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【安倍政権考】東京新聞・望月記者も質問「首相が公邸泊→ミサイル発射」は本当か 調べてみると…

首相官邸に隣接する首相公邸の外観(酒巻俊介撮影)

 安倍晋三首相(62)が首相公邸に泊まれば、その翌日に北朝鮮がミサイルを発射する-。こんな噂が一部でささやかれている。これは北朝鮮が8月にミサイルを2回発射した際、いずれも前日に首相が公邸に宿泊していたことが根拠だという。だが、首相は今年1月から9月中旬までに公邸に計70回以上宿泊したが、15回のミサイル発射のうち、前日に首相が公邸に泊まっていたのは8月の2回を含めて4回にとどまる。今月15日朝のミサイル発射も首相が外遊から帰国中に強行し、この噂は的外れのようだ。
 「公邸に泊まった次の日だけ発射している。これは今後、政府が何も言わなくても首相動静を見て公邸に泊まると思ったら、次の日はミサイルが飛ぶのか」
 事前通告のない北朝鮮のミサイルが北海道の襟裳(えりも)岬上空を通過した2日後の8月31日。首相官邸で行われた菅義偉官房長官の記者会見で、東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者がこんな質問をぶつけた。
 さらに望月記者は「前夜にある程度の状況を把握していたとなると、なぜ事前に国民に知らせていないのか」「9月9日にまた発射するんじゃないかという情報があるが、前夜に泊まるのか」とたたみかけた。これに対し、菅氏はこう突き放した。
 「政権として万全の体制で国民の安全・安心を守ることが何か悪いことのように聞こえるが、政府としては常日頃から冷静に国民の安全・安心を守ることに万全を尽くしている」
 果たして望月記者が指摘するように、本当に公邸に泊まった次の日「だけ」、ミサイルが発射されているのか。確かに8月「だけ」調べると、首相が公邸に泊まったのは25、28、31日夜の3泊のみで、このうち25、28両日の翌朝にはそれぞれ北朝鮮からミサイルが発射された。
 だが、本紙で掲載している「安倍日誌」で今年1月からの首相の動向を調べてみると、首相の公邸泊と北朝鮮のミサイル発射は直接関係ないことがはっきりと見えてくる。首相は今年、9月14日までに公邸で計74泊した。内訳は次の通りだ。
 1月=5泊▽2月=9泊▽3月=14泊▽4月=10泊▽5月=7泊▽6月=12泊▽7月=8泊▽8月=3泊▽9月(14日まで)=6泊
 傾向としては、外国の要人を招いて公邸で夕食会を開いた夜や翌日早朝から国会出席などの公務が予定されている場合は公邸に宿泊することが多い。
 一方、北朝鮮は今年、発射直後に爆発したものや日本の排他的経済水域(EEZ)内に着水せず、日本の安全保障に影響がなかったものも含めると、9月15日までに15回のミサイル発射を強行している。だが、発射前日に首相が公邸に宿泊していたのは、8月の2回以外では6月8日と7月28日にとどまる。
 このうち7月28日は、首相は確かに前日は公邸に宿泊していたが、28日夕方を過ぎてもミサイル発射はなく、首相も東京・富ヶ谷の私邸に一度戻っていた。北朝鮮は同日午後11時42分にミサイルを発射し、首相は日付が変わった翌29日午前0時13分に私邸を出発し、官邸に戻って国家安全保障会議(NSC)を開いて対応を指示した。
 6月8日のミサイル発射は日本のEEZには着水せず、わが国の安全保障には影響ないものだった。この4回以外では、ミサイル発射前日の首相の宿泊先は私邸か外遊先だった。
 プロの新聞記者ならずとも、公開された上記のデータを調べれば事実はすぐに分かることだが、望月記者はそういう取材はしていないようだ。
 北朝鮮はミサイル発射のほかにも、9月3日に通算6回目となる核実験を行ったが、その前日の首相の宿泊先は私邸だった。核実験当日の3日朝はトランプ米大統領との日米電話会談のため公邸に入ったが、会談終了後は一度私邸に帰宅。昼に核実験の一報が入り、首相は午後に公邸に戻っている。
 政府関係者の一人は「いろんな情報があるので、ある程度の兆候は把握している」と明かす。ただ、兆候があったとしても最終的に本当にミサイル発射や核実験を強行するのかどうか、そしてそれがいつになるのかを事前に、かつ正確に把握するのは極めて困難だ。別の政府関係者は「兆候だけの段階で、国民に発表することなんてできない」と話し、政府として北朝鮮の動向に常に注意を払いつつ、国内で不要な混乱を招かないよう考慮している様子がうかがえる。
 ちなみに、望月記者が指摘していた9月9日は北朝鮮の建国記念日で、国内外の多くのメディアが同日前後のミサイル発射の可能性を報じていた。首相は8日夜にフランスのマクロン大統領と電話で会談した後、そのまま公邸に宿泊した。ただ、北朝鮮は9日にミサイルを発射せず、首相は昼に東京・銀座で書道展に臨んだ後、私邸に戻っている。
 こうした噂について、全国瞬時警報システム(Jアラート)になぞらえて「A(安倍)アラート」などと面白おかしく記事にしていた週刊誌などもあった。しかし、実際には首相の宿泊先にかかわらず、ミサイルが発射される可能性は常にある。政府高官は「公邸でも私邸でも外遊先でも、首相は指示を出せるし、連絡はできる態勢は常にとっている」と強調した上で「兆候が分かったとしても、いつミサイルを発射するかなんて、分からない。分からないからこそ、常に準備をしておくことが重要だ」と話した。
 われわれ国民も、根拠不明の臆測に振り回されることなく、一方で不測の事態がいつでも起こりうることを改めて認識し、万が一に備えて日頃から冷静に避難行動や経路などを確認しておく必要がある。 (政治部 大島悠亮)