“除霊”と称して女性に性的暴行、出所者支援「NPO理事長」の言い分…「悪霊がついている」と脅し、裁判では同意を主張

東京地裁(2024年3月、弁護士ドットコムニュース)

都内のNPO法人の元理事長が、相談者の女性に対して性暴力を加えたとして準強制性交等罪で起訴され、現在、東京地裁(野村賢裁判長)で裁判が続いている。

NPO法人「マザーハウス」(東京都墨田区)は受刑者や出所者などの社会復帰支援を行う団体。自身も服役経験のある元理事長が2012年に立ち上げ、2014年にNPO法人化された。これまで講演会への登壇だけでなく、多くのメディア取材にも応じ、出所者が社会でふたたび生きていくことの困難さなどを伝えてきた。(ライター・高橋ユキ)

●「悪霊がついている、除霊しないといけない」

起訴状によれば「マザーハウス」元理事長・五十嵐弘志被告人(逮捕時59)は昨年(2023年)5月、相談者の女性に対し「悪霊がついている、除霊しないといけない」と申し向け、女性が抗拒不能状態となっていることに乗じて性交したという準強制性交等罪に問われている。

23年9月1日に開かれた初公判の罪状認否では「今は何もお答えできません」と黙秘の意志を示し、弁護人も「検察官から十分な証拠開示を受けていない中で意見を述べることはできない」と認否を留保した。今年2月の第3回公判では「女性とは同意があった」という主張に変わっている。

初公判で読み上げられた検察側冒頭陳述によると、被害者とされるのは実母への傷害事件で執行猶予判決を受けたAさん(被害当時25)。彼女は22年11月に事件を起こし、起訴後に宇都宮地裁で裁判が開かれていた。

当時、Aさんの実母は“娘への恐怖感を抱いており、もし執行猶予判決を受け釈放されても、同居は難しい”という意志を示していた。ところがAさんには実母以外に頼れる人がいない。そのためAさんの弁護人が、被告人に“Aさんの社会復帰後の支援”を依頼し、被告人はこれを了承したという。

弁護人とともに拘置所で面会した被告人はAさんに、自身も通算20年近く刑務所で服役していたことや、釈放後は「マザーハウス」が管理する部屋に住まわせることを伝えた。被告人はAさんの公判にも証人として出廷し「Aさんと実母は一旦距離を取った方がよい」と進言し、釈放時は迎えに行くこと、マザーハウス管理の施設に連れてゆき支援を行うことなど証言した。

●「悪霊がついているので精油を塗って除霊しなければならない」

そして23年5月10日、宇都宮地裁で執行猶予付きの有罪判決が言い渡されたAさんはその日に宇都宮拘置所から釈放された。Aさんの実母や弁護人、「マザーハウス」スタッフらとともに、被告人も拘置所まで迎えに行ったという。

Aさんは実母から「これからは五十嵐さんを頼るように」と言われ「マザーハウス」が管理する賃貸アパートの一室に身を寄せ、生活保護を受給することになった。事件はその日の夜に起こったと検察官は主張している。

引き続き冒頭陳述によれば、被告人はAさんとともに車で量販店に行き、Aさんの新生活のための布団一式、ドラッグストアでベビーオイルを買った。その後車内でAさんに、こう告げたのだという。

「悪霊がついているので精油を塗って除霊しなければならない」

車でアパートに戻ると、被告人もAさんとともに部屋に入ってきた。被告人はAさんを座らせ、ベビーオイルを塗った手で額に十字を書き、キリスト教の本を朗読して、Aさんにも朗読させた。さらに被告人はAさんを布団の上にうつぶせにさせ、その腰の上にまたがり、肩などをマッサージしながら「相当強い悪霊がついているので体が硬くなっている」と告げてキャミソールを脱ぐよう言った。

「あ、なんかきた。あなたの悪霊が乗り移っている。相当ひどいな。歴代の中でもひどい。悪霊がすごいついている」

などと言いながら、Aさんを仰向けにさせた被告人は腹部をマッサージしながら、胸を触ってよいか尋ねてきたという。さすがに除霊とは関係ないのではと思ったAさんは「いやです」と伝えたが、被告人は受け入れず「キリストを信じないと悪霊が取れない」などと告げながら性交したという。

「性交後、被告人は『体が重い。相当霊が乗り移った』と言って立ち去った」(冒頭陳述より)

●「性交渉の事実はあるが同意があった。準強制性交等罪は成立しない」

かつてインタビュー等で「窃盗や詐欺」などで約20年間服役していたと語っていた被告人、初公判では、強姦致傷などの前科3犯であることも明かされた。

第2回公判は弁護人が「検察官証拠の開示後に、それらを検討してからでなければ証拠意見を回答しかねる」と述べ数分で結審。第3回公判では弁護人が期日間整理手続きを求めたがこれは却下され、弁護人が同意した一部の検察官請求証拠が読み上げられた。それによればAさんが当時履いていた下着からは体液が検出されており、DNA型鑑定の結果、被告人と一致しているという。

この第3回公判終盤にあらためて罪状認否が行われた。被告人は「相手の方と同意の上で……」と述べ、弁護人も「性交渉の事実はあるが同意があった。準強制性交等罪は成立しない」と主張した。3月に開かれた第4回公判でも、弁護側が引き続き検察官請求証拠の多くを不同意としている様子が見られた。数名の証人尋問が行われることが決まり、この日もまた数分で閉廷した。公判はしばらく結審しそうにない。

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