20年でAED設置大国となった日本 使用率4%台と低いままの背景

様々なメーカーから販売されているAED

 医療従事者にしか認められていなかった自動体外式除細動器(AED)の使用が、一般の人にも解禁されて今年で20年。日本は全国に69万台があるAED大国となり、これまでに約8千人の命を救った。しかし、設置台数の割に使用率は低い。どこにあるのか分かりにくいといった課題のほか、「もし失敗したら」と考えがちな国民性が背景にあるようだ。

 「タカ!」「起きてくれよ」「生きろ!」

 チームメートがマウンドを囲んで泣いていた。

 2年生投手だった大阪府の上野貴寛(たかひろ)さん(33)は2007年4月、高校野球の春季大会で、胸に強い打球を受けて倒れた。

 呼吸が止まり、顔は真っ青。観客席に「親御さんはいらっしゃいますか」とアナウンスが流れた。

 監督が心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしたが、意識は戻らない。駆けつけた父親は「もうあかんと思った」。

 しかし、現場には1年前にAEDが設置されていた。観戦していた救急救命士が使うと、上野さんの心臓はリズムを取り戻す。「生きてます!」と声が上がった。

 上野さんは救急車の中で意識を取り戻し、10日ほどで退院した。後遺症もなく、部活にも復帰できた。

 いまは、AEDを販売する警備会社で働いている。「AEDを普及させたいと入社を決めた。もし身近な人に起きたら、と想像してほしい」

 総務省消防庁によると、心臓が原因で倒れた人のうち、通行人らに目撃された例は22年に約2万9千人。そのうち、1カ月後も生存していた救命率は、蘇生を受けないと6.6%だったが、受けた場合は12.8%、AEDの電気ショックが使われた場合は50.3%だった。社会復帰できる割合も高い。

 AEDは、けいれんを起こした心臓に、電気ショックを与えてリズムを正常に戻す医療機器。脳に酸素が届かない時間をできるだけ短くすることが重要で、倒れてから数分以内に使われるかどうかが生存率や後遺症の有無を大きく左右する。

 日本はもともと救急態勢が手厚く、AEDより早く救急車が到着する例が多かったが、コロナ禍で救急態勢が逼迫(ひっぱく)したこともあり、AEDの重要性は高まっている。実際、救急車が到着するまでの時間は22年、全国平均で10.3分と初めて10分を超えた。

 千葉市立海浜病院救急科の本間洋輔・統括部長は「AEDがいち早く使われ、病院に着くころには会話もできていた人がいた一方、蘇生が遅れれば救命率は下がり、助かっても寝たきりになる人がいる。現場にいる人の最初の一歩が重要だ」と指摘する。

 しかし、日本のAED使用率はこの10年、伸び悩んでいる。22年の約2万9千人のうち、AEDの電気ショックを受けたのは1200人余りで4.3%にとどまった。

 原因として、日本AED財団は、いざという時に設置場所が分からなかった例が多いとみる。AEDは国内で8メーカーが販売し、どこに設置したのかの報告義務もないため、一部のAEDしか検索できない地図が複数ある状況だ。

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