認知症ってどんな病気? 匂いがわからない、出不精は黄色信号。高血圧、糖尿病も高リスク。知って備える6つのQ&A

イラスト:浜野史
昨今、さまざまなシーンで「認知症予防に効果あり!」という謳い文句を見聞きします。しかし科学的に信頼性の高い予防法は、まだ限られたものであるのが現実。ここでは、認知症予防研究の第一人者である浦上克哉さんから、基本的な知識を得て、病の全貌を知ることからはじめましょう。(構成=島田ゆかり イラスト=浜野史)

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【図解】「3つの習慣」でカバーできる12の認知症発症リスク

Q1. 認知症とはどのような病気ですか

A1.日常生活に支障をきたしたら、すでに症状ははじまっています

認知症とはさまざまな認知機能が低下する病気で、「日常生活に支障がある状態」と定義されます。9つある認知機能──「近時記憶」「見当識」「視空間認知機能」「注意機能」「作業記憶」「計算力」「思考力」「遂行力」「判断力」のうち、多くの人が最初に支障をきたすのが「近時記憶」。水道の流しっぱなし、ガスコンロの消し忘れなどがこれにあたります。

次に「見当識」障害が表れ、時間や場所、人を認識しにくい状態に。そして「視空間認知機能」が低下し、車庫入れ時に車をぶつけたり、椅子に正しく座れなくなったりします。さらに病状が進むと意欲が低下。感情がコントロールできなくなって暴言を吐くことも。徘徊がはじまるケースもあります。

人によって症状の出方や進行のスピードは異なりますが、一般的にこのような段階を踏みながら、徐々に進行していくと思ってよいでしょう。

Q2 予防は、いつからはじめるとよいですか

A2.軽度認知障害(MCI)か、その前の段階で予防すれば、発症を遅らせることができます

認知症になる脳が変化をはじめるのは、発症する20〜30年も前から。特に患者数の多いアルツハイマー型認知症の場合、「アミロイドβタンパク」というタンパク質の蓄積が原因とされており、脳にゆっくりと溜まっていきます。無症状の時期が続き、アミロイドβタンパクからリン酸化タンパクという物質が出はじめると、脳の神経細胞が壊され認知症を発症。残念ながら、現在の医学では一度発症した認知症を完治させることはできません。

ただ、進行のスピードは環境に左右されます。家族の理解とサポートがあり、認知機能が衰えても安心して暮らせる人は進行が遅く、逆に家族に怒られたりするなど不安の多い環境にいると、早く進行します。また認知症の初期段階で治療をはじめれば、進行をゆるやかにすることができます。

これは予防にも同様のことが言え、認知症リスクが高い生活習慣を改善していけば、発症を抑えたりゆるやかにしたりできるのです。特に私は、認知症の一歩手前の状態である軽度認知障害(MCI)で予防することに力を入れており、この段階での取り組み次第では認知症の発症を遅らせることができると考えています。

Q3. 認知症かどうかを見極めるサインはありますか

A3. 出不精になったら、黄信号と考えましょう

加齢によるもの忘れなのか、認知症を発症したのか。家族のことであっても、自分のことであっても、見極めが難しいですね。人の名前が出てこない、3日前の夕飯を思い出せない……といったもの忘れは、誰にでもよくあること。そこで認知症かも、と疑うのは早合点と言っていいでしょう。何かのきっかけで思い出せたなら、加齢によるもの忘れです。

私たちの脳には大きなデータベースがあります。脳内の膨大なデータ(人の名前など)の中からひとつの正解を引っ張り出す作業は、加齢とともに時間がかかるようになるものです。一方、認知症の場合はデータベース自体が不具合を起こしているので、もう引っ張り出すことができません。つまり、思い出すことができないのです。

認知症かどうかを見極めるサインとしてはもうひとつ、「以前に比べて出不精になったか」を意識してみてください。今まで一人で気軽に出かけていたのに電車を乗り間違えたり、まっすぐ帰って来られなくなったりすると、本人は大変しんどい思いをして、次第に出不精になっていきます。これも、認知症の入り口と考えてよいでしょう。

「もしや」と思ったら、かかりつけ医に相談するか、病院の「もの忘れ外来」などの認知症外来を早めに受診することをお勧めします。

Q4. 発症に関わる12のリスク対策ほかに、注目されている予防策はありますか

A4.嗅覚を活性化してみてください

認知症の初期症状として最も多い「近時記憶」障害が起こる前に、実は「匂いがわからなくなる」ことが、私の長年の研究でわかってきました。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβタンパクが溜まって脳の神経が変性することで進行しますが、このタンパク質は最初に嗅神経に溜まることがわかったのです。

そこで着目したのが、アロマセラピーでした。嗅神経を活性化すると、最初に起きる神経変性を抑制することができるので、認知症の発症を抑えたり進行をゆるやかにする効果が期待できます。私の研究では、日中にローズマリーカンファーとレモンを配合したもの、夜は真正ラベンダーとスイートオレンジを配合した香りを嗅ぐことが、最も認知症予防に効果がある、との結果を得ています。

化学合成のものではない天然成分のアロマオイルを、正しい配合で使っていただきたいので、「浦上式アロマオイル」として商品化しました。特に夜用のアロマは睡眠の質も上げる効果があります。アミロイドβタンパクは睡眠時に除去されるため、良質な睡眠も認知症予防に効果的です。

Q5. 生活習慣病と認知症は、どのような関連性があるのでしょうか

A5. 肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病の人は、認知症も高リスクです

糖尿病や高血圧は、現代人に多く見られる生活習慣病です。これらの持病がある人は、すでに認知症の前段階にあるといっても過言ではありません。

糖尿病はインスリンが働かなくなる病気ですが、インスリンには血糖値を下げるだけでなく、神経を保護する作用もあります。糖尿病の人は脳に運ばれるインスリン量が減ることで脳神経を守る働きが低下するため、認知症の発症リスクが高まるのです。同様に、高血圧や脂質異常症によって血管が破裂すると、「血管性認知症」を発症することも。

逆に言うと、生活習慣病や肥満状態を適切にコントロールすることは、認知症予防にもなるということ。ダイエットのためにも運動を習慣化してください。体を動かすとさまざまな感覚が脳にインプットされます。その刺激により神経細胞が活性化するので、これにも認知症予防効果が期待できます。

Q6. 予防のための「運動」や「知的活動」はどのように行うとよいでしょう

A6. 軽度認知障害(MCI)の人を対象にはじめた、「とっとり方式認知症予防プログラム」をお勧めします

私は鳥取県琴浦町の協力のもと、MCIの人を対象に認知症予防教室を開いてきました。15年以上に及ぶその結果をもとに、鳥取県と日本財団の共同プロジェクトの一環として、科学的に効果のある「認知症予防プログラム」を開発したのは2016年のこと。プログラムは「運動」と「知的活動」の2本立てになっています。「運動」はこちらの記事で詳しくご紹介しますので、ぜひご自宅で挑戦してみてください。

「とっとり方式認知症予防プログラム」はこちら

「知的活動」は頭と手を同時に使うゲームなどが有効で、認知機能の衰えを防ぐことに意味があります。

前述の9つの認知機能のうち、たとえば「近時記憶」を鍛えるなら暗記を必要とする勉強、「視空間認知機能」を鍛えるなら塗り絵や貼り絵、園芸、「注意機能」を鍛えるなら迷路や間違い探しのようなパズルゲームや手芸、「作業記憶」を鍛えるならクロスワードパズルや料理、「思考力」を鍛えるなら俳句や短歌、「遂行力」を鍛えるなら手芸や折り紙、楽器演奏など。

周囲が無理強いせず、本人が興味の持てるものを継続的に行うとよいでしょう。

「新田恵利×浦上克哉〈12の〈認知症発症リスク〉は日常の3つの習慣で予防できる〉」はこちら

「とっとり方式認知症予防プログラム」はこちら

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