発がん汚染物質“PFAS”が川魚から検出、アサリやタラにも…専門家が食の安全に警鐘

「神奈川県相模原市を流れる道保川ではある“発がん性物質”が高濃度で検出されています。今回、そこに生息する川魚を東京新聞と共同で調べたところ、魚からも刺身1切れの量で健康被害の恐れがある高い数値が検出されたのです」

そう話すのは京都大学大学院環境衛生学准教授の原田浩二先生。原田先生の言う発がん性物質とは、有機フッ素化合物(以下、PFAS/ピーファス)だ。熱や光に強く、水や油をはじく性質があるため、フライパンのコーティングや撥水加工のレインコートなどから、米軍基地での消火活動・訓練に利用する泡消火薬剤などに幅広く使われてきた。

20年以上にわたってPFASの毒性を研究している原田先生は、その危険性を次のように話す。 「PFASは’80年ぐらいから使われていますが、’00年ごろから自然界で分解されにくく、長くとどまる“永遠の化学物質”だと発覚し、健康リスクがあると判明。昨年12月1日には世界保健機関(WHO)のがん研究機関が、PFASのなかでも毒性の強いPFOAにはアスベスト並みに高い確証で発がん性があると発表しました」(原田先生、以下同)

現在は、とくに腎臓がんのリスクと心疾患の危険因子となる血液中のコレステロール値の上昇が認められている。さらに子供の発達の遅れや免疫力の低下の影響も。

「健康被害の指摘を受け、’10年を境にPFOAを含む一部のPFASは国際的に製造と使用が禁止されました。しかし、14年近くたっても消えずに、全国各地の地下水から国が定めた指針値50ng/リットルを超えた値が検出され続けています」

米軍基地やPFASを使用していた工場から染み出して汚染したと考えられる沖縄や東京の多摩地区などの地下水が代表例だ。

’23年12月に本誌が報じたように、神奈川県や兵庫県、静岡県など、全国各地の河川や地下水などで指針値を超えるPFASが検出されている。

「しかも、今回の道保川の魚の調査のように、汚染された場所では食品にまで高濃度で見つかるケースが出てきたんです。道保川の場合、約2km北に米軍基地や工業密集地帯があり、100~300ng/リットルのPFASが検出され続けています。ここの川魚のカワムツの汚染度は、肝臓に14万ng/kg、身の部分には2万9千ng/kgもの高濃度でした。これは魚の平均値と比べて約340倍(環境省調査)。体重50kgの人が刺身1切れ分にも満たない8gを食べるだけで、欧州の指標だと1週間に食べてもよいとされる値を大きく超える濃度です」

原田先生の調査などでほかにも食品から検出されたケースが全国にあるという。

「同様に、昨年は航空自衛隊浜松基地周辺を流れる新川の下流にある佐鳴湖の魚を調べています。ここでもやはり、カライワシやニゴイ、クロダイなどから検出されました」

海の魚からも検出されている。

「’17年には、日本の沿岸水域6カ所、北海道・青森県・岩手県・宮城県・鳥取県・島根県で漁獲されたタラの切り身を調べたところ、いずれも200ng/kg以上検出され、北海道沖の日本海側からは最も高い約600ng/kgを検出しています」

川の水と海の水が混じり合う場所に生息するアサリの場合も、濃度がやや高かったという。

「北海道、愛知県の渥美半島などで取れた食用アサリを調べたときも、約190ng/kgから1千700ng/kgを検出しています」

国産アサリの水煮やアサリご飯のもとが汚染されている可能性は?

「未調査ですが、調理をしてもPFASは減らないと言われているので、汚染された状態で口に運ぶ可能性は考えられます」

’20年6月に、全国で最も高濃度の汚染水が発覚した大阪府摂津市の野菜からもPFASが検出された。汚染源はPFOAを製造していたダイキン工業淀川製作所と考えられている。

「そこで、製作所に道路をはさんで隣接する家庭菜園で取れた野菜を調べたところ、じゃがいもやさといもから100ng/kg前後、なすからは300ng/kg超の量が検出されました。製作所近くで育てた野菜を食べている住民の血中濃度を調べると、かなり高い値でした。野菜を食べるのをやめてもらい、1年後に再度、血中濃度を調べると3割ほど低下していたので、やはり野菜から多く摂取していたと考えられます」

近年、原田先生が懸念しているのが、下水汚泥肥料の利用による土壌汚染の問題だ。下水処理場で発生した汚泥には、リンや窒素が豊富に含まれているため、肥料へのリサイクルが進んでいるのだ。

「この汚泥にPFASが混じっていることも多く、米国では農地が汚染された事例があります。そこで、昨年に米軍基地が多く汚染水も指摘されている沖縄県産や佐賀県産などの汚泥肥料を琉球新報と共同で調べたところ、やはり高い濃度で見つかりました」

つまり、未調査で汚泥肥料を使用すれば、知らず知らずのうちに土壌汚染につながる恐れがあり、そこで育てた野菜にも影響が出る恐れがあるということだ。

日本では食品の耐容摂取量など具体的な規制値はなく、調査や対策が進んでいないのが現状だ。では、自衛する方法は?

「料理や煮沸でPFASは取り除けないため、汚染がわかっている地域の魚類は食べすぎないように。なにより問題は、食品に含まれるPFASがどのような状況なのかわからないこと。われわれが安心して食べられるようにするためにも、国はより多くの食品を調査する必要があると思います」

今回、全国でわかっている「PFASが検出された食品や肥料」を下記にまとめた。確認し、できる限り自衛しよう。

【1】2017年、北海道沖の日本海側(タラの切り身から検出)

2015年から2017年にかけて日本の沿岸水域6カ所(北海道、青森、岩手、宮城、鳥取、島根)で漁獲されたタラの切り身を調査。PFAS濃度が最も高かったのが北海道沖の日本海側産で、次いで鳥取・島根沖の日本海、宮城、北海道沖の太平洋、岩手と続いた。「身近な魚としてタラを調べたが、ほかの魚種でも同様の値が出ることは考えられます」

【2】2017年、宮城県(タラの切り身から検出)
【3】2017年、鳥取・島根沖の日本海(タラの切り身から検出)

【4】2017年、愛知県の渥美半島(食用アサリから検出)

5カ所の地域(北海道、愛知県の渥美半島、日間賀島、京都府、熊本県)のスーパーで購入した食用アサリを調べたところ、1kgあたり約190ng~1700ngのPFASが検出された。最も高かったのは愛知県の渥美半島

【5】2017年、京都府(食用アサリから検出)

【6】2020年7月、大阪府摂津市(野菜から検出)

ダイキン工業淀川製作所に道路をはさんで隣接する家庭菜園で取れた野菜から検出。なす317ng/kg、さといも65ng/kg、じゃがいも124ng/kgが含まれ、製作所の近くで育てた野菜を食べている住民の血中のPFOA濃度もかなり高かった。「野菜を食べるのを控えてもらったところ、血中濃度も下がりました」

【7】2023年、沖縄県(汚泥肥料から検出)

沖縄県内の下水汚泥肥料を調査したところ、PFOSは3767ng/kg、PFOA937ng/kgの値が検出され、サンプルで調べた国頭村の自然土壌と比べてPFOS値は150倍以上の値。「土壌汚染を引き起こし、農作物に影響する可能性は十分にあります」

【8】2023年、佐賀県(汚泥肥料から検出)

沖縄県内の下水汚泥肥料調査でサンプルとして調べた佐賀県内の汚泥肥料から、沖縄県より高いPFOSが検出された。PFOSは3019ng/kg、PFOAだと66324ng/kgと非常に高い値が確認されている。「高濃度になった理由や原因は不明ですが、問題視するべき値です」

【9】2023年10月、神奈川県相模原市(川魚から検出)

相模川の支流にある道保川に生息する川魚のカワムツ、ドンコなどからPFASの一種PFOSを検出。最も高いのはカワムツの肝臓で1kgあたり14万ngという非常に高い数値。「食べるのを控えるべき値」

【10】2023年12月、静岡県浜松市・佐鳴湖(川魚から検出)

航空自衛隊浜松基地周辺を流れる新川の下流にある佐鳴湖に生息する魚介類、カライワシ、ニゴイ、クロダイなどからPFAS42~6120ng/kgを検出した。「習慣的に食べるのは控えたほうがいい。魚種によってはさらに高い値が出る可能性もあります」

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