“レーベル遺伝性視神経症”で突如視力を失った社長…社員や家族に支えられ、現場に立ち続ける社長の思い

「レーベル遺伝性視神経症」は、遺伝子の変異で急速な視力低下などを引き起こす難病で、現在治療法はわかっていません。そんな難病を発症し、わずか3か月で両目の視力を失った社長がいます。突如視力を失い、絶望の淵に立たされながらも、社員や家族に支えられながら、懸命に前を向き続ける社長を取材しました。

見えない社長のために、社内には様々な工夫が

CBC

名古屋にある広告会社の一室。他の社員がパソコンで資料などを確認しながら会議を行う中、社長の遠藤隆一郎さん(52)の手元には何も置かれていません。目がほとんど見えないため、パソコンやメモが使えないのです。

遠藤さんは立ち上がり、自分が持っているペンの色を社員に確認すると、勘を頼りに、ホワイトボードにイベント会場のレイアウトを書き始めます。実は遠藤さんの目は、4年前まで普通に見えていたのです。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「(パソコンは)見てもしょうがないし、打てもしない。僕が持っているのは飲み物だけです。僕の頭の中を唯一表現するには、ホワイトボードで落書きのように書くしかない」

4年前、左目が見えにくくなったかと思うと、その後わずか3か月でほとんど見えなくなりました。検査の結果、難病の「レーベル遺伝性視神経症」と診断。遺伝子の変異により視神経が壊れてしまい、急速に視力の低下などを引き起こす病気で、治療法は分かっていません。

黒と白のコントラストだけは、ぼんやり判別できるという遠藤社長が社内で困らないよう、社員が様々な工夫をしています。例えば、社内の床には白いガムテープが貼られていました。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「世の中はほぼ白黒に見えるので、白というのがはっきりしていると見やすい。私が歩きやすいように、社員が白いガムテープを貼ってくれた。私のデスクまでたどり着ける」

また、給湯室の白い壁には黒いテープが貼られています。黒のテープの下には蛇口があり、手を洗うことができます。社内の自販機も工夫されていました。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「ここ(ボタン)にシールがついている。これは僕が飲むコーヒー。私が飲むものは印をつけておいてくれて、僕は手探りでこれだってわかる。みんなが“こうしたら僕が便利”ということを実践してくれている。本当にありがたい」

目が見えなくても、懸命に会社を率いていく重責と向き合う遠藤社長。社員からは…。

(社員)
「社長の頭の中にイメージがしやすいように説明をしなくてはいけないので、ポジティブに考えると説明が上手になるなと」

「常に前向きな発言をしてくれるポジティブで大きい存在」

絶望の中で息子から教えられた「やってみることの大事さ」

CBC

遠藤さんは、プライベートでは4人の子どもの父親。前向きでポジティブな遠藤さんですが、見えなくなった当初は絶望しかなかったといいます。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「子どもの成長が見えない、会社の成長も見えない。友達とおいしいご飯も食べられなくなった。俺このまま生きてても楽しいのか、と思った時期は正直あった」

そんな時、救いになったのが周りの支えです。友達・家族・会社の仲間に救われ、遠藤さんにとって1番の特効薬になりました。見えることが当たり前ではなくなり、そのありがたさがわかったといいます

取材した日、1人暮らしをしている長男の祐太朗さん(23歳)が実家にやってきました。一緒にテレビを観ますが、遠藤さんには白い画面しかわからず、音だけを聞いています。祐太朗さんが内容を説明して補っていました。

(長男・遠藤祐太朗さん)
「当時は本当に何も考えられなくて、信じられないっていうのが一番あった。目が見えなくなっていく父を間近で見ていくのは、相当な覚悟が要ると思った。兄弟の中で何回か目をつぶって生活してみる、例えば階段を上がるとか、靴を探すとか。それだけでもすごく大変。自分で生きているのを見て、すごいなと思う」

2年前、家族で温泉旅行をしたときの動画。卓球をすることになり、座って待っていようと思った遠藤さんに祐太朗さんは…。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「『いや、やるんだよ』と息子に言われて。息子に無理無理無理、って言ったがなんか乗せられてラケット持った」

ラケットを握って40分後、遠藤さんは打ち返すことができました。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「まさか当たると思っていなかった。目が見えないから諦めるんじゃなくて、やってみるって大事だなって」

祐太朗さんに、「ちょっと時間がかかりすぎ」とからかわれるも、動画の中には無邪気に喜ぶ遠藤さんの姿がありました。

「不自由じゃない、不便なだけ」見えなくても現場に立ち続ける

CBC

2023年12月、イベント当日。遠藤さんはイベント会場にやってきました。全体運営を任されている冬の花火大会です。遠藤さんは外でも白杖は使いません。いつも誰かの肩を持ちながら歩いています。見えなくても社長として、イベントが予定通り準備されているかどうかを確認。自分の目で確認したいという思いがありました。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「自分の足で確かめて触ってみると、自分がすごくほっとする、すっきりする」

入口でイベントのスポンサーを出迎える遠藤さん。相手の顔はもちろん見えていません。それでも、握手をしたり、ハグをしたりと、笑顔で相手とコミュニケーションを取ります。そして、イベントの花火が打ち上がると…。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「ぼんやりだが、白く光っているのは感じられる」

見上げる先に大輪の花は見えていませんが、音と振動と賑わいでイベントの成功を感じ取ります。終了後、遠藤さんは取引先の人たちの見送りに立ちます。

人が正面に来てもわかりませんが、相手から触れられたり、握手したり、ハグしてもらったりすることが本当にうれしく、ぬくもりを感じているといいます。目が見えなくなって初めて、人に頼ることで絆が深まることを知った遠藤さん。

(アドライブ・遠藤隆一郎社長)
「人は一人じゃ生きていけない。誰かの助けがないと、生きていけない。それを今、私は身をもって感じている。目が見えなくなっただけ、不自由じゃない、不便なだけ。下を向いていてもしょうがない」

目が見えなくなっても、常に前を向く社長の周りには、たくさんの絆がありました。

CBCテレビ「チャント!」1月30日放送より

ジャンルで探す