自宅で使えて重症化予防…「コロナ飲み薬」がもたらすメリット

東京や大阪など19都道府県に出されていた緊急事態宣言が全面解除され、街や観光地ににぎわいが戻ってきた。東京都は、10月7日に新型コロナウイルスの医療提供体制の警戒レベルを最高度から2番目のレベルに引き下げた。これはじつに10カ月ぶりのこと。

深刻だった第5波の拡大もいったんの収束をみせるなか、さらにーー。

《米国メルク社が開発中の経口薬で、重症化リスク50%低下。国内でも年内供給開始へ》

そんな新型コロナウイルスの治療薬のニュースを目にして“コロナ前の日常”へ近づくことに期待を寄せる声も少なくない。

開発中の新薬とは、どのような薬なのか? 順天堂大学講師で薬学博士の玉谷卓也先生が解説する。

「新型コロナウイルスに感染して重症化すると、本来、体を守るはずの免疫システムが嵐のように暴走し、全身に炎症を引き起こす“サイトカインストーム”が起こります。現在までに医療現場で用いられている治療薬は、主にこの免疫の過剰反応を抑えるものです。いっぽう、最終段階の治験が進められているメルク社の『モルヌピラビル』は、新型コロナウイルスに直接作用して増殖を抑える軽症者向けの経口薬(飲み薬)。コロナウイルスが増殖するために不可欠なRNAポリメラーゼという酵素の働きを阻害することで、ウイルスが増えるのを抑制し、重症化を防ぐことが期待されています」

メルク社の日本法人は、年内中にもこの治療薬の特例承認を目指すとしている。実現すれば、どんなメリットがあるのだろう。

「ウイルスに直接作用する治療薬には、抗体カクテル療法とソトロビマブがありますが、どちらも注射か点滴による投与です。病院に行ったり、入院したりして医師が投薬する必要があります。これが、医療現場がひっ迫する大きな要因となっていました。しかし、飲み薬の場合、患者は通院や入院することなく自宅で服用することも可能。医療リソースの負担軽減につながり、第5波のときのように、自宅療養の患者が急変して死亡するケースも減少すると考えています」(玉谷先生)

メルク社が米国で行った臨床試験では、発症から5日以内の重症化リスクのある775人を、モルヌピラビルを服用したグループと偽薬を投与したグループに分けて比較。偽薬では入院や死亡した人の割合が14.1%だったが、飲み薬を使用した人では7.3%と重症化リスクが50%低下したという。

はたして、この新薬の登場は大きな一歩になるのか。日本より先にメルク社の飲み薬が承認される見込みのアメリカではどうだろうか? 米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学の内科医、山田悠史先生が語る。

「アメリカではすでに軽症者向けにモノクロナール抗体(抗体カクテル療法)が使われており、効果を上げています。飲み薬の登場で医療機関の負担が少なくなったり、患者さんの命が奪われるような機会を減らしたりする役割を担ってくれるだろうとは思いますが、大きな改革をもたらすと考えるのはやや早急でしょう」

■飲み薬の処方もまずは重症化リスクのある人に

山田先生が慎重な姿勢を崩さないのは、メルクの飲み薬には未知の部分が多いことが理由だという。

「数万人規模で臨床試験を行って安全性を確認したコロナワクチンと異なり、775人の調査だけではまれな副作用がどう出るかまったく見えてきません。とくにこの薬は、ウイルスが増える際に、遺伝子を複製するRNAに類似体を取り込ませて複製エラーをさせて、増殖を抑えるメカニズム。脅威になるような変異ウイルスを促進する懸念も、今後何万人と使用していくなかで起きないとも限りません。これから蓄積するデータを注意深く見ていくことが重要です」

さらに、使いやすい飲み薬なだけに、注意が必要なこともある。

「重症化リスクの低い人や若い人が“念のために飲んでおきたい”といってこの飲み薬が多用されるようになると、無駄に副作用を負う人が出てくる可能性もある。実際、たとえば40〜50代の女性で持病のない人ならば、この薬にお世話になることは今のところほぼないと考えていいでしょう」

国内で使われるようになっても、処方は当面は高齢者や基礎疾患がある重症化リスクの高い人に限られるようだ。しかし飲み薬の登場は、このコロナ禍を乗り越える大きな一歩になることは間違いない。

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