【自民党・内部報告書入手】業界に補助金バラ撒き、税制優遇のオンパレード 「国民から召し上げたカネを業界に配っている」と荻原博子氏

証拠となる「令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】」

 自民党の支持率が低迷するなか、岸田文雄・首相が目論んでいたとされる「6月解散」に黄信号が灯ったように見える。ところが、崖っぷちのはずの岸田首相は“伝家の宝刀”を抜くため、密かに準備を進めていた。その証拠となる内部報告書を入手した。【前後編の前編。後編を読む

【ほぼ“満額回答”】約17万票(組織内議員の得票数):日本宗教連盟等:信仰・宗教に関連した文化財の保護についての支援:計約479億計上、計約69万票(同):日本医師会:診療報酬+0.88%等…自民党がバラ撒き優遇してきた支持団体と、要望と回答の一覧

「岸田おろし」が起きないワケ

 大型連休明けの国会は会期終盤を迎えるが、自民党議員の間に「奇妙な安堵感」が広がっている。

「いま自民党は非常に厳しい状況だ。(総選挙になれば)政権交代が起こってもおかしくない」

 岸田首相側近の木原誠二・自民党幹事長代理がそう語るなど、「補選全敗で岸田さんも解散・総選挙は打てないはずだ」(閣僚経験者)との見方が広がっているからだ。

 自民党内では予想されていた「岸田おろし」の動きも起きない。

「岸田総理がいち早く派閥の解散を決め、裏金議員を大量処分したことで党内に不満があっても反岸田勢力は身動きが取れない。官邸は補選後に党内情勢が不穏になると予測していたから、危機管理として事前に手を打っていたわけです。総理のリスク管理が機能している」(岸田側近)

 さらに岸田首相は会期末の6月、派閥解散で派閥からの「氷代」がもらえない議員たちにカネを大盤振る舞いする。自民党本部は例年7月末に支給していた各議員(党支部)への活動費を400万円から500万円に増額し、6月に前倒しして配ることを決めた。「資金」の根元を押さえられ、特に若手議員は岸田首相にますます弓を引けなくなった。

 その岸田首相は、解散・総選挙も自民党総裁選での再選も全く諦めていなかった。

 衆院補選では「保守王国」の島根1区で岸田首相が2回も応援に入ったにもかかわらず大敗し、首相の“解散断念”につながったとされているが、官邸では補選直後に敗因を分析し、全く違う結論を出したという。

「最大の敗因は自民党のサボタージュだ。島根で勝てば総理が解散・総選挙に踏み切ると心配した自民党議員や公明党が、“負けたほうがいい”と考えて選挙に身を入れなかった。そのため組織票が動かなかった。衆院の補選は3選挙区ともに投票率が過去最低だったが、総理は、解散・総選挙を打っても組織票さえ動けば戦えると考えている」(前出・岸田側近)

 岸田首相には、自民党の組織票を動かす「奥の手」がある。それを発動していた。

 本誌・週刊ポストはそれを示す自民党の内部資料を入手した。

「前年度を上回る」を連発

 自民党組織運動本部団体総局が3月に作成した〈令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】〉と題するA4判31ページの文書だ。

 全国1000社以上が加盟する団体の事務局幹部が語る。

「自民党は300以上の業界団体を建設、農林水産、厚生、宗教関係など15分野に分類し、分野別に都内のホテルで総理や幹事長らが出席する『各種団体協議会懇談会』という陳情会を開いている。そこで各団体の代表が予算や補助金、税制特別措置の要望書を手渡し、予算概算要求の前や年末の税制改正の前には役所や議員会館に陳情攻勢をかけるわけです。

 そして自民党議員たちは新年度の前に、各団体に『あなたがたの要求をこれだけ実現した』と成果をアピールする。資料はそのためのものです。われわれ団体側は見返りに献金やパーティー券を引き受け、選挙になれば名簿を提供し、総理など党幹部の遊説には各団体から応援の人出を動員し、人も票もカネも出すわけです」

 文書は自民党の「票とカネ」を根幹で支える業界へのバラ撒きを示すものだ。

 内容を個別に見ていくと、日本医師会などは診療報酬引き上げ、建設コンサルタンツ協会は公共事業費の確保など、各団体が予算や補助金の増額、業界への税制優遇を求める要求のオンパレードで、ほぼ“満額回答”だ(リスト参照)。

「資料を見れば、岸田首相が今年を“総選挙イヤー”にする見通しを持っていたことがよくわかる。資料の中の『自民党の回答』欄には『前年度を上回る』という文言が連発され、今年は特に幅広い業界に例年以上の補助金を計上、税制優遇の措置が取られている」(同前)

 古くからの自民党支持団体として知られる日本行政書士会連合会は、「マイナンバーカード交付事務費補助金の確保」を要望し、自治体に約743億円の補助金が出た。なぜ行政書士会がマイナ普及を求めるかというと、自治体は地元の行政書士会にマイナカードの申請サポートや代理交付の業務委託を行なっており、行政書士には申請1件2000円、代理交付の受け取りも1件2000円が入る。その予算は国が自治体に出す補助金で賄われており、行政書士のビジネスに直結するのだ。

 政策の意外な舞台裏も見えてくる。

 この4月から、サラリーマンが社外の人と飲食した時に損金不算入(非課税)となる交際費が従来の1人当たり5000円以下から「1万円以下」へと2018年ぶりに引き上げられた。喜んだ“社用族”も多いだろう。政府は「物価上昇のため」と説明しているが、文書からは、サラリーマンのためではなく、自民党の支持団体である全国商工会連合会などが売り上げを増やそうと強く働きかけたことで実現したことがわかる。

 庶民には無縁なものも目立つ。経団連や日本暗号資産ビジネス協会は、企業が保有する「暗号資産」の税制見直し(優遇)を求めて実現した。

 経済ジャーナリストの荻原博子氏が指摘する。

「本来、政治は国民の生活を豊かにするものでしょう。しかし、この資料からは、自民党は国民に負担増を押しつけているのに、パーティー券を買ってくれたり、選挙を手伝ってくれる業界や団体には補助金や税の優遇で細かくサービスしていることがわかる。国民から召し上げたカネを業界にせっせと配っているのが自民党政治の実態なんです」

後編に続く

※週刊ポスト2024年5月17・24日号

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