視覚障害者へ「選挙公報」の音訳版、9市「配布なし」 埼玉の市議選

大井田弘子さんは前回の埼玉県議選で、川口朗読奉仕の会(あひるの会)が作った音訳CDを聞いて投票した=2023年3月9日午前11時14分、埼玉県川口市、西田有里撮影

 4月にある統一地方選で、候補者の政策や政治姿勢を知るための情報源となる選挙公報。視覚障害者にも情報を保障するために作られるその音訳版の配布が、埼玉県内でも広がっている。ただ、選挙があっても配布しない自治体もあり、視覚障害者は「公平性を考えても全自治体で配るようにしてほしい」と訴える。

 川口市に住む全盲の大井田弘子さん(62)は4年前、初めて県議選の音訳CDを聞いた。地元のボランティア団体「川口朗読奉仕の会」が地元の選挙区に立った9人の公報を全て読み上げたものだ。

 大井田さんはこれまでも、国政選挙や知事選では県が配布する音訳CDや政見放送で情報を得てきた。

 ただ、以前の県議選や市議選ではCD配布がないため誰が立候補しているのかすら分からず、家族や投票所の係員に読み上げてもらうしかなかった。「投票する以上は、公約を知ってから責任を持って投じたかった。周りにはあまりに情報が少ないので選挙には行かないと話す人もいた」

 そうした声に応えたのが、普段から市の広報などを音訳して市内の約75人に届けている川口朗読奉仕の会だった。4年前の統一地方選では県議選の川口市選挙区だけだったが、今回からは、定数42の市議選の公報も音訳する予定。大井田さんは「候補者が多いほど誰かに読み上げてもらうのも難しくなるし、頭に入ってこない。CDは自分の力で気になるところを繰り返し聞けるのでうれしい」と喜ぶ。

 視覚障害者にこうした情報を伝える方法としてはほかに点字があるが、読めない人も多くいる。

 4月23日投開票で市議選がある20市のうちでは、11市でボランティア団体などと自治体が協力し、音訳CDが配られる予定だ。うち5市が市議選の一般選挙では今回から始めるという。県選管も「告示日から選挙期日までの期間が短く、候補者数も多い」として県議選では配布していなかったが、今回から点字版とあわせて計約970万円の予算をつけ、外部の団体が作った県議選の音訳CDを配る予定だ。

 とはいえ、告示後に音訳し、郵送して手元に届くまでには時間がかかる。そのため、特に告示から投開票までが1週間と短い市議選では、工夫を凝らす自治体もある。

 鴻巣市選管は、事前審査時に立候補予定者から預かった公報を職員が告示前から吹き込む。川口、和光、熊谷、蓮田の各市は音訳CDを配布するのに加え、音源をホームページ(HP)で公開する予定だ。

 一方、朝日新聞の取材に対し、今回市議選のある20市中9市が音訳CDを配布しない予定と答えた。東松山市選管の担当者は「県議選でも始まり、求められる対応だと思う。ニーズもあると認識している」と話す。ふじみ野市選管は「具体的な声があがれば検討するが告示からの日数が短く、人員も不足している。予算もない」とした。

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