神奈川・葉山保険金放火 被告夫「親戚からいじめ」

全焼した男性宅の跡地=平成29年11月、神奈川県葉山町(王美慧撮影)

 神奈川県葉山町で平成28年3月、義理の父親らが住む家に火を付けて火災保険金をだまし取ろうとしたなどとして、現住建造物等放火や同幇助(ほうじょ)などの罪に問われた石川玉華(ようか)被告(51)と息子の峰男被告(28)の裁判員裁判の公判は14日、検察側が玉華被告に懲役12年、峰男被告に同8年を求刑し、結審した。玉華被告は放火について認める一方、「保険金目的ではない」と主張。出廷した夫も「親戚(しんせき)からいじめられており、それが原因かもしれない」と証言した。事件の裏側には何があったのだろうか。
 公判で争われたのは、放火したのは人が居住する「現住建造物」に当たるか▽放火は保険金目的なのか-の2点。舞台となった住宅は放火の2日前の22日、ボヤに見舞われていた。
現住建造物か否か
 検察側はボヤの後、玉華被告らが埼玉県川口市の峰男被告宅に避難した一方、荷物の大部分は残されていたことなどから、修理などが済めば「住むつもりだった」と、住宅は現住建造物であったと主張。犯行動機についても、玉華被告が放火前、不動産業者に対して保険金で賄える範囲の「3千万円程度なら現金一括払いができる」と物件を探していたと明らかにした。
 また、玉華被告が確実に保険金を得るため、峰男被告に50リットルものガソリンを調達させていたうえに、家屋が全焼するためにまき方を工夫したと指摘。玉華被告も被告人質問で「2階からガソリンをまき、1階の各部屋にもまいた」と詳細に話しており、家全体が燃えるよう導いていた。
 玉華被告は放火から数時間後、夫に保険会社へ火災保険を請求するよう指示しており、検察側は「計画的犯行」と指摘している。
9年に来日して
 弁護側は動機について「親戚に家を取られそうになり、『取られるくらいなら燃やしてしまおう』と火を付けた」と保険金目的を否定。主に証人尋問によって主張の立証を試みた。
 証人尋問に立った夫は玉華被告と親戚の関係について「あまりよくなかった」と証言した。夫の証言からは、玉華被告と親戚の関係は最悪に近い状態であったことが見て取れた。
 親戚の集まりでは「玉華は邪魔だから部屋から出しておけ」。玉華被告が義母とトラブルになっていることを聞きつけた親族男性からは「お前なんか、この家から出ていけ」「中国人」…。
 玉華被告は平成9年に峰男被告を連れて中国から来日。日本でも不遇な環境に置かれていたというが、飲食店での出会いをきっかけに今の夫と再婚。放火した家も大工である夫が建てたものだった。夫は「(本当なら)一生、住んでいたかったと思う。自分が建てた家に『住みたかった』ともいわれていた」と振り返った。
拭えぬ不可解さも
 まさに「幸せの象徴」のような家に火を付けた玉華被告。「何が原因と思うか」と問われた夫は「親戚は玉華のことをいじめているような感じだった。それが原因なのかもしれない」と唇をかんだ。その間、玉華被告はひっきりなしに涙を拭っていた。
 一方、玉華被告の事件前後の行動には不可解な点も目立つ。検察側はボヤ前日、玉華被告が何の脈絡もなくアルバムなどの思い出の品を住宅から搬出していたと指摘。ボヤを「予見」していたかのような行動を取っていた。
 24日の放火後、自らが放火犯であるにも関わらず保険金を請求した理由については「放火犯であるとばれないように被害者を装うため」と説明したが、その後も保険金請求を続け、5月19日には東京のJR新宿駅付近でプラカードを掲げながら、保険金を支払わない保険会社に対する抗議活動に及んでいた。
判決は28日に
 さらに、玉華被告らの逮捕後、峰男被告の妻が取り調べに対し、放火前に両被告の会話で「保険金」「もっと焼かないと」といった言葉を聞いたと証言した供述調書も残っている。峰男被告の妻は公判で「覚えていない」を連発しており、裁判所が調書の存在をどれほど考慮するかも、判決内容を決める上での重要な要素となるだろう。
 一方の峰男被告は、犯行当日に玉華被告を現場まで車で運んだなどとして幇助の罪に問われた。峰男被告は玉華被告の頼みを断り切れずに手を貸したとされており、情状酌量の余地があるとみられている。
 だが、峰男被告は28年9月5日~10月23日までの間、中国人の仲間らと共謀し、他人名義の保険証を使用して携帯電話を契約するなど、現住建造物等放火事件とは無関係の6つの事件に関与したとして起訴されており、その全てを認めている。いずれの事件でも主犯的役割を果たしており、それらに関しては情状酌量の余地はない。
 最終意見陳述で玉華被告は「たくさんの人に多大な迷惑をかけた。更生して真面目に生活したい」と涙ながらに話した一方、峰男被告は携帯電話の事件などについて「みんなやって捕まらないから自分も大丈夫だろうという気持ちだったが、そんなことで得た報酬で飲む酒はうまいのか?」「暴力に暴力で応戦するのは文明社会のやることではない」などととうとうと約20分以上にわたって話し続けた。
 果たして裁判所はどんな判断を下すか。判決は28日に言い渡される予定だ。
【用語解説】葉山保険金放火事件
 平成28年3月24日午前2時ごろ、葉山町木古庭にある木造2階建て住宅が全焼したほか、周辺にも延焼。29年11月、県警は現住建造物等放火や同幇助などの容疑で、この家に住んでいた男性の次男と、次男の妻で埼玉県川口市の介護士、石川玉華被告、玉華被告の息子の峰男被告ら男女4人を逮捕し、横浜地検は玉華被告ら2人を起訴した。

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