「熱心な研究者がなぜ」無届け再生医療で逮捕の元講師

 脂肪幹細胞を人に投与する再生医療を無届けで行ったとして15日、再生医療安全性確保法違反容疑で大阪府警に逮捕された大阪医科大元講師で医師の伊井正明容疑者(52)。同細胞に関する研究に長年取り組んで成果も上げており、その姿を知る関係者らは「研究熱心でまじめ」と口をそろえる。そんな研究者がなぜ、法に触れるような行為に及んだのか。
 「患者救いたい」熱意
 伊井容疑者は同医大を卒業後、理化学研究所の研究員などを経て、約10年前から同医大で勤務。脂肪幹細胞に薬剤を取り込むことで機能を強める独自手法を開発し、この幹細胞をマウスに点滴投与することで、心筋梗塞や強皮症、統合失調症などに治療効果があったとする研究を発表したこともある。将来的には認知症の治療薬を作りたいとの思いも持っていたという。
 こうした研究成果にベンチャー企業も注目。昨年まで2年間、共同研究を行っていた医療関連会社の関係者は伊井容疑者について、「再生医療の新しい技術で患者を救いたいという熱意を感じた」と話す。
 昨年5月には東京の製薬会社との共同研究も始まった。同社は伊井容疑者の要望で、容疑者の研究をサポートしていた看護師2人を社員として雇用。早ければ昨年中にも、難病治療薬の開発に向けた治験を始める予定だったという。
 企業との共同研究
 今回の事件は、こうした企業との共同研究が本格化する最中に起きた。伊井容疑者は昨年初め、共同研究先の医療関連会社幹部だった浜園俊郎容疑者(62)=同法違反容疑で逮捕=を通じ、元大学教授で同細胞によるアンチエイジングを行う福岡市のクリニック元院長と、その知人女性と知り合った。
 「すごい研究だ。ぜひ自分に投与してほしい」。元院長などによると、3人で研究室を訪問し、脂肪幹細胞投与の研究成果を聞くと、元院長はこのように依頼。伊井容疑者も「やりましょう」と迷いなく答え、3人全員が投与を受けることが決まったという。
 同3月、伊井容疑者はまず部下の助教から同細胞を採取。続けて同月中にこの3人からも採取し、それぞれ培養を始めた。ただ、順調に進んだのは女性の分のみで、約1カ月後にそれを女性自身に投与した。
 さらに、5月末には別の女性からも細胞を採取しようとしたが、助教が内部通報したことで同医大が事態を把握し、事前に阻止。内部調査のうえ厚生労働省に報告し、伊井容疑者らを処分した。
 浜園容疑者は医療関連会社を昨年3月に退社。その後、共同研究が決まっていた東京の製薬会社に移ったが、事件発覚後の11月に解雇されたという。
 「焦りあったのか」
 脂肪幹細胞の点滴投与は民間クリニックでは広く行われ、費用は200万円近くになることも。過去には患者が死亡した例もある危険な施術だが、伊井容疑者は細胞採取や点滴投与を研究室前の廊下に置いた簡易ベッドで行うなど、ずさんさが目立つ。
 再生医療に携わる、ある大学教授は「無許可の研究では論文にもできないのに、焦りがあったのだろうか」と首をかしげ、「『投与を希望している人で試したい』という気持ちにあらがえなかったのかもしれない」と指摘している。

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