東日本大震災から13年。3.11の死者・行方不明者は大半が60歳以上。シニアの防災対策、備蓄で最も重要なのは「災害用トイレ」

イラスト:macco
2011年3月11日の東日本大震災から、今日で13年を迎えます。地震や豪雨などの自然災害が頻発している近年。これを機に、もう一度家庭の防災準備の見直しを。自分でできる災害対策に役立つ記事を再配信します。

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地震や台風、豪雨などの自然災害が多発する日本に暮らす以上、防災対策は欠かせません。とくに、ひとり暮らしの高齢者にとっては、命を守ることにも直結します。今すぐできる準備について、専門家に聞きました(構成=島田ゆかり イラスト=macco)

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死者・行方不明者の多くは60歳以上

阪神・淡路大震災や東日本大震災、西日本豪雨による土砂災害など、甚大な被害をもたらした自然災害は、みなさんの記憶に深く刻まれていることでしょう。残念ながら、このような大きな災害が今後も起きる可能性は十分考えられます。そのうえ日本は世界の先陣を切って超高齢社会を迎えているため、シニアの防災対策が非常に重要になってきているのです。

ここで、少々ショッキングな数字をご紹介しましょう。実は、過去の災害で亡くなった方の多くが60歳以上というデータがあるのです。たとえば、阪神・淡路大震災での死者・行方不明者の6割は60歳以上。東日本大震災では死者・行方不明者の3分の2が60歳以上でした。西日本豪雨に至っては、犠牲となった方の7割が60歳以上という報告があります。

ではなぜ、シニアは被災時のリスクが高いのか。原因の1つは、健康な成人に比べて足腰が弱り、判断力も低下している場合が多いこと。次に、長年住み慣れた場所への過信。経験値から、「今回も大丈夫だろう」という思い込みにより、逃げ遅れるケースがあるのです。

なかでも深刻なのが、「災害関連死」です。地震による家屋の倒壊や土砂崩れ、津波などに巻き込まれて亡くなるケースを「直接死」と言いますが、災害関連死は避難後に死亡し、災害との因果関係があると認められたものを指します。直接死の割合が全体の1%程度に留まるなか、災害関連死は99%というデータがあるほど。

たとえば、避難所暮らしで持病が悪化したり、災害のショックにより心筋梗塞になったり。家の片づけ中に、疲労によって引き起こされた病気で亡くなった場合も含まれます。高齢者は、この災害関連死のリスクが極めて高いと言われているのです。一方で災害関連死は、事前の備えによって0を目指すことも可能ですから、ぜひ防災対策を習慣化してほしいのです。

モノを減らしてけがをしない部屋に

ではここからは、日ごろから準備できる防災対策についてご紹介していきましょう。

災害時に家の中でけがをする人の3分の2は、家具の倒壊とガラスの破片が原因と言われています。そのため、少なくとも家具の転倒防止とガラスの飛散防止対策はしておくこと。

すでに、タンスや棚が倒れないよう、つっぱり棒や家具の下に差し込む転倒防止プレートなどを活用している人も多いかもしれません。これらは1つではなく、2つ3つと組み合わせるとより強度が上がります。

窓ガラスや家具のガラス扉には飛散防止シートを貼ったり、扉が開かないようにロックをかけたり。また、食器や花瓶の下にはすべり止めシートを敷くなどの工夫をしましょう。

とはいえ、家中を防災仕様にして暮らすのは現実的ではありませんよね。そこで推奨しているのが、「1日の3分の1の時間を過ごす場所」を防災仕様にすること。

多くの人にとって、それは寝室なのではないでしょうか。寝ている時は無防備ですから、不要なモノを置かないのが鉄則。どうしても家具を別の部屋に移動できない場合は、ベッドや寝床の上に倒れてこない場所に置くように工夫してください。窓には飛散防止シートを貼り、生活に必要な最低限の備蓄品を袋に入れてそばに置いておくとよいでしょう。

モノを減らすのは防災対策の観点から見てとても重要ですが、どうしても減らせないという人は、使わなくなった子ども部屋などを納戸代わりに使用するのも手。モノはその部屋に集合させて、普段の居住スペースはスッキリさせておく。逆に、災害が起きた時に生活できるスペースとして、何もない部屋を1部屋だけ用意しておくのもいいと思います。

私が備蓄で最も重要だとお伝えしているのが、「災害用トイレ」です。排泄を我慢しなければならないという意識があると、水分を摂らなくなり、脱水状態におちいりかねません。体調悪化にもつながりやすいため、最低でも1週間分は用意しておきたいところ。

次に必要なのは、スマートフォンを充電する「モバイルバッテリー」です。現代社会では、スマホは貴重な情報源となり、助けを求めたり、家族と連絡をとったりする時にも必須。充電ができると大きな安心につながります。

食料や水は、普段の生活で消費しつつ、少し多めにストックする「ローリングストック」の習慣を。被災後の生活が不便でないようあれこれ備蓄しておくのが理想ではあるものの、完璧を期すのは至難の業。

現在の生活を振り返り、「これはないと絶対に困る」というモノだけに絞って用意しておくとよいでしょう。自身で用意するのが難しい場合は、家族や親類、友人に相談して揃えても。介護を受けている人なら、ヘルパーさんに頼んで準備してもらいましょう。

無駄足でも安全のため避難を

最後に、「避難」についてお話しします。避難と聞くと、体育館などに身を寄せるイメージがあるかもしれません。けれど、避難所に行くケースのほか、自宅に留まる「在宅避難」があります。避難をするタイミングも、「地震災害」と、台風や洪水などの「風水災害」では異なることを覚えておきましょう。

まず、地震は前触れなく起こるため、事前に避難することはできません。一方の台風や水害は予測できるため、危険が迫る前に避難することが可能。ここで重要になるのが、「ハザードマップ」の事前確認と、「避難のタイミング」です。

ハザードマップとは、災害による被害を予測し、その範囲を地図化したもの。自宅がある場所は浸水や土砂災害のリスクがあるか、避難場所はどこかなどがわかるようになっています。大雨や土砂災害などから身を守るには、このハザードマップが非常に有効ですから、見たことがないという人は、お住まいの自治体のHPなどで必ず確認しておきましょう。

次に、避難のタイミング。災害が起こると、テレビなどで警戒レベルが表示されますが、「どのタイミングで避難すればいいの?」と悩む人もいるでしょう。高齢者の場合は、「警戒レベル3」が出たら、安全な場所に避難することと、2021年に定められています。

警戒レベル3は、風雨が強くなる前に出されるため「避難所に行っても誰もいなかったらどうしよう」「まだそんなに雨は降っていないのに……」と躊躇する人がいるかもしれません。しかし、たとえ無駄足だったとしても、この判断が非常に重要ですから、必ず守ってください。

加えて、高齢者の防災対策として重要なことは、日ごろの健康管理と、近所の人とのコミュニケーションです。健康か否かは、被災後の高齢者にとって「生死を分ける」と言っても過言ではありません。近所との交流はひとり暮らしならなおさら必要です。災害時に「Aさんがいない」と捜してもらえますし、被災後に助け合える知人がいることは心の支えになるでしょう。地域の集まりなどには、積極的に顔を出すことをおすすめします。

備えあれば憂いなし。シニアの防災は、準備しているといないとでは、大きな差が出ることを覚えておきましょう。

こんな時どうしたらいい?Q&A

Q1 自宅に留まるべき?避難するべき?避難のタイミングが知りたい

基本は、自分が住むエリアに風水害の「警戒レベル3」が出たら、ためらわずに水害時の避難場所へ。ただし、ハザードマップで自宅が浸水・土砂災害のリスクのない場合は、自宅に留まることも可能です。

また、風水害には、集会所や、市区町村が指定した避難場所など自宅から離れた場所に避難する「水平避難」と、マンションの上階などに避難する「垂直避難」があります。状況によって判断は分かれますが、これらの選択肢があることを覚えておきましょう。

地震の場合は、揺れが収まった後に、いったん安全に過ごせるスペースに移動を。家の築年数が古い場合や耐震補強をしていない場合は、余震で倒壊の恐れがあります。危険だと判断したら、避難所に移動することをおすすめします。

Q2 被災後、自宅で過ごす場合、何に気をつければいい?

ライフラインが止まっていなければ、できるだけ規則正しい生活を送りましょう。被災後の高齢者にとって最も重要なのは、健康を維持することです。食事をしっかり摂り、適度な運動をすることも大事。

食事はできるだけ温かいものを。冷たいものは、免疫力を低下させ、感染症などにかかるリスクが上がります。また、動かないことで血行不良や低体温症などにおちいるリスクも。

加えて、心の健康にも気を配りたいところ。ひとり暮らしの場合、孤独や不安により不調をきたすこともあるため、気兼ねなくおしゃべりできる知人や隣人と過ごす時間をもちましょう。

震災後は残念ながら盗難などが増える傾向にあります。戸締まりをきちんとして過ごすようにしてください。

Q3 避難所暮らしを余儀なくされたら、何を持っていくべき?

水や非常食のほか、持病がある人は薬やお薬手帳、防寒具を持っていくとよいでしょう。可能なら災害用トイレも。

シニアはとくに、「口腔ケア」が重要です。避難時の歯みがきは、細菌などが体内に入るのを防ぐのに有効で、感染症対策になります。入れ歯の人は、入れ歯洗浄剤があると安心でしょう。

自宅が倒壊していない場合は、避難所と自宅を行ったり来たりするケースがほとんど。様子を見ながら、衣類やその他必要なモノを取りに帰ることもできます。通帳や印鑑は緊急避難時にはあまり重要ではありません(ただし留守中の自宅の盗難には注意が必要)。

ひとまず避難する時には、重い荷物を背負わずに最低限のモノだけ持ち避難所に向かいましょう。

Q4 最低限備蓄しておいたほうがいいモノは?

先にもご紹介しましたが、最優先で用意したいのは災害用トイレ。トイレが不衛生になると感染症のリスクも上がりますし、高齢者は、水分不足から心筋梗塞や肺炎などの重大な疾患を引き起こしかねません。

実は、災害関連死の多くは脱水が原因というデータも。食事量が少なくなる災害時は、いつも以上に水分が不足しがち。塩飴や梅干し、経口補水液があれば脱水の予防になります。

モバイルバッテリーは前述のとおり。薬を常用している人は、医師に相談して備蓄分を用意しておくとよいでしょう。

Q5 災害に備えるなら、どんな寝室が理想?

転倒の危険がある棚やタンスなどがなく、モノがほとんど置いていない状態であること。窓ガラスには飛散防止シートを貼り、布団やベッドは窓から離れた位置に。近くにはスニーカーなど、履きやすい靴を置いておくとよいでしょう。

壁掛け時計や吊すタイプの照明器具は凶器になる場合があります。時計は置き時計にし、照明は天井にはめ込むタイプのものを。

外に出られる動線を確保しておくことも大事です。ハザードマップ上で水害リスクのある家の場合、危険な日だけは2階で寝るなどの対応をしてください。

最近は、リフォームをする際に、1部屋だけ耐震強度を上げて「シェルター化」するケースも増えてきました。寝室のみ耐震強度を上げておくのも手でしょう。

Q6 防災グッズはどこに置けばいい?

つい家の隅に追いやられがちな防災グッズや非常袋。いざという時に見つからない、取りに行けないのでは意味がありません。私がおすすめしているのは、玄関に箱型の椅子を置き、その中に入れておくこと。

靴を履くために玄関に椅子を置いている人も多いと思います。この椅子を箱型収納タイプに替えるだけで、収納場所になります。玄関にあれば、持ってすぐに逃げられるという利点も。

食品類や水などはローリングストックとしてふだんの置き場所で構いません。ただし、水害リスクのあるエリアに住んでいる人は、2階など浸水被害を受けにくい場所に置いておくほうがよいでしょう。

寝室が在宅避難場所になるようなら、災害用トイレ、経口補水液、水、食料などを、玄関と分散させて、置いておいてもよいと思います。

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