安倍派幹部の下村博文・元文科相、「党員資格停止1年」処分でも「自民党」のノボリを立て街頭演説 自民地方議員の間では世代交代求める動きも

党員資格停止になったが、「自民党」のポスターやノボリを使う下村博文・元文科相(写真/共同通信社)

 裏金事件がこれだけ問題になったのに大した処分もなく、「次の選挙でも結局、政治は変わらないのでは」と諦めを抱く人もいるかもしれない。決してそんなことはない。問題議員たちを退場させれば、政治は変わる。有権者の間で「落選運動」が大きなうねりとなれば、選挙結果は変わるはずだ──。

【表4枚】禊ぎポーズで延命を図る「裏金大甘処分議員」4。他、説明責任を果たしていない「不祥事大物議員」7なども

 6月解散、7月総選挙の見方が強まるなか、自民党の裏金議員たちは「禊ぎ選挙」での生き残りに動き出した。

「お詫び行脚を連日しています」

 ブログにそう書いたのは安倍派幹部の下村博文・元文科相だ。裏金問題で「党員資格停止1年」の処分を受け、処分期間中に総選挙が行なわれれば自民党の公認を得られず、比例代表への重複立候補もできない。

処分後も「自民党」のノボリ

 ところが、下村氏が処分後の4月7日のブログにアップした写真には、地元の駅前で街頭演説する本人の側に「自民党 下村博文」のポスター看板が置かれ、高さ2mほどの「自民党」の緑色のノボリまではためいている。これでもかと自民党を強調しているのだ。

 その下村氏は地元の自民党区議たちとの会合で、こんな挨拶をしたという。区議の1人が戸惑い気味に打ち明けた。

「党員資格停止中の下村さんはもう選挙区の自民党支部長ではないはずなのに、区議らを集めた会合では、『今度の選挙は無所属になるが、自民党から刺客候補は出ないので、私が事実上の支部長として行ないますので、よろしく』という趣旨の説明でした。“1年後には元に戻るのだから事実上、今までと変わらない”とばかりに支部長として振る舞っているわけです。これでは本当の処分とは言えないでしょう」

 下村事務所に聞くと、「自民党東京都第11選挙区支部ついては、すでに支部長から外れています。地域支部である自民党板橋総支部ついても、支部長は退任します。形式的でも事実上でも支部長として活動すると説明した事実もございません」と回答し、区議の受け止め方と食い違う。

 だが、それならなぜ、下村氏は党員資格停止中に「自民党」のノボリを立てて街頭に立つのか。

 当選9回の下村氏は選挙に強く、最近4回の総選挙では大差で当選した。だが、今回は駅前でお詫び演説をしても通行人は完全無視状態。支持者も逃げているという。

「下村さんは選挙を見据えてポスターをどんどん貼っているが、原則として事前に許可を得た家にしか貼らないはずなのに、それが剥がされた。どうやら以前許可した支援者たちが今回は貼りたくないと剥がしているようで、事務所側はショックを受けている」(別の地方議員)

 今回の選挙が逆風のうえ無所属出馬となる下村氏は、選挙区で敗北すれば比例復活もない。

 下村氏をどうすれば落選させられるのか。前出の自民区議の話に重要なヒントがありそうだ。

「自民党の区議の間には、“いつまでも下村さんではない”と世代交代を求めて有力な都議に出馬を促す動きもある」

 来年7月には東京都議選が控える。“将を射んとすればまず馬を射よ”戦術で、下村氏を支援しようとする自民党の地方議員たちに、“それなら地方選で票を入れない”と「落選運動」を展開するのだ。

 通常の「選挙活動」が特定の候補者への投票を呼び掛けるのに対し、特定の候補者を“当選させてはならない”と呼び掛けるのが「落選運動」だ。運動を展開する期間や方法への規制が少なく、個人の呼びかけがきっかけでも、盛り上がった時の破壊力は非常に大きい。

 有権者とより身近に接する地方議員たちが落選運動に直面することで離反し、保守分裂の大混戦となれば、下村氏の禊ぎ当選を阻止できる可能性は高くなるのだ。

地盤固めに躍起の萩生田光一・前政調会長

 安倍派5人衆と呼ばれた幹部の中でも「役職停止」という大甘処分だった松野博一・前官房長官と萩生田光一・前政調会長は次の選挙は自民党公認で出馬できる。とくに萩生田氏は裏金問題では政治倫理審査会出席を免れ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題でも同教団との結びつきを批判された人物だ。

 その萩生田氏も地盤固めに躍起のようだ。有力支持者の1人が語る。

「萩生田さんと旧統一教会との繋がりがわかってイメージダウンしていたところに、今回の裏金問題で私を含めた八王子の支持者、地元市議らがごそっと離れています。萩生田さんは業界団体などの組織固めを急いでいるようですが、与野党対決になった今年1月の八王子市長選は自民票が逃げて萩生田さんが推した現職が大苦戦した」

 ここでもカギは地元市議だ。地元市議の間で評判が下がれば、“萩生田落選”が現実味を持つ。

 自民党が公表した裏金議員は82人だが、処分を免れた議員が46人もいる。その1人が稲田朋美・幹事長代理だ。

 安倍派では常任幹事を務め、派閥からのキックバック82万円に加え、派閥パーティー券の売り上げを派閥に納めずに「中抜き」して口座に入れていたカネが114万円あり、裏金は合計196万円だったが、幹事長の注意だけで役職辞任もせず、事実上のお咎めなしだった。

 本人は裏金について「管理不行き届きと、政治資金規正法の理解不足を深く反省している」と説明したが、弁護士である稲田氏が国会議員として最も重要視すべき政治資金規正法を理解していなかったとすれば責任重大だろう。

※週刊ポスト2024年5月3・10日号

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