地球温暖化のウソ? ホント?(6)チョコレートやオリーブオイルの値上げはどうなる?

気候変動(地球温暖化)は世界のさまざまなところに影響を与えています。2024年度(令和6年度)が始まって間もない今、早くも「今年の夏はどうなるんだろう?」と、夏の暑さを心配している人もいるでしょう。

今年度、世界的に気候変動と関係する注目のトピックスについて、気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授)の意見を交え紹介します。

Q1/気候変動の影響で、将来、チョコレートを食べられなくなるって、本当?

◆A/「カカオ2050年問題」がいわれ、非常に高価な食べ物になる可能性があります。

チョコレートの主な原料はカカオ豆(カカオの種子)です。そのカカオ豆の価格が今、急騰しています。ロンドン市場のカカオ豆の先物価格(終値)が今年(2024年)4月1日、1トンあたり1万120ドルを付けるなど、値上がり幅はこの1年でおよそ3倍に達しています。

主な生産地である西アフリカで供給不足が懸念されていて、国際市場での取引価格が高値を付けている状況です。

「カカオベルト」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。赤道を挟んで北緯20度から南緯20度の高温多湿の地域のことで、カカオの栽培に適しているために、「カカオベルト」と呼ばれます。

カカオ豆の生産国1位と2位は、ともに「カカオベルト」に位置する西アフリカのコートジボワールとガーナです。ほかには、やはり赤道付近に位置するインドネシア、エクアドルなどがカカオ豆の生産量の多い国です。

チョコレートは今や、日本でも代表的なお菓子の一つで、大好きな人も大勢います。そのチョコレートの原料が高騰しているとなると、人ごととはいえないですよね。

さらには「チョコレートを食べられなくなる日が来る」という見解まで出ています。

「2050年に、ガーナとコートジボワールの約9割の場所でカカオの生産適応性が低下する可能性が高い」や「2050年には世界からカカオの木が消える可能性がある」といった見解が世界の研究者から出されているのです。これは「カカオ2050年問題」ともいわれます。

「2050年にチョコレートが食べられなくなるかはわかりませんが、今よりずっと高価な食べ物になっている可能性はあるでしょう」と江守さんは話します。

気になるのは、その原因です。

「チョコレートの価格が高くなるのは需要の増加のせいもありますが、供給面では、人間活動の影響による気候変動(地球温暖化)が重要な原因と考えられます。気候変動によって、長期的な傾向として、西アフリカでは熱波と干ばつが深刻化することが心配されます。

しかしその一方で、雨が降るときには極端な大雨が増えるでしょう。いずれの変化も、カカオの生産に大きなダメージを与えます」(江守さん)

温暖化がチョコレートの価格高騰や、さらには生産のありようにも影響を与えていると知ると、驚きますよね。

「気候変動を止めるために、温室効果ガスを出さない社会をつくることが大切です。たとえば、エネルギーを化石燃料から太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに変えていくことなどが重要です。

チョコレートを食べるときに、そうした社会の変化が必要なことをぜひ思い出してほしいです」(江守さん)。

Q2/オリーブオイルが大幅に値上がりするのは、気候変動のせいなの?

◆A/気候変動が大きな原因である可能性があります。

オリーブオイルが来月(2024年5月)、いっせいに値上げされる予定です。大手メーカーでは、2022年以降、これで4回目の値上げになります。

オリーブオイルの生産国はスペイン、ギリシャ、トルコ、イタリアなどの地中海沿岸国が多くを占めます。世界最大の産地であるスペインでは、生産量がほぼ半減していて、自国内でも価格が高騰しています。

スペインは2023-24年の生産量も80万tに届かず、不作が続いています。日本の値上げには、円安や輸送コストの上昇の影響もありますが、地中海沿岸地方で干ばつが続いていて、オリーブが不作になっていることも大きく影響しています。

「スペインでは記録的な熱波と干ばつによるオリーブの不作が2年連続で起きました。熱波には地球温暖化が影響していることは間違いありません。

長期的にも地中海沿岸地方は今後、温暖化だけでなく乾燥化の傾向が予測されています」(江守さん)

気候変動の影響が世界規模であることを改めて認識させられます。

オリーブオイルは、今や日本の家庭でもおなじみです。もしかして、将来的に食べられなくなるのではと心配になりますね。

「チョコレート、オリーブオイルだけでなく、日本は食料の多くの部分を輸入に頼っていることを思い出す必要があります。今後さらに気候変動が進むことで、さまざまな食材が値上がりしたり、手に入りにくくなったりするかもしれません。

気候変動の日本への影響というと、つい自分の頭の上の日本の気候のことだけを考えてしまいがちですが、貿易やそれ以外の国際関係を通じて、世界で生じる変化が日本人の生活に影響をおよぼすことを想像してみましょう」(江守さん)

Q3/気候変動の影響で、冬季オリンピックは開催できなくなるの?

◆A/ウィンタースポーツが存続できるかどうか、危ぶまれます。

気候変動の問題は冬季オリンピックにも影響を与えています。

2026年の冬季オリンピックは、イタリアのミラノとコルティナ・ダンペッツォで開催されることが決まっています。さらに2030年はフランスのアルプス地域、2034年はアメリカのユタ州ソルトレークシティーが最有力候補地として挙げられています。

しかし、その一方で、気になる情報が報じられています。それは「冬季オリンピックを開催できる地域が減少している」という問題です。これにもやはり、気候変動が大きく関係しています。

「地球が温暖化すると、降水量自体は増える地域もありますが、冬でも、雪ではなくて雨の降る割合が増えるために、平野部を中心に降雪量は減少します。

一度降った雪も融(と)けやすくなるため、平野部を中心に積雪量はさらに減少します。冬のオリンピックの適地が減っていくことは避けられないでしょう」(江守さん)

しかし、事は冬季オリンピックやウィンタースポーツだけの問題ではないのです。なんと夏季オリンピックにも影響があるといいます。

「今後は夏のオリンピックも、暑すぎて開催に適さない地域が増えていきます。

東京オリンピック(2021年)のマラソンを札幌で開催したように、今までの冬のオリンピックの適地で、今後は夏のオリンピックが行われるようになってもおかしくはないかもしれません」(江守さん)

しかも、札幌で行われた東京オリンピックのマラソンは、当日、記録的な猛暑になってしまいました。

「ウィンタースポーツの愛好家の皆さんは、気候変動を実感している方も多いと思います。ぜひ気候変動対策の強化を求める動きに加わっていただきたいですね」(江守さん)

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気候変動(地球温暖化)は、食べ物の価格や生産量、世界のスポーツのあり方にも、大きく影響していることがわかりました。まずは、一人一人が気候変動問題に関心を持ち続けることが大切だと江守さんは話します。

ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきます。まずは気候変動について知るところから、一緒に取り組んでいきましょう。



監修/江守正多
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授(@seitaemori)

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