「10代の女性アスリートが無月経を無視すると…」プロトレーナーの中野ジェームズ修一が教える、生理とトレーニングの“本当の関係”

 体罰や水分補給禁止、ウサギ跳びの強制など、今では考えられないことが行われていたひと昔前の部活動。近年はそういった環境が改善されているが、まだ科学的かつ理論的なトレーニングが浸透しているとは言い難い。間違ったトレーニングやケアを実践してしまうと、体を壊すリスクもある。

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 そうしたリスクの回避方法や、効果的なトレーニング・ケアの仕方を記したのが、フィジカルトレーナーとして青学駅伝部を優勝に導いた中野ジェームズ修一氏の著書『子どもを壊す部活トレ 一流トレーナーが教える本当に効く練習方法』(中公新書)。ここでは同書から一部を抜粋し、女性アスリートと月経(生理)の関係や向き合い方を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く

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〈「女性アスリートは月経とどう付き合うべき?」

 A 無月経では結果的に強くなれない

 B 無月経は練習でよく追い込めている証拠〉

月経は女性に必要なもの。無月経は問題です(正解はA)

「女性アスリートは月経が止まった方が強い」「無月経は追い込めている証拠で、月経が来るのは練習量不足」などと考えている人が今でもいるようなのですが、言語道断です。昔は体重が1キログラム減るとマラソンが3分早くなる、と言われていた時代もありましたが、過酷な減量やハードに追い込むことによる無月経は、女性アスリートの体にとって決して良いことではありません。

 体重が軽い方が有利な競技や、美的な要素が高い競技では、太っちゃいけない、体重を落とせと言われ、体重を毎日計測して記録するといった指導を受けることがあるようなのですが、減量すること、食事を制限することのデメリットを監督やコーチはもちろん、選手本人や保護者も理解していなくてはいけません。

 女性アスリートが陥りやすい健康問題は、女性アスリートの3主徴(Female Athlete Triad)と呼ばれています。その3主徴とは、利用可能エネルギー不足、視床下部性無月経、骨粗鬆症で、これらはそれぞれが関係し合ってもいます。

 多くの場合、エネルギー不足がトラブルを引き起こす発端になっています。中学生、高校生の年代は、成長期であり、運動部に所属していれば運動量も相当なものになります。女性アスリートだから食事を控えても大丈夫などということはなく、男性アスリートと同じように栄養を摂取する必要があります。

 それにもかかわらず過度なカロリー制限や食事制限をすると、すぐにエネルギー不足に陥ってしまいます。エネルギー不足の状態が続けば、体の健全な発達を阻害しますし、競技のパフォーマンスも低下、精神面への悪影響も出てきてしまいます。

体脂肪を極端に減らすことで生じる問題

 運動によって消費されるエネルギーが、食事から摂取するエネルギーよりも上回ると、体脂肪がエネルギー源として使われます。お腹まわりにたっぷりと脂肪がついてしまった大人にとっては喜ばしいことですが、体脂肪を必要以上に減らすと体に問題が起きてしまうので、女性アスリートはそうならないように注意が必要です。

 体脂肪はエネルギーの貯蓄や体の保温といった機能があるだけでなく、ホルモンの内分泌臓器でもあります。

 体脂肪が極端に減ると、脳内の視床下部の働きが乱れ、女性ホルモンを分泌しなさいという指令が止まり、月経がこなくなってしまいます。これが、視床下部性無月経と呼ばれるもので、過度なストレスなどでも起こることがあります。

 女性ホルモンのエストロゲンは、骨を強くするのにも欠かせないものです。骨は皮膚や筋肉と同じように新陳代謝を繰り返しています。つまり、古い骨を壊し、新しい骨を作るというサイクルを繰り返し、強さを保っているのです。これは骨のリモデリング(再構築)と呼ばれています。

 破骨細胞が古い骨を分解し、骨芽細胞が新しい骨の合成を担当しています。女性ホルモンのエストロゲンは、破骨細胞の働きを抑える作用があるため、エストロゲンの分泌が増える成長期に女性の骨量は急激に増加します。

 高齢の女性が骨粗鬆症に悩まされることが多いのは、閉経して、骨の分解を抑制していたエストロゲンが減り、骨量が減少してしまうからです。

無月経は体からのSOSサイン

 成長期に無月経になると、骨量が減少して骨折しやすくなってしまうのはもちろん、骨の成長の妨げにもなってしまいます。

 骨量は20歳前後で最大値となり、そこから増えることはなく、加齢とともに減少していきます。先ほども書いたように、女性の場合は閉経後に減少の速度が増します。10代のうちにしっかりと骨量を増やしておかなければ、将来深刻な骨量不足になり、骨折をきっかけに寝たきりになってしまう可能性もあります。

 無月経は“今”だけの問題ではないのです。

 中学生、高校生の部活時代に骨折ばかりしていてほとんど練習ができなかったという女性アスリートがいます。おそらく、エネルギー不足をきっかけとする、骨量の減少が原因だと思います。そのアスリートは強い選手ですが、エネルギー不足や無月経に陥らないように過ごすことができていれば、もっと練習ができたはずです。トレーニングを積み、パフォーマンスを高めるためにも、無月経を無視してはいけません。無月経も体からのSOSのサインなのです。

 月経の周期、月経中の痛み、月経中やその前後にどの程度の練習ができるかには、個人差があります。痛みなく運動できてしまう選手もいれば、全く体を動かせない選手もいます。 人それぞれだということを、周囲も理解する必要があるでしょう。 

女性アスリートが気をつけるべき鉄欠乏性貧血とは

 鉄欠乏性貧血も女性アスリートが気をつけるべきことの1つです。文字通り、鉄が不足することで起こるもので、陸上の長距離、新体操やフィギュアスケートなど食事制限をしがちな競技の選手が悩まされることが多い疾患です。男性でもなり得るものですが、月経のある女性はより注意が必要です。

 鉄欠乏性貧血になると、息切れ(いつもの練習についていけない)、動悸、頭痛、疲労感(なんとなく疲れている)、倦怠感(なんとなく調子が悪い)、心肺機能の低下、まぶたの裏が白くなる、爪の形が変わる(スプーンネイル)などといった症状があらわれます。

 だるさを感じて練習ができない、いつもと同じ練習なのにやけに疲れるといったことがあったら、貧血を疑いましょう。

 貧血かどうかは、血液検査でヘモグロビン値を調べることで確認できます。女性は12g/㎗未満、男性は13g/㎗未満であれば貧血状態であり、10g/㎗未満だとかなり酷い状態とされています。貧血だと判明したら、適切な治療を受け、医師の指導のもと食事の改善も行ってください。

 鉄欠乏性貧血の予防のためには、栄養バランスのよい食生活を心がけるのはもちろんのこと、鉄が不足しないよう意識的に摂取しましょう。

 食品に含まれる鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、吸収されやすいのは前者と言われています。ヘム鉄が多いのはレバー(豚・鶏・牛)、牛肉の赤身、カツオ、マグロ、赤貝などで、非ヘム鉄が多いのは納豆、小松菜、枝豆、水菜、厚揚げ、木綿豆腐などがあります。

 苦手な食材や、調理のしやすさなどもあるでしょうから、バランスよく摂取してもらえればと思います。

「極端な糖質・脂質カットはやめるべき」プロフィジカルトレーナーが解説する、栄養バランスを整える“1日14品目の食事法”とは? へ続く

(中野ジェームズ修一)

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