照ノ富士が3場所ぶり7回目の優勝!37歳の玉鷲は通算連続出場を1426回に。聡ノ富士は45歳で切れがいい弓取式。励みになるし拝みたくなる
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結びの一番まで待機
大相撲夏場所は、休場明けの横綱・照ノ富士が3場所ぶり7回目の優勝を果たした。
後半戦は大混戦だったが、千秋楽は、3敗で照ノ富士と前頭4枚目・隆の勝が並び、4敗に小結・大栄翔と前頭12枚目・佐田の海が控えているという形に絞られた。
しかし、隆の勝が佐田の海に負けて4敗となり、大栄翔は前頭8枚目・志摩ノ海に勝ち4敗を保った。そのため、大栄勝、隆の勝、佐田の海の3人は、照ノ富士が負けて4敗になった時のため、結びの一番まで待機することになった。どんな心境で、何をして待っているか細かく知りたかった。
4人による優勝決定戦になる、と期待した相撲通の人は少ないだろう。
照ノ富士の対戦相手は、肩か腕か胸を痛めているらしく昨日負け越しが決まった大関・御嶽海である。案の定、照ノ富士は圧倒的な強さで、御嶽海を寄り切った。
「戦後初の大関全員の負け越し」は回避
照ノ富士は、優勝賜杯を手にした後の土俵下のインタビューで、「横綱になった以上、(良い)成績を残さなくてはならない」とその責任を語っていた。
照ノ富士は初日に大栄翔に敗れ、6日目に前頭3枚目・玉鷲、8日目に隆の勝に負けて、前半調子が悪そうだったが、後半は力がみなぎってきて、さすが横綱だと思った。
殊勲賞は大栄翔(5回目)と隆の勝(初)、敢闘賞は佐田の海(2回目)が獲得した。
結びの前の7勝7敗の貴景勝と5勝9敗の正代の対戦は、物言いがついたが、貴景勝の勝ちとなった。貴景勝の根性により、「戦後初の大関全員の負け越し」という不名誉な記録は残さずにすんだ。
今場所残念だったのが9勝していた前頭6枚目・宇良が足首の怪我で14日目から休場したことだ。12日目、貴景勝は宇良をのど輪で土俵際まで追い詰めたが、宇良が回り込んで貴景勝の後ろで体を回転させて空中にいて転ばなかった。
その間に貴景勝は土俵から足を出してしまった。物言いがついたが、結果は宇良の突き落としの勝ち。宇良には「空中回転技」というウラ技があるようだ。今場所は技能賞の該当者がいなかったので、宇良に獲得してほしかった。
今場所は物言いが多かった。それだけ力士の実力が拮抗しているようで面白かった。
そして今場所は勝負審判の一部入れ替えがあった。審判として土俵下に坐った二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)の姿は迫力があった。しかし、NHK大相撲放送で二所ノ関親方のハイトーンで軽妙な解説が聞けなくなったのが残念だ。
伝統美は大相撲の力
新しく審判となった粂川親方(元小結・琴稲妻)は、今場所は何度も物言いの説明をしていたが、短い説明なのでその口調の魅力が出ないのが残念。大相撲放送の時は、しみじみと諭すような口調で、その声と口調で説教をされたら、「私が悪うございました」と土下座してしまうと思いながら聞いていた。
逆に、審判をしていた親方が放送の解説者として登場した。
9日目に登場した高田川親方(元関脇・安芸乃島)は力士の時、金星16個を獲得したことで有名だ。弟子の指導について、「いま、パワハラとかで愛のムチの指導ができない。(力士は)自分で戦って、自分で切り開いていくしかないのです」と語っていた。
相撲部屋での親方の指導、弟子の鍛え方も変わっていくのだろう。
しかし、変わってほしくないものもある。かなり前だが国技館に相撲を見に行った時、会場に入った外国人の女性二人が「ワァオオッ!」と言って、土俵、行司の姿、力士、電光掲示板の文字という異空間の雰囲気に騒ぎ出し、2階席の通路に立ち尽くしてしまったのである。私の後ろにいたオッサンが「見えないぞ、座れ!」と何度も叫んだが、日本語が通じず、女性たちには応援の声だと誤解されていると私は思った。
横綱の土俵入り、力士の髷、化粧廻し、行司の装束などなど、伝統美は大相撲の力だ。混戦になろうとも、鍛え方が変わろうとも、その伝統美は変えてほしくない。
話は今場所に戻るが、5日目、37歳の玉鷲は通算連続出場を1426回として元関脇・高見山を抜いて歴代4位となった。今場所も若々しくて9勝6敗と勝ち越した。
弓の動きの切れがいい弓取式の聡ノ富士は45歳である。相撲界では高齢になる力士が活躍していると、私は励みになり、その姿を見ると拝みたくなる。弓取式は放送時間内に映らないことも多いが、たまにテレビ画面に映ると拝んでいる。もちろん玉鷲のことも15日間「頑張って」と拝んできた。来場所も拝むつもりである。
05/23 13:00
婦人公論.jp