架空事業に補助金・融資4500万円、大分県はなぜ見抜けなかったのか?…「子ども難病ナビ」詐欺

大分地裁

 子どもの難病に関する国内外の医療情報を提供するシステム「子ども難病ナビ」を運用しているように装い、大分県などから計4500万円を詐取したとして、詐欺罪などに問われた元IT企業取締役ら2人の公判が大分地裁で行われている。公判では事業実態がないにもかかわらず、大分県のビジネスコンテストでの優秀賞受賞をきっかけに、県は補助金を交付し、投資会社なども投資、融資していた状況が浮き彫りになった。なぜ県は見抜けなかったのか。(山口覚智、田中浩司)

優秀賞受賞

 「世界中の難病に関する治療法や論文などを収集し、日本語に訳しコンパクトに提供する」――。同県臼杵市のIT企業「隼斗」取締役の木許宣明被告(50)が2017年10月頃、同社を訪ねた県出資の法人が運営する創業支援拠点施設職員の男性にパソコン画面を示しながら誇らしげに説明した。近くには代表取締役・毛利隼斗被告(40)の姿もあった。

 「難病ナビ」は、多言語に対応した検索システムで、世界185を超える医療情報データベース(DB)にアクセスできるとうたっており、将来性を感じた男性は、木許被告を知り合いの医師や首長らに紹介したという。取材に「(毛利被告が操作すると)英語や日本語の論文がすぐに一覧で表示され、だまされてしまった」と振り返る。

 木許被告らは17年8月に「隼斗」を設立。大分県ビジネスプラングランプリに「難病ナビ」を応募すると、19年3月に優秀賞を受賞した。地元紙などメディアにも大きく取り上げられ、脚光を浴びた。受賞をきっかけに20年2月には開発費として500万円、翌3月に1000万円の計1500万円の補助金を受け取った。

金融機関も

 今年5月にあった初公判での検察側主張によると、売り上げは全くなかったが、木許被告はコンテストで「世界中のDBにアクセスして医療情報を抽出でき、売り上げは1億円超」などと話していたという。

 また、授賞式で大分市内の投資会社の社員と知り合い、20年8月に同社から3000万円の投資を受けた。投資決定前には、同社側に対し、約30の大学から売り上げがあるような虚偽の一覧表を提供したり、「AI搭載システムが完成し、多数の病院などに情報を提供している」などとうそをついたりしていたという。

 検察側は両被告が「隼斗」設立後、うその内容が書かれていた事業計画書で、地元信用金庫からも1000万円の融資を受けたことも説明。詐取したとされる補助金などは役員報酬などに充てたと主張している。

 公判では、投資会社から3000万円を、県から補助金計1500万円を詐取したとされる詐欺事件について、木許、毛利両被告は起訴事実を認めている。

“お墨付き”

 県の補助金を巡っては、500万円交付前には、県は隼斗が提出した書類などをチェックし、「職員がシステムを確認した」とする。1000万円交付の際は、隼斗側の事業説明に対し、経営者や大学教授らが将来性、独自性などを審査。職員がシステムの稼働や会計書類なども確認したといい、県の担当者は「必要書類はすべてそろっており、難病ナビを操作しているところも確認した」と強調する。

 しかし、県の補助金交付が“お墨付き”の形となったケースも出ている。ベンチャー企業を長年支援してきた福岡市の経営コンサルタント会社代表の男性(70歳代)は20年頃、知人から「この会社を育ててやってください」と木許被告を紹介された。県が補助金を出したことなども知って「信用した」という。福岡での人脈拡大のため、木許被告に経営する会社の社外取締役の肩書も与えた。

 隼斗は23年8月、破産手続きの開始決定を受けた。男性は、自身の紹介がきっかけで出資した人もいるといい、取材に「こんなことになるとは。紹介した人には頭を下げて回るしかない」と話した。男性が木許被告に貸した500万円は返ってきていない。

 県の担当者は「結果的に架空の事業に公金を支出してしまい申し訳ない」としている。また、県は今年度のコンテストでは、審査の過程で、外部の専門家が事業所などの現地での聞き取りなどの調査を行い、経営状況も確認するとしている。

審査に専門知識を

  会計検査院元局長の有川博氏の話 「補助金の交付決定の際に、専門的な知識を持つ職員が的確な審査を行うべきで、補助事業の実施状況や効果がどのように出ているかについて把握してフォローアップする必要がある。交付決定する『入り口』、事業が進んだ『途中段階』の両方で入念にチェックすべきだった」

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