食べ物を無料で受け取れる“街角冷蔵庫” 苦しくても生活保護に頼れない… 生活困窮者を助ける命綱のリアル   

街角に立つ冷蔵庫。この中には肉や魚、野菜などが入っていて、登録した生活困窮者が週に2回、無料で中身を受け取れる仕組みになっています。なぜ、この冷蔵庫が設置されたのか。この冷蔵庫に込められた思いと、ここを訪れる人たちの事情を取材しました。

生活困窮者の命綱「みんなのれいぞうこ」を頼る男性

名古屋市昭和区にある建物の駐輪場に置いてある、ロッカーのようなボックス。そこに1人の男性がやってきました。男性は暗証番号を入力してカギを開け、中から袋に入ったものを取り出します。中身を男性に見せてもらいました。

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(みんなのれいぞうこを利用する男性)
「食べ物だけじゃない。すごくいっぱいある。あ!シャンプーも。ありがたい、すごくありがたい」

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街角に立っていたのは、その名も「みんなのれいぞうこ」。中には食料や生活必需品が保管されていて、生活困窮者は登録すれば週2回、中のものを取りに来ることができます。

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(みんなのれいぞうこを利用する男性)
「経済的には本当にどうにもならない。一般的な家庭と比べても(子どもに)してあげられないことはものすごく多い。それを我慢させていたりとか、もっと自由にやりたいことやらせてあげられたらいいなと思うけど。残念ながらできないのが現状なので」

51歳の男性は13年前に離婚し、シングルファーザーに。システム開発の仕事をしながら、男手1つで2人の息子を育ててきました。

(みんなのれいぞうこを利用する男性)
「ある日突然、子どもたちの母親が『子どもたちはよろしくね』と出て行った。母子家庭も父子家庭も、行政の法的なものはそろうようになってきたけど、(職場で)『子どもが熱を出して帰ります』と言うと『何で?』と聞かれて。そういうのがすごくしんどいなと」

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職場の理解が得られない中、男性はうつ病を発症し退職。今も働けない状態が続いています。

「子どもの将来を潰したくない」生活保護受給の壁

生活が困窮した人に対する公的支援として、生活保護がありますが…。

(みんなのれいぞうこを利用する男性)
「生活保護もずっと考えていて、保護課に相談に何回も行ったりしている」

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生活保護世帯の子どもが大学に進学するには「世帯分離」をしなければならず、子どもは自力で生活費など稼がなければなりません。

そこで生活保護には頼らず、様々な支援に頼っている男性。生活に欠かせないと無理をして持っているスマホには、炊き出しや子ども食堂の開催日時などがびっしりと記録されています。

男性が、中学3年の息子とよく来るというカレーの店も頼っている場所の1つ。中学生まではカレーが無料のためです。

(男性の息子)
「(お父さんは)頑張っているなという感じ。ありがとうって感謝はしている」

(みんなのれいぞうこを利用する・男性)
「恥ずかしい、そんな話直接しないからね」

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男性にとって、“みんなのれいぞうこ”は生きていくのに無くてはならない存在です。

(みんなのれいぞうこを利用する男性)
「(みんなのれいぞうこに)頼れるところは、がっつり頼る。所得が増えていくと手当が減っていくので、頑張ったら頑張った分が自分の所に戻ってきて、ゆくゆくは手当なしでもという形がありがたいと思うけど。現状、そんな甘いことを言ってられないのが世の中なんだろうな」

「貧困世帯が思った以上に多い」運営する女性が感じた現実

名古屋市昭和区や守山区など、市内7か所に設置されている「みんなのれいぞうこ」。事前に生活困窮の状況を伝え、利用者登録をすることで使えるようになります。運営しているのは行政や大きな企業ではなく、1人の女性。

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(みんなのれいぞうこを運営する安藤綾乃さん)
「大体3~4キロ分は詰めたいと思っている。開けたときに『あ、助かった』って思う感じ」

安藤さんは、以前は看護士でしたが退職。子ども食堂を運営する中で、貧困世帯が思った以上に多い実態を知り、顔を合わせなくても気兼ねなく支援を受けられる仕組みを作ろうと、おととし「みんなのれいぞうこ」を始めました。食材や生活用品は、すべて企業や個人からの寄付で、中身は毎回違います。

(みんなのれいぞうこを運営する安藤綾乃さん)
「『物がありますよ』というだけでは、ちょっと違う気がする。物は入り口でしかないので、一人一人の本質的に悩んでいるところとか、そこにひも付いて答えを一緒に探す」

「誰も助けてくれない」シングルマザーの苦悩

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別の日、1人の女性が“みんなのれいぞうこ”を訪れていました。村上香愛さんがこの日持ち帰ることができたのは、豚肉やにんじんなどの野菜。これを使って夕飯の支度です。

(みんなのれいぞうこを利用する村上香愛さん)
「きょうお肉もらえたよ」

CBC

呼びかける相手は中学1年の一人息子です。息子は小さい頃発達障害と診断され、コロナ禍で体調を崩して4年前から不登校に。シングルマザーの村上さんはフルタイムで働くことができなくなり、1人親家庭や障害者向けの手当を合わせても、ギリギリの生活です。

(みんなのれいぞうこを利用する村上香愛さん)
「無駄遣いをしているはずはないんだけども、お金が足りない。服なんか買わなければいいんだけども、安くてもいいから買わないと精神を保っていられない。誰も助けてくれないから。
どれだけ助けを求めても、助けてくれない。中には『母子(家庭)はみずぼらしい格好をして、貧乏な生活をしてろ』とイメージを持っている方も多いので。みんなのれいぞうこさんって、大変な気持ちを分かってくださって『大丈夫ですか?』と言ってくれる言葉が、私にはありがたかったです」

CBC

きょうの晩ご飯は「みんなのれいぞうこ」でもらった豚肉をふんだんに使った、厚揚げの肉巻きです。

(みんなのれいぞうこを利用する村上香愛さん)
「いつも(肉を)少なめに巻く、少しでも食材を残したいので…。だけどきょうは頂けたので、多めにごちそうで」

CBC

息子も肉がおいしいと食が進み、村上さんもホッとしていました。

今日も、街角に置かれたあの冷蔵庫の利用者が訪れています。行政が救えていない生活困窮者を支える街角の冷蔵庫は、貧困対策のありかたを改めて問いかけています。

CBC

CBCテレビ「チャント!」2月19日放送より

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