荒れる“保育の現場” やりがい感じても労働環境は過酷 深刻な保育士不足「自分の出勤簿が改ざんされるのを目にしていた」証言も

子どもの人格を否定する発言や、規定より少ない保育士で保育を行うなど、全国的に相次いでいる「不適切保育」。

一方で保育士自身も、世間からの厳しい評価、人手不足、賃金の低さなど、見合わない待遇に割り切れない思いを抱えています。

今、保育の現場で何が起きているのでしょうか?保育士の生の声を取材しました。

目が離せない子ども、手が空いたら事務作業…息つく暇もない日々

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愛知県名古屋市瑞穂区の「こすもす保育園」には、0歳から5歳まで115人が通っています。

1歳児クラスの「えんどう組」では、保育が始まって30分もすると、おもちゃを取り合って園児が泣き出してしまいました。泣いている園児をあやしながらほかの子の見守り。

ようやく泣き止んだかと思えば、その10分後にはまた泣き出してしまいます。おむつ替えも一日10回ほどあり、息つく暇もありません。

えんどう組の担当、保育士の上村幸那さんは…。

(こすもす保育園・上村幸那さん)
「きょうは登園が少ない。これから増えるかなと思う。大体この時間には10人くらいになるので、調整しながらやったり、(外に)来たい子は誘ったりしている」

一方、3歳児クラス「にんじん組」では、23人の園児を3人の保育士でみています。

子どもたちだけで遊べるようになるため、1歳児に比べれば手はかかりませんが、走り回ったり、高いところによじ登ったりするようになるため、けがしないよう常に目を配らなければなりません。

お昼ご飯の時間は、子どもたちに食事の楽しさを教えつつ、のどに詰まらせたりしないか、注意します。

こうして、1人でも大変な乳幼児の面倒を一度に大勢みながら、手が空いたら保護者への連絡帳、業務日誌など多くの事務作業も求められる毎日です。

(こすもす保育園・上村幸那さん)
「楽しいし、毎年違う子どもたちと出会えるのはなかなかない。保育士ならではの出会い」

(こすもす保育園・牧野舞さん)
「夢だった保育士なので大変なこともあるが、いつも子どもたちとたくさん笑って幸せに働いている」

「不適切保育」の裏にある“重い責任と低い待遇”

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やりがいを感じながら働く保育士たちですが、大きな責任と仕事量の割に、待遇は低い実情もあります。

(こすもす保育園・牧野舞さん)
「働き始めた時から『これだけしかもらえなかった』と9年間過ごしている。給料はずっと変わらないから『しんどいな』と思ったり。同期にも辞めた子がいて、『もう少し条件のいい仕事にしたい』という声をきく」

給料を全業種平均の約34万円と比べると、保育士は正規職員でも約27万円と、毎月約7万円少ないのが実情です。

国は育児支援として、保育園などの施設をどんどん増やしていますが、そもそもなり手が少ないため人手不足はますます進んでいます。

こうした中で起きている深刻な問題が、子どもを馬鹿にしたり、しかりつけたりする「不適切保育」です。

三重県桑名市のこども園では、子どもに給食を無理矢理食べさせたり、足を持って引きずったりするなど、園児への虐待ともいえる52件の不適切な保育が発覚。

2023年5月に子ども家庭庁が行ったアンケートで、全国の保育所で確認された不適切保育は実に931件、このうち97件が虐待と認定されました。

保育の現場が荒れている理由について、保育問題を研究する桜花学園大学の小原倫子教授は、仕事量に見合わない待遇などが保育士の人手不足につながっていると指摘します。

(桜花学園大学 保育学科・小原倫子教授)
「命を預かるとか、人間の最早期の発達に関わる仕事。給与面は配置基準同様、改善されるといいかなと願う」

「保育士が足りない」不正を隠すため出勤簿を改ざんする園も

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国は、保育士1人が受け持つ園児の人数を定めています。例えば、1歳から2歳児で6人となっていますが、これがフィンランドだと4人、イギリスでは半分の3人。日本は、保育士の負担がより大きいのです。

そして、そもそもこの配置基準すら満たせない園もあります。愛知県あま市で勤務していた保育士に実態を尋ねました。

(勤務していた保育士)
「保育士1人に対して、0~2歳児の乳幼児が10人。『配置基準としておかしいのでは』と市に相談」

0歳児保育の場合、園児3人に保育士1人となっていますが、男性が勤務していた園では、園児10人に対して保育士が1人だけ。2022年3月、男性の通報で行政による監査が行われましたが…。

(勤務していた保育士)
「自分の出勤簿が改ざんされるのを、目にしていた。配置基準を満たしているように偽装するために、僕を欠勤にした」

園は、男性の勤務表などを改ざんしてウソの書類を作りましたが、結局不正が発覚。改善の指導を受けました。

(勤務していた保育士)
「人数が足りないのはわかっていて、1人で10人みるのも当たり前。(園児の)かみつきやひっかきがあるときに、その子の面倒をみられない。(子どもに対して)申し訳ない気持ちもあった」

「自分の保育が間違っているのかも…」世間からの厳しい目に不安

保育士が足りない現状に対し、名古屋市は国の基準よりも多くの保育士を配置できるよう市独自の補助金を出してはいますが、それでも足りないのが現実です。

(こすもす保育園・上村幸那さん)
「できたら3対1や、2対1がいい。そうするともっと子どもたちのことを見られると毎回思う」

また、不適切保育への関心の高まりで“保育現場を見る目”が厳しくなっていることにも、不安を感じています。

(こすもす保育園・上村幸那さん)
「(園児と)向き合っていると夢中になっているので、『やめて』と言ってしまうことも。子どもと笑いながらやっていることも、『本当は間違っている』と言われたら『そうなのかもしれない』と不安になる」

現在と将来の日本を支える保育の現場を、どう改善していくのか。国が最優先で取り組むべき課題です。

CBCテレビ「チャント!」2023年11月6日放送より

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