月で「逆立ち」したJAXA探査機 想定外の姿勢を美濃和紙で再現

月探査機「SLIM」の起き上がりこぼし(右)。台座(左)は月のクレーターになっている=2024年9月11日午後4時33分、岐阜県美濃市本住町、松永佳伸撮影

 今年1月、世界で初めて月面の「ピンポイント」着陸に成功した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「SLIM」が、岐阜県特産の美濃和紙でできた起き上がりこぼしになった。JAXAからの依頼を受け、美濃市の和雑貨メーカー石川紙業が、着陸時の「倒立状態」の姿勢を起き上がりこぼしで再現した。

 JAXAによると、SLIMは高さ約2.4メートル、燃料を除く重量約200キロ。日本初の月面着陸を目指して打ち上げられた小型探査機で、1月20日、目標着陸地点から100メートル以内の精度で月面への軟着陸に世界で初めて成功した。想定外の倒立姿勢での着陸となったが、計画通りの任務を成し遂げたという。

 「奇跡的な立ち姿で、転んでもただでは起きない状況などから、起き上がりこぼしを連想した」とJAXA宇宙科学研究所SLIMプロジェクトチームの櫛木賢一さん。ネットで起き上がりこぼしを検索したところ、石川紙業のホームページが目に留まった。SLIMのキャラクター「すりむーん」に似た親しみやすい、起き上がりこぼしを発注した。

 同社では、これまでに戦国武将や干支(えと)、こいのぼりなどの起き上がりこぼしの手作りキットを手がけてきた。社長の石川道大さんが制作を担当。大きさはピンポン球ほどの大きさで、手すきの和紙を使っていて、なるべく素材のしわなどの質感を大切にした。

 JAXAからの注文は500個。1個ずつ手作りで、ソーラーパネルの枚数や故障したメインエンジンに×印をつけるなど、細部までこだわった。社長の石川道大さんは「実物に近い形に仕上がった。最新のテクノロジーと美濃和紙の伝統技術が融合した」と話す。

 SLIMの起き上がりこぼしは、広報宣材としてJAXAを訪れる国内外の要人への贈答品などに利用される。そのため、販売の予定はないが、同社のアンテナショップでの展示を検討しているという。(松永佳伸)

ジャンルで探す