「子ども・子育て支援金」徴収額発表までのやり口は「嘘つき」の謗りを免れない

 日本が総中流社会と言われたのは過去のこと。今では格差があからさまになり、拡大する一方だ。貧富の差が大きくなると社会が不安定になり、治安の悪化にも繋がることから格差の解消を目指すのは日本の、いや世界の共通認識のはずだった。ところが、税や社会保険に関わる新しい施策は、ことごとく格差の拡大を狙っているように感じられるものばかりだ。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、「子ども・子育て支援金」の徴収額をめぐる人々の複雑な思いを聞いた。

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「年間1万円以上ですよ。増税と物価高で使えるお金が減っているのに、また国に騙された気分です」

 北関東、共働きの30代夫婦。語ってくれた男性の年収はおおよそ400万円、妻は200万円ということで2026年度から開始される「子ども・子育て支援金」では年間で12000円ほど徴収される(概算、後述)。

「子どもは欲しいですがいまはいません。やっぱり収入を考えると躊躇します。でも、他所の子どもでも大事だと思います」

 国は「異次元の少子化対策」を進めて来たが成果は上がらない。対策しても若者たちはそれこそ「躊躇」する。肝心の収入、とくに中間層、中間下位層全体の収入「使えるお金」が増えるどころか減り続けているからだ。「失われた30年」のダメージは大きい。

「でも納得できるかといえば、できませんね、嘘つかれたことが許せない」

 彼の言う「嘘」というのは岸田文雄首相が「子ども・子育て支援金」の徴収額を「月あたり500円弱」(年間6000円弱)と言い続けていたことにある。

 しかし実際は違った。徴収が本格化する2028年度の被雇用者(被用者保険の加入者)が徴収される額の概算が発表されているので以下に記す。また「月あたり」のみというのはどうにも数字のマジックのように思えるので「年あたり」も記す。

年収200万円=年間4200円(月350円)
年収400万円=年間7800円(月650円)
年収600万円=年間12000円(月1000円)
年収800万円=年間16200円(月1350円)
年収1000万円=年間19800円(月1650円)

 あくまで概算なので前後するだろうが、国の試算としてはこのような計算として発表された。世帯でなく一人当たり(被保険者ごと)で徴収されるため、この夫婦の場合は年一万円、夫婦とも年収400万円なら年間16200円が徴収される。仮に子なしの二世帯や全員が現役世代で対象となる収入であるなら世帯単位では相当額の徴収がなされることになる。

月500円を超えないなんて嘘っぱち

 高齢者も深刻だ。千葉県で夫婦共働きの60代、清掃会社で契約社員として働く女性が語る。

「夫は再雇用で200万円ほど、私も200万円ほどの年収です。年間7800円なんてたいしたことないって思う方もいるでしょうが、出さなくていいものなら出したくないです。子どもも育て終えましたし、これからずっと働くことを考えたら、払うばかりですからね」

 彼女は「いま子どもさんのいらっしゃる方々のため、というのは理解しているのですが」とも語る。子育て支援とそれに伴う分担は大切だ、しかし増税に次ぐ増税に社会保険料の負担増、そして物価高に高齢者となったばかりの身には不安しかない、とも。

 この国の給与所得者約5000万人のうち年収600万円以下は77%を占める(国税庁、2022年)。その多くが共働きであり、こうした中間層から中間下位層の負担が大きい。

 都内で福祉関係の仕事に従事する40代の独身男性も「騙された」と話す。

「実家住まいですがうちは私も含めて両親と3人で年間20000円近く徴収されることになります。これ、独身と子持ちを憎ませるための分断だと思いますよ。月500円を超えないなんて嘘っぱちだった」

 みな口々にこの「嘘つき」「騙された」と語る。思えば1989年に消費税が導入されたときも竹下登首相(当時)は「嘘つき」だった。国民(ユーザー)の自賠責保険料を財務省が返すと言って累計6000億円借り入れて延々返さない、返しても完済は100年以上先とかも「騙された」だろう。そうした事例をいくつも思い出すが、今回の「子ども・子育て支援金」もまた相当にたちが悪い、まして岸田首相は給料が上がるから負担は生じない、とまで言い切った。

 契約社員で働く神奈川県30代男性が語る。

「給料が上がるって、全員上がるわけじゃなし、徴収しても給料が上がるから平気だろって何を根拠に言ってるんだろうと思います。自民党、支持して旨味のある層しかいないでしょう」

 実のところ、もう左右といったイデオロギーの問題でなく上下の問題になりつつあるのが日本の現実か。まさに上下の問題、コロナ禍と旧統一教会問題を経て筆者もこうした傾向に触れてきたが、いわゆる自民党派閥の政治資金パーティー収入による裏金問題とキックバック、その収入に伴う税金逃れ、なし崩しになった自民党議員に対する処分など、自民党も高齢議員を中心に保守の偽看板を降ろした「逃げ切り」に舵を切ったように思う。今回も子育て世代の支援より、中間業者の利権ばかりが取り沙汰される。

支援というなら普通に減税

 それにしても今回の「子ども・子育て支援金」に関してのやり口、筆者も本当に怒りを禁じ得ない。そもそも、嘘だったのだから。

 自身も子育て世帯、中堅出版社勤務の40代編集者もこう話す。

「支援というなら普通に減税してもらえればいい。年少扶養控除を復活させるとか、そのほうがよほどシンプルでしょう」

 財務省は絶対に一度手に入れた税収を手放したりはしない。減税しても、ちょうどその額できっちり別に徴収する。今回の「子ども・子育て支援金」も明らかにそうだ。

「あと、これまでもそうでしたが、この国の子育てに関する支援は複雑で、さまざまな業者や団体が入り込んでいます。そういう連中にお金を渡すための利権としか思えないです」

 増税と控除の撤廃が続き、この国の被雇用者は五公五民どころか六公四民ではという給与の半分近く、それ以上が税金と社会保険料で引かれている状態が起き始めている。

 筆者は昨年末『「使えるお金が減っている」昇給しても苦しい中間層世帯が生き残るために決断したこと』としてルポルタージュを書いたが、いわゆる「実質賃金」(収入に物価を加味した数字)が減っている。その上で今回の騙し討ちのような「子ども・子育て支援金」の「嘘」である。

 繰り返し書こう、岸田首相は2024年2月6日の衆院予算委員会でこう述べた。

〈拠出額は加入者1人あたり月平均500円弱〉

 まるで人頭税のようだが、それでも今回語っていただいた方々のように「この国の子どもたちの未来のためなら」と納得する人々が多かったように思う。少子化にどれだけ効果があるかはわからないが、みな何とかしようと思っている。その気持ちを、日本人の心を岸田首相は傷つけた。

 まさにみなさんおっしゃるとおりの「嘘つき」である。

 賃上げで国民負担率は上げないという趣旨の説明も噴飯ものであった。岸田政権、さすが支持率16.6%(時事通信、4月)である。

 また直接の担当大臣である加藤鮎子こども大臣も月300円だの、月400円だの、1000円超える人もあるかも、あくまで500円弱は平均、だのと迷走したあげく岸田首相と仲良く「嘘つき」になった(官僚のペーパー棒読みの予防線がまた姑息である)。「歳出改革により負担を軽減」するともしたが、具体的な話はない。ちなみに「こども政策担当大臣」が正式名だがまあ、いいだろう。こども大臣、こども店長みたいでお似合いに思う。いや、聡明なこども店長に失礼か。

 負担の割合も徴収方法(中間業者の利権も含め)も問題だらけの「嘘つき」増税になってしまった「子ども・子育て支援金」制度、こども家庭庁に行くと「こどもまんなか」と書かれたキャッチコピーがお出迎えしてくれるのだが、何が凄いって結局のところこの「子ども・子育て支援金」、肝心のこども置き去りでちっともこどもは「まんなか」にない。「じみんまんなか」とか「りけんまんなか」なんて揶揄するつもりはないが、子どもがまんなかでないことはこれまでの「異次元の少子化対策」同様、確かなように思う。

 せっかくアメリカに「国賓」として招かれたのに嘘つき呼ばわりのあげく「岸田やめろ」がX(旧Twitter)トレンド入りの岸田首相、それでもご満悦でバイデン大統領とのツーショットを見ると彼の脳内で「きしだまんなか」は確かなようだ。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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