で敗北。比例重複をしていないため、国会議員のバッジをはずすことになった。

 衆院選の結果は今後の国政を大きく左右することは言うまでもないが、その裏では2024年7月に投開票された東京都知事選の場外バトルも勃発していた。

 先に触れた石井啓一代表は10月15日にJR三郷駅で街頭演説をしたが、そこには小池百合子都知事が応援演説に駆けつけて支持を訴えた。

 他道府県の知事が、わざわざ都道府県境を越えて応援に駆けつけることは珍しいことではい。小池都知事のほかにも埼玉県の大野元裕知事は10月26日に東京30区(府中市、多摩市、稲城市)から出馬した長島昭久候補の応援演説に立っている。

 しかし、小池都知事が石井代表を応援したことは明らかに異常事態だった。なぜなら、小池都知事は先の都知事選で国民民主党から手厚い支援を受けているからだ。

最終日のマイク納めに石丸伸二氏

 公明党の石井代表が立候補した埼玉14区には、国民民主党が擁立した候補者がいた。それにも関わらず、そのライバル候補を小池都知事が応援したのだから穏やかな話ではない。

 国民民主党は東京29区(荒川区、足立区)にも候補者を擁立したが、小池都知事は10月20日に公明党が東京29区に擁立した岡本三成候補の応援演説に立っている。岡本候補は演説の中で荒川の治水対策を強化すると主張したが、それを受けて小池都知事は「徳川家康が江戸のまちづくりで、もっとも力を入れたのが治水。岡本候補は令和の徳川家康」と応援演説で持ちあげた。小池都知事の過分な礼賛に対して岡本候補は苦笑していたが、悪い気はしなかっただろう。

 2022年の参議院議員選でも、2024年の東京15区(江東区)衆院補選でも、そして都知事選でも小池都知事と国民民主党は強固な協力関係を築いてきた。その小池都知事と国民民主党が、衆院選で奇しくもねじれた関係になっている。両者の間に亀裂が起きるような何かが起きたと推測せざるを得ない。

 国民民主党の動きを見ると、その答えがうっすらと浮かび上がってくる。衆院選最終日となる10月26日、国民民主党の玉木雄一郎代表はマイク納めの地に東京駅前を選んだ。そこに石丸伸二氏が現れて国民民主党の街宣車の上に立ってマイクを握った。

 石丸氏は先の都知事選で小池都知事に敗れたものの、事前の予想を大きく上回る165万超という得票で2位となった。そこからテレビやネットの政治番組などに頻繁に出演する寵児になっている。そうした人気急上昇中の石丸氏と玉木代表は、選挙直前にネット番組で対談。その縁から国民民主党と石丸氏は接近したと思われる。

 石丸氏は国民民主党や同党の候補者を応援したわけではなく、とにかく投票に行ってほしいと呼びかけただけにすぎない。しかし、選挙期間中、しかも一番大事な最終日のマイク納めに公党の街宣車に乗って演説をする意味を考えれば、国民民主党と石丸氏がただならぬ関係であることは否めない。

 国民民主党は人気の高い石丸氏にあやかろうと考えたのかもしれないが、SNSでは国民民主党の支持者から否定的な意見が噴出した。その内容の多くは、国民民主党が打ち出してきた政策と石丸氏の政治理念がまるで違っているというものだった。

肩の力が抜けた蓮舫氏の演説

 小池都知事や石丸氏のねじれた関係も気になるところだが、都知事選3位の蓮舫氏も応援演説で都内を精力的に駆け回った。都知事選の際、蓮舫氏には「仮に落選しても、きたる衆院選に鞍替え出馬する予定なのだろう」という指摘も多かった。

 そうした指摘が出た背景には、今回の衆院選で東京の小選挙区が5増となることが背景にある。政権交代を目指す立憲民主党にとって、きたる衆院選に一人でも多く勝てる候補を擁立したいと考えていたはずで、参議院の東京選挙区で4選を果たしている蓮舫氏はそれに適っていた。

 そうした経緯もあって、「都知事選に落選しても、きたる衆院選に出馬するための準備」と見る向きも強かった。

 しかし、蓮舫氏は衆院選には出馬せず、最終的に一都民として衆院選を迎えた。一都民という立場ながらも、立憲民主党の候補者を応援するために都内の街頭に立ち、マイクを握って支持を呼びかけている。

 筆者は15年以上にわたり蓮舫氏を取材してきた。先の都知事選では10回以上も蓮舫候補の街頭演説に足を運んでいる。蓮舫氏の演説は大きな声で聴衆に呼びかけるスタイルで、それは都知事選でも変わらなかった。ところが、今回の応援演説は柔らかな語り口になっていた。

 これまでも蓮舫氏は、選挙のたびに仲間の応援で各地を回って演説を重ねてきた。2022年の参議院選挙でも自身が出馬しながらも、応援演説で東京を留守にすることが多かった。

 応援演説に引っ張りだこになるのは人気の証だが、その一方で相当な重圧を感じていたことは間違いない。

 今回、蓮舫氏自身は立候補していない。あくまでも、一都民という立場で応援演説をしている。衆院選の応援演説に立つことに責任をまったく感じていないわけではないだろうが、一人でも多く当選させなければならないという執行部の重圧から解放されて、肩の力が抜けた演説になっていたことは間違いなかった。

 都知事選からわずか3か月しか経過していないにも関わらず、3者の関係は大きく揺れ動いている。政治の世界は、一寸先は闇と言われる。今回の衆院選の結果を受けて、自公連立政権は少数与党となる。永田町は混迷を深めることになりそうだ。

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