「セクシー俳優の真似を…」ボイトレ男性講師が“卑猥なレッスン” 被害男性は「上達するんだと思い我慢した」
生徒だった男性にわいせつ行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた大手ボイストレーニング教室「X」の講師だった男に対する初公判が11月7日、東京地裁(小坂茂之裁判官)で開かれた。
ジャニーズ事務所の創業者、故・ジャニー喜多川氏による性加害と同様、夢見る青年の弱みにつけこんだ事件。裁判では、被告人を「信頼し、尊敬していた」ために、被害者が「先生が言うのだから、上達するんだ、変われるんだと思い我慢した」との心情も明かされた。(ノンフィクションライター・高橋ユキ)
●「同意があった。抗拒不能の状態にはありませんでした」起訴されているのは、当時Xの人気講師だったという40歳の被告人。保釈されており、スーツ姿で法廷に現れた。髪の毛を後ろでひとつに束ね、前髪は切り揃えられている。マスクは終始つけたままだった。
起訴状によれば、Xの新宿校で講師をしていた被告人は2021年の8月、生徒だったAさん(当時22)が抗拒不能の状態にあることに乗じ、ボイストレーニングを装ってAさんの下半身を触るなどしたとされる。罪状認否では被告人は起訴状を手に、それを読み上げながら、認識が異なる箇所をひとつひとつ述べていった。
「『ボイストレーニングを装ってわいせつな行為をしようとして』というところ、わいせつ目的ではありませんでした。また『歌唱力を向上させるため必要なトレーニングであると誤信させ』これは誤信させていません。相手も誤信していませんでした。
『抗拒不能の状態にあることに乗じ』……これは、Aさんに関しては同意があった。抗拒不能の状態にはありませんでした」
弁護人は裁判官に「無罪のご主張でよろしいですか」と尋ねられ「そういうことですね」と返答した。
●「セクシー俳優の真似をすると抑揚が出る」証拠調べで採用され、法廷で読み上げられた被害者Aさんの調書からは、Aさんが被告人を人気講師として信頼していた様子が見てとれた。
「体験レッスンを経て、2019年から月2回のレッスンを受けるようになった。被告人は感覚的なことの言語化が上手で、人気講師の1人だったため、早めに予約が埋まる。指名料を支払って予約をしていた。被告人を信頼し尊敬していたので、アドバイスされて鼻の手術も受けた。その後『高音が出るようになったね』と言われてさらに信頼を強めた」(Aさんの調書)
こうして被告人からレッスンを受けるなかAさんは、2021年の5月から『抑揚をつける』『表現力をつける』『人前で歌うことの恥じらいをなくす』という“3つの課題”を与えられた。そして最初の課題である『抑揚をつける』ことに関して被告人はこう言ってきたのだという。
「セクシー俳優の真似をすると抑揚が出る」
被告人はAさんに、他にも同じようなレッスンをしている人がいることや、学校Xも被告人のこうしたレッスンを知っているということも告げたという。そのためAさんは、その言葉を信頼し、被告人からのこうしたレッスンを受けることで歌が上手くなるのだと信じたのだそうだ。
●「エロレッスン」と命名弁護側の冒頭陳述によれば、こういったレッスンのことを被告人は「エロレッスン」と呼んでおり「どのようにしたら、変化や表情が乏しい生徒が感情を込めて歌えるようになるか」を考えていたという。
「Aさんは声帯の筋肉が硬く、地声か裏声どちらかしか出せず、中間を出したいと言われていた。歌唱力向上のためカリキュラムを変更してほしいと言われていた。レッスン開始当初、被告人はいわゆるオネエキャラを売りにしたレッスンスタイルを取っていた。
下ネタや冗談の中で、いわゆるエロレッスンを『こういうのがある、やってみないか』と伝えた。これまでに断ってきた生徒もいる。被告人は当然、断った生徒にエロレッスンをするわけではなく、同意のあった生徒のみに行っていた」(弁護側冒頭陳述より)
こうして2021年6月、被告人は「セクシー俳優のような声を出せるような練習をしてほしい」と課題を与えたというが、「思うような成果が見られなかった」(同)ことから、同年8月、2回にわたる『エロレッスン』を行うことにしたという。
Aさんによれば、8月19日のレッスンでは「声帯の開け閉めの練習を行い、被告人が服の上から腹や下腹部をなぞってきた。下腹部に触れると声帯を絞めるように言われ、セクシー俳優のように快感を覚える表情をすることが必要だと言われた」(Aさんの調書より)ため我慢してレッスンを受けた。「本当に効果があると思っていた」(同)からだという。
そして次の8月26日には、被告人はローションを用いて下腹部を直接触りながらのレッスンを提案してきたのだそうだ。
「話を逸らそうとしたが、被告人はローションを使い手を動かしてきた。『何やってんですか、勘弁してください』と言ったが、ここまで先生が言うのだから、上達するんだ、変われるんだと思い我慢した。後日友人に打ち明け、家族にも相談し、警察に申告した……」(Aさんの調書より)
●「下腹部を触る必要は全くなかった」被告人は効果を感じているからこそ、Aさんにエロレッスンを施したという主張であるが、証拠として採用された『音楽大学教授への聴取結果』には、こうあった。
「被告人の行ったレッスンは歌唱力向上に必要なものではなく、下腹部を触る必要は全くなかった」
エロレッスンにわいせつな目的は本当になかったのか。公判では今後、Aさんの証人尋問が予定されている。
11/11 10:22
弁護士ドットコム