コロナで急増「自作マスク」販売の注意点は? 特許権や著作権侵害にあたる場合も

編集部員にも親族から「自作マスク」が届いた(4月30日、弁護士ドットコム撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの品薄が続き、マスクを自作する人たちが増えている。デニム、綿、ガーゼなど、用いる素材やデザインはさまざまだ。自作したマスクを家族や友人などに送っているという人もいる。

手芸が得意な人の中には、手作りマスクをネットで販売するなど、腕をふるっているようだ。ちなみに「マスク転売規制」の対象となるのは、あくまでマスクの「転売」であり、自作のマスクを売ることは違反行為にはあたらないとされている。

しかし、自作のマスクを売ることに不安を感じている人もいる。弁護士ドットコムにも「布で作ったプリーツマスクを売りたい」と考えている人が「特許権を侵害するのではないか」と悩みを寄せている。

自作のマスクを売ることにより、特許権を侵害する可能性はあるのだろうか。また、本やネットのデザインをもとに作成した場合、著作権侵害となる可能性はあるのか。

●特許権侵害の可能性アリ? どうすればいいの?

岩永利彦弁護士は「特許権や著作権侵害にあたる可能性はある」と指摘する。そもそも、特許権を侵害するとはどういうことだろうか。岩永弁護士は、次のように説明する。

「特許権侵害とは、業としての特許発明の無許諾実施のことをいいます(特許法68条)。

『業として』というのは、もともとその字のとおり『ビジネスとして』という意味だと考えられます。そのため、その適用範囲は広くなっています。逆に適用範囲外は狭く、個人的・家庭内のものを除くというところでしょう。

そうすると、手作りのものであったとしても、他人に譲渡(無償であっても)などすれば、個人的・家庭内を飛び出すことになります。そのため、特許権侵害(誰かの特許権に抵触する可能性があるということ)となり得るのです」

自作のマスクが誰かの特許権に抵触するか否かを調べることはできるのだろうか。

「実質的には不可能といって良いでしょう。

たとえば、工業所有権情報・研修館のデータベースである『特許情報プラットフォーム』で検索項目『全文』に『マスク』を入れ、特許の調査をしようとすると、国内文献だけで836,283件も上がってきます。

この中には半導体業界で使われるフォトマスクの技術も含まれていると思われます。このような見当外れのものなどを除く必要があるため、国際特許分類というものを使うことになります。

詳細は省きますが、衛生用のマスクは2つの特許分類『A41D 13/11(保護用の顔面マスク。例:外科医用または汚れた空気中で使用するもの)』と『A62B 18/02 (マスク)』でほぼ網羅されています。

この2つの国際特許分類を用いると4098件となり、さらに登録されている特許だけに絞ると1640件まで絞れます。あとは特許公報とにらめっこです。

このように骨が折れる作業となりますが、専門の業者に調査を頼めば50万円から100万円もとられることはザラです。それゆえ、実質的には不可能ということになります」

では、特許権を侵害しないようにするにはどうすればよいだろうか。

「特許権の寿命は出願から20年です。昔からよくあるタイプのスタイルのマスクならば、仮に特許権があったとしてもすでに消滅しているでしょう。そのため、自由実施できると思います。

逆にいえば、素材やデザインに凝ったり、大手のメーカーの売れ線のマスクに寄せて作製したりすると新しい特許権との抵触の可能性が高まり、危ないともいえます」

●「著作権侵害」にあたらないのはどんなマスク?

ネットや本のデザインをもとにマスクを作成し、販売した場合も「著作権侵害にあたる可能性がある」という岩永弁護士。具体的に、どういうことだろうか。

「著作権の場合も個人的・家庭内使用は許されています(著作権法30条1項)。ということは、逆にその範囲外で売る場合などは、原則として著作権侵害(複製権侵害)となります。

ただし(1)ライセンスの許諾を得た、そもそも(2)著作物でなかった、(3)著作物だったけれども著作権が消滅した場合であれば、可能ということになります。

そのため、ネットや本のデザインが無条件の許諾ないしそれに相当するものであれば、上記(1)に該当し、販売もOKだと思います。

しかしながら、ライセンスの料金は無料だけれども許諾が必要という場合もあります。そのため、無料公開されているデザインだからといって、無制限に使えるとは限りません。よく確認した方がいいでしょう。

なお、(2)の場合は簡単なデザイン(白地に黒丸など)、(3)の場合は奈良の大仏やモナ・リザのデザインなどが該当します」 

●意匠権とブランドにも注意を

自作のマスクを売りたい場合、ほかにも気をつけるべき点はあるのだろうか。岩永弁護士は「意匠権とブランドにも注意が必要」と指摘する。

「特許権が内部的な技術的な特徴を把握する知財権であるのに対し、意匠権はいわば外部的な見た目を把握する知財権です。そして、意匠権も特許権同様に『業として』の無許諾実施が侵害となります(意匠法23条)。

上記で示した『特許情報プラットフォーム』の『意匠』において『意匠にかかる物品』に『マスク』を入れて検索したところ、1519件もヒットしました。やはり、意匠権の調査も骨が折れますので、昔からよくあるタイプのデザインを使うしかないでしょう。   ブランドについては、たとえばよく売れそうだからといって、有名な衛生メーカーである『花王』や『小林製薬』などの商標をつけて売ると、商標権侵害となることは明らかです。

他方、見栄えをよくするために、マスクとは全く関係ないブランドである『レクサス』や『アップル』などのマークをつけて売ったとしても、今度はブランド毀損ということで不正競争防止法違反となりえます」

自作のマスクを売ることは難しいと感じた人もいるかもしれない。しかし、岩永弁護士は「 あれもこれもダメだと言っているように思えるかもしれません。しかし、実はそうではありません。よくあるタイプのマスクを飾り気なく売る分にはほぼ問題なしということです」と指摘した。

【取材協力弁護士】
岩永 利彦(いわなが・としひこ)弁護士
ネット等のIT系・ソフトウエアやモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー 増補版」及び「エンジニア・知財担当者のための 特許の取り方・守り方・活かし方 (Business Law Handbook)」好評発売中。
事務所名:岩永総合法律事務所
事務所URL:http://www.iwanagalaw.jp/

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