「タバコ、まだ吸ってるの?」に続いて…禁煙した人が喫煙者に聞いてしまいがちな“あのひと言”〈増える税金、減る喫煙所、喫煙者の“この国のかたち”〉

 2020年から続いたオリンピックの話題も過ぎ去り、サッカーワールドカップも異例の秋開催となった2022年。2023年になると、2年後に迫った大阪万博の準備もいっそう進んでくる。世界的にコロナ禍の「次」を見据える中で、国際イベントがもつ経済効果に期待が集まりつつある。

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 そんな中、多くの愛煙家たちから聞こえてくるのが、「イベントのたびに喫煙所探しが大変になっている」という声。いわば、毎年のように増税が続く中で、分煙の場所も減っていることに弱ったという声だ。

 とりわけ東京オリンピックの開催があった東京では、受動喫煙防止条例が制定され「屋内は原則禁煙」になるなど、「世界的イベント」が生活現場に与える影響は少なくない。次々と続く国際イベントの中で街の形はどのように変わっていくのか。愛煙家である、お笑いコンビ「メッセンジャー」の黒田有氏と明治大学政治経済学部教授の飯田泰之氏が語った「この社会とタバコ」とは――。

お笑いコンビ「メッセンジャー」の黒田有氏(左)と明治大学政治経済学部教授の飯田泰之氏

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「正直、大阪の人間も万博と言われても…」

飯田 黒田さんは基本的に大阪で仕事をされていますが、東京へいらっしゃると、タバコを吸える場所が少ないと感じませんか。

黒田 喫茶店が、ほとんどダメですからね。あと、大きな商業施設にいっても、広い敷地に喫煙所がぜんぜんない。もう使用料を払っても良いから喫煙所を作ってくれと思いますね。

飯田 私も喫煙者ですが、買い物先で見つけられないときはマイカーで吸ってますね(笑)。東京では、オリンピックをきっかけに受動喫煙防止条例が出来て、屋内は原則禁煙になりました。コロナを理由に閉めた喫煙所もたくさんあって、そろそろ再開してもいいはずなのに、閉めたままです。大阪も2025年の万博に向けて、東京のような「タバコ浄化作戦」が進むかもしれません。

 黒田さん自身、大阪にいて、そういう万博に向けた空気感の変化を感じることはありますか?

黒田 正直、大阪の人間は、万博と言われてもまだピンと来てませんね。商売してる人らは、コロナで落ち込んだ2年分を取り返すのと、物価高や円安の対策に必死です。大きなイベントで観光客が増えて儲かって……というところまで気が回ってないと思います。

飯田 2年半先まで持つのか、というわけですね。大阪は工場街もあるし観光で来る人も多い街ですから、影響も大きかったと思います。

 でも実際、じゃあオリンピックや万博などの「ビッグイベント」で本当に爆発的に儲かるのかというと、じつはそんなに儲からないんですよ。

 たとえば、ホテル業を例にとったとしても、東京オリンピックが期待されていたコロナ禍直前の2019年のころにはすでに、東京や大阪といった大都市のある都道府県のホテルの稼働率は約8割でした。当日にトラブルが起きて対応するために多少部屋を用意すると考えると、「イベントがあるから」で急に観光客が来ても今度はビジネスの客が宿を取れなくなるだけで余裕はありません。まして、郊外ではなく、本当に利用者が使うような街中にあるホテルはすでに一杯で、イメージほどの「伸びしろ」が期待できないんです。

「歩きタバコの罰則は全然かまいません。ただ…」

黒田 そんな大阪でも、タバコの規制に関してはたぶん東京を見習うでしょう。松井一郎市長は喫煙者なので、手心を加えてくれたらええんですけど……(笑)。

 もちろん、喫煙者のマナーは大事やと思うんです。歩きタバコする人がおれへんかといったら、まだおるんですよ。それに対して罰則をきつくするなら、全然かまいません。「煙たい、害がある、臭いがする」と三拍子揃っている以上、分煙をきっちりしてくれたら、我々はそれでいいんです。

 でも、それ以上に「タバコを擁護するのは言語道断」という空気感があるというか……。非喫煙者の中には、「マナーを守るんやったら、吸ってもええんちゃうん?」と言う人もいてますけど、タバコ自体が悪やと言う人もおるでしょう。マナー違反をしたら叩かれても仕方ないけど、喫煙所で吸ってるだけでも気に入らんと叩かれるのは、流石にイジメすぎちゃうんかと思います。なんであそこまで勢いがついてしまうんでしょうか。

飯田 コロナで悪者扱いされた飲食店は、規制され放題でした。憲法を守れといつも言っている人たちも、営業の自由は守ろうと言ってくれない。それと同じで、喫煙についても自由権の観点で戦ってくれる人がいるかなと思ったら、なかなかいないですね。

「寿司屋のカウンターでメチャメチャ香水臭い人がいたらどうなんですか」

黒田 実際、喫煙は、権利として認められているわけでしょう。国が認めて売ってる商品を買うて嗜好することに対して、規制をかけられるのが元来おかしいんじゃないかといいたいんですよね。「建前」と「実際」がズレてるやないですか。

 じゃあ、寿司屋のカウンターでメチャメチャ香水臭い人と隣り合わせたら、どうなんですか。喫煙に関してマナーが、マナーが、と言うなら、ほかのことにもマナーを言ってくれよと思います。

飯田 ここまで熱心に取り組まないといけないほど、タバコは優先度の高い社会問題なんですか? ということですね。たしかに健康や医療の観点に限っても、健康診断の無料化を進めるとか、もっと何かやった方がいいテーマがあるんじゃないかと思います。

禁煙した人がついつい聞いてしまう「あの質問」

黒田 禁煙した人から、よく言われません?「タバコ、まだ吸ってるの?」その次に「いま、いくらするん?」。あれ、ごっつ腹立つんですよ。

飯田 必ず言われますね(笑)。

黒田 あんたが止めたのはええわ。ほな、止めた分のタバコ代が貯まったんか言うたら、絶対に貯まってない。競馬やら何やらで使ってますよ(笑)。

 僕も、止めようと思ったときには止めるでしょう。ただ、これだけは誓って言いますけど、止めてない人間を罵倒するような人間にはなりません。

飯田 禁煙した人に限って、喫煙者に厳しい傾向はある気がしますね。

黒田 そんな世の中だからなのか、余計に、タバコを吸う人同士のコミュニティが強まっているような気もします。みんなで飯を食べてても、タバコがあかん店やったり、初めて行った店で遠慮があったりすると、「ちょっとタバコ吸ってきます」と外へ出るでしょう。そのとき同席した人が「俺も」と席を立ったら、初対面でも一気に親近感が湧くんですよ。そうすると日ごろは話さないような人とも話すきっかけになるというか。

 よしもとを例に言うと、なんばグランド花月の喫煙所に若手の芸人が行けば、明石家さんまさんや新喜劇の先輩らと一緒にタバコを吸うんです。普段は話をする機会のない雲の上の先輩方と、コミュニケーションが生まれるんです。

 芸人以外の仕事でもそうだと思うんです。たとえば5人で食事をして、喫煙者と2人だけで話したいとき、「タバコ吸いに行きませんか?」と自然に誘って、外で“密談”ができる。個別にちゃんと面と向かって会話できるって、どんな職業も大事だと思うんですよ。

 これ結構タバコを吸わない人相手だと難しくて……。いきなり「一緒にトイレ行きません?」だと気持ち悪いですから。

「生産性」を高める“サボり方”

飯田 そうですね、急になんだろうとびっくりしそうです(笑)。

 そういう喫煙所コミュニティはたしかに実感することもあって、明治大学に勤める私も、ただのヒラ教員ですが、前の学長もいまの学長もタバコを吸うので、立場以上には気軽に会話できる関係ですね(笑)。

 ただ、こうした「タバコ休憩」を「サボりだ」と責める声もあります。そういう時間を削って生産性をよりあげようというんです。

 でも、この生産性という言葉が勘違いをされやすい。ついつい「今より頑張ってたくさん作ればいい」と思いがちですが、経済学的にも統計学的にも、粗利(売り上げから原価を引いたもの)を何かで割ったものが生産性ですから、仮に粗利が一定だとしたら、労働時間が増えただけ生産性が下がってしまう。また、闇雲に作ってもパフォーマンスが落ちて売れなければそもそも利益がでない。

 ルーチンワークがAIのものになっていくこれからの時代、人間の仕事はサービスや商品をいかに高く売って粗利を増やすのかという発想力が大事になってきます。そうである以上、情報交換や交流の有効性は上がりますから、私は吸わない人も「コーヒーでも飲みに行きましょう」と積極的に“サボった”方がいいと思っています。

タバコに払った税金の行方

黒田 たしかに「タバコ休憩や!」って責められてるのも見ますね。でも、こうやって吸いづらくなっている世の中でも、「そんならタバコを禁止にしてみろ」と言うたら、国はできないんですよ。税収がありますから。

 しかしね、じゃあたばこ税がどう使われてるのかといわれても、ピンとこない。これだけ税金の使い道に関心がある世の中ですし、吸ってる人間には、「自分が払った税金を何に使ってるんや」って訊く権利があるはずです。

 競輪や競馬の場合、体育館なんかを作れば「競輪の売り上げ金の一部で建ちました」と書いてありますよね、なんでタバコの場合はそういうのを見かけないんでしょうか。

飯田 たばこ税は一般財源なので、昔のガソリン税の「道路特定財源(=道路の維持・整備のために使うと決められている税金)」とは違って、所得税や法人税と同じように色んな用途に使われるんですね。だから、「入った税金をこれに使いました!」とはっきり言われづらいんです。対象が明確な税金は目的税むきなところもあるんですけどね。

黒田 喫煙所整備みたいな吸う人のための利用でなくても、たとえば「たばこ税でこども食堂を作りました」と言われたら、僕らも優越感に浸れるじゃないですか。

 国は、タバコは健康に悪いから止めて欲しいと言い、吸える場所も減らしつつ、そうやって締め付けながら、本音では税金が減るから買ってくれな困る。でも、喫煙者が「カッコよく」みえるようには税金を使ってくれない……。喫煙者のための政策を実現してくれる政治家が欲しいです(笑)。喫煙者も社会の一員なんですよ。

飯田 喫煙すること自体は認められた権利ですしね。

 法哲学の伝統的な概念に“愚行権”というものがあります。「愚かな行ない」も、人に迷惑をかけないでマナーを守れば、また楽しいものです。「健康に悪いのは百も承知でする権利」まで規制してどんどん窮屈になった結果、全部が全部、学級委員長みたいに“品行方正”でないと怒られる社会の雰囲気になっては、それこそ健全ではありませんから。

構成=石井謙一郎

写真=佐藤亘/文藝春秋

(「文春オンライン」編集部)

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