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現職が世界的権威を逆転 阪大総長選の不透明感

大阪大の次期総長に、現職の西尾章治郎氏の再任が決まった。5月に総長選考があり、これまでの実績や運営の継続性が重視された形だが、学内の教授らによる投票で西尾氏は次点に甘んじていた。逆転劇の舞台となったのは、非公開で開かれた選考会議。議事録も各委員の見解も非公開という「密室」で何があったのか。選考の過程に関わる委員12人のうち、11人が取材に応じ、紛糾した議論の経緯を明かした。

3候補の争い

「面接、所信表明などの結果を総合的に判断した」。次期総長選考会議があった5月25日夜、予定より1時間半遅れで始まったオンラインでの記者会見で、同会議の鈴木直議長(地球環境センター理事長)はこう述べた。判断の理由をことさら強調した背景には、選考会議に先立って実施された学内の教職員による投票(意向調査)の結果がある。

次期総長の候補は複数いた。現職の西尾氏に加え、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った心筋シートの研究で知られる医学系研究科寄付講座教授の澤芳樹氏、生命機能研究科教授の仲野徹氏の3人だ。

意向調査の結果は、①澤氏346票②西尾氏263票③仲野氏98票だった。ただ阪大によると、それで勝敗が決まるわけではない。意向調査はいわば参考材料にすぎず、最終的には学内外の委員で構成する選考会議のメンバーがそれも含めて「総合的に判断」して投票し、次期総長を決めるためだ。

選考会議では西尾氏に6票、澤氏に5票が入り、1票差で西尾氏の再任が決まった。

ベールに包まれた選考

「大型共同研究は、国内の国立大では件数、金額ともにトップレベル。新たな形の産学連携でも大きな達成があった。量子情報や量子生命に関する拠点形成にも成功した」。西尾氏は再任決定後の会見で、1期目の成果について胸を張ったが、83票もの大差がついた事実は重い。

敗れた澤氏は取材に「大阪大学の未来に期待し、これからも応援していく」と関係者を通じてコメント。しかし、澤氏を支援した教員は「意向調査をひっくり返すなら、それなりの説明がいるはずだ」と憤りを隠さない。仲野氏も「選考会議は説明不足だ。このような評決になった理由は議長が責任をもって説明する義務がある」と主張した。

そもそも総長選考をめぐっては、多くの情報がベールに包まれている。

一連の手続きで外部に公開されているのは、候補者の氏名のほか、意向調査や選考会議の投票結果などごく一部。各候補の主張をまとめた所信表明書を閲覧できるのは教職員のみで、学生にも情報は開示されない。次期総長を最終決定する選考会議での投票についても、「各委員が評価項目ごとの点数を定めて投票を行った」(鈴木氏)としているが、具体的な採点方法などは明かされていない。

紛糾した会議

非公開の選考会議でどのような議論があったのか。産経新聞は、選考に参加しなかった1人を含む選考会議のメンバー12人全員にメールなどで取材を申し込み、11人から回答を得た。

複数の委員の証言などによると、午後1時半に始まった会議は意向調査の受け止め方をめぐって紛糾。議論は事務局の想定を大幅にオーバーしたといい、ある委員は「各候補の得票数について、原因や意味合いを読み込むべく、討議した」と明かした。

ただ取材に応じた委員の大半は、会議が公正だったとの見解で一致。「各委員が忌憚(きたん)のない意見交換を行った」「特定の委員が強権的に議論を引っ張ることもなく、フラットに議論ができた」などと振り返った。

しかし、議論の内容は非公開で、選考会議が健全に機能したかを外部から検証することは難しい。また、選考会議の半数を占める学外のメンバーは、現職の総長が任命権を持つ経営協議会の委員でもあり、水面下ではさまざまな臆測も呼んだ。

問われる真価

混乱は今も続く。一部教員が6月、選考過程について説明を求める質問書を選考会議に提出する事態に発展した。取材に対し、阪大は「議論の公開は委員への負担が大きすぎる」との認識を示すが、選考の透明化を求める声は高まりつつある。

近年、さまざまな分野で大学間の競争が激化している。文部科学省が創設を決めた「大学ファンド」もその一つになるだろう。研究開発への資金投入や若手研究者の支援を目的に、最大10兆円規模を積み立てる制度だ。世界のトップを見据えたビジョンと事業計画を示し、国が今後定める要件を満たせるかも含め、正念場を迎える。

西尾氏の任期は令和7年3月末まで。「(結果を)真摯(しんし)に受け止め、今後の経営に生かしていく」と語る西尾氏にとって、真価がより問われる2期目となる。(花輪理徳)

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