《50~100人に1人が発症》“ピッタリ”していないと“気持ち悪い”…意外と知らない「強迫症」という“病”のリアル

汚染物質の混入が怖いから薬は飲めない…エスカレートする「強迫症」に悩まされた女性が悪循環から抜け出せた“決定的理由” から続く

 何かが意識に強く迫り、思考を支配し、不合理な行動に駆り立てる。そうした「強迫症」は正常な心理と地続きなもので、健康的な精神の中にも「強迫の芽」は存在する。欧州のデータを参照すると、人口における有病率は概ね1~2%。つまり、50~100人に1人は発症する病気だと推定されている。

【写真】この記事の写真を見る(2枚)

 精神科医の亀井士郎氏は、自身が強迫症に悩まされた経験をもとに、治療担当医の松永寿人氏とともに『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』(幻冬舎新書)を執筆した。ここでは同書の一部を抜粋。納得するかたちで“ピッタリ”していないものに対して、気持ち悪さや落ち着かなさを感じ、強い衝動に駆り立てられるという症状に悩む少年の事例を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

◆◆◆

症例――夏樹くん中学1年生

 夏樹くんが筆者(松永)の外来に初めて訪れたのは、彼が中学1年生のときでした。夏樹くんは典型的な《ピッタリ系》の強迫症状を示していて、いわゆる「強迫性緩慢(編集部注:納得感が得られるまで、強迫行為を繰り返し、一つ一つの動作に時間がかかるために、なかなか次の動作に移れない症状)」によって生活全般に支障を来していました。

 夏樹くんは3人兄弟の次男です。両親と祖父と共に6人家族で育ちました。生来、几帳面で思慮深く、おとなしい性格です。幼稚園の頃に運動チックの症状が、また小学校に入ってすぐの頃に吃音の症状がありましたが、いずれも一過性で消失しました。その他には発達上の問題は特に認められていません。

©iStock.com

 夏樹くんが小学4年生のとき、同級生にからかわれたことをきっかけに、大げんかに発展したことがありました。症状が初めて現れたのはその頃です。「おもちゃ(レゴ)を箱にしまうとき、しっかり片付けた感じがなかなか感じられず、何度も片付け直す」という行動を認めるようになりました。夏樹くんはこのことを苦痛に感じ、次第にレゴに手を触れないようになりました。

学校自体が苦痛になったため、不登校気味に

 小学5年生の頃には「携帯ゲーム機をケースに収めるときに、きっちり感を感じないと落ち着かない。指の添え方にもこだわって何度もしまい直す」という症状や、「黒板の板書を書き写すとき、ノートの枡目にピッタリ収まっていないとちゃんと書けた気がせず、何度も書き直す。板書の速度についていけず、結局ノートが取れない」、あるいは「教科書を読もうとしても、字の形が気になって何度も止まってしまい、先に進めない」といった症状が出現し、たいへん困るようになりました。

 小学6年生の終わり頃には「友人は表面的には仲良くしてくれているが、陰で悪く思われているのではないか不安になり、友人の話す言葉の一つ一つの意味を何度も繰り返し尋ねる」という症状が出現しました。そのため友人との関わり自体を避け始め、学校自体が苦痛になったため、不登校気味になりました。

 そこで夏樹くんは親と共に近所の精神科クリニックを受診することになりました。強迫症の診断の下、抗うつ薬(SSRI)による治療が開始されます。幸い、薬物の効果は得られ、症状は軽快し、再び登校できるようになりました。とはいえ、ある程度の症状は残りました。

食事も食べ終わるまでに2時間

 公立中学校に進学した頃から、症状はまた少しずつ悪化し始めました。従来の「読み書き」に関する症状に加えて、机の上の物の配置や食器の置き方、ハンガーのシャツのかけ方、タオルを干す際の左右対称性、等々、生活全般にこだわりと繰り返し行動が出現しました。一つ一つの動作がいちいち止まってしまう、「強迫性緩慢」も目立っていました。

 このような症状に苛まれ、中学校も不登校になりました。ただ、自宅で1日を過ごすようになっても、強迫症状に常に追い立てられる状態は変わりません。食事一つ取っても、お茶碗や皿の位置、箸の置き方などにこだわり、何度もやり直すため、食べ終わるまでに2時間かかるなど、多大なる時間と労力を要するようになりました。

 このような生活上の苦痛に夏樹くんは耐えきれなくなりました。通院を続けていた精神科クリニックから筆者の外来を紹介され、改めて専門的な治療が行われることになりました。

「気持ちが悪くても行動を止めずに、最後までやり切ること」

 まずは薬物療法として、もともと服用していた抗うつ薬に、新しく「抗精神病薬」も追加しました。すると症状にかなりの改善が認められ、物の配置に関するこだわりも少なくなりました。このことで、夏樹くんの生活はだいぶ楽になりました。このような「生活のしやすさ」を久々に体感できたことの意義は大きかったようで、夏樹くんの治療意欲は高まりました。

 そこでCBTが導入されました。基本的な行動理念は、「気持ちが悪くても行動を止めずに、最後までやり切ること」です。その前提で、課題が順に与えられました。たとえば、積極的に書字や読書に取り組むこと。ノートに文章を書く際は止まらずに最後まで書き切り、本は予め決めた箇所までは止まらずに読み通すこと。食事の場面では「止まらない」ことに加えて、家族の協力の下で「ペーシング(編集部注:時間で行動に制限をかける治療法)」と「プロンプティング(編集部注:他者からの声かけ等により行動の切り替えを促す治療法)」を用い、30分以内に終えることを繰り返し練習しました。服をハンガーにかける際は「やり直しは2回まで」と定め、それ以上は行わずにその場を離れ、仮に気持ち悪さを感じてもやり直しに戻らない、という練習を徹底しました。

 このようなCBTを1カ月ほど続ける中で、徐々に夏樹くん自身で症状を制御できる自信が強まり、生活上の支障も軽減できました。

約2カ月後には通常の登校が可能に

 中学校の先生にも病状を説明し、理解と協力をお願いした上で、通学を再開しました。学校生活でも、「板書を写す際は消しゴムを使わずにとりあえず書いてみる」「友達との会話中に言葉の意味が気になっても、訊き直さず会話を続ける」というCBTを進めていきました。

 通学を再開した当初は、学校での疲労度を考慮し、翌日は休むという取り決めで週に3日ペースの登校を目標としました。幸いにも治療は順調に進み、夏樹くん自身の希望もあって徐々に登校のペースを上げ、約2カ月後には通常の登校が可能となりました。

 自宅でも学校でも概ね問題なく過ごせるようになり、読み書きを含め、学習上の支障もほとんど無くなりました。夏樹くん自ら「気持ち悪くても行動を止めない」といったCBTの意識付けを積極的に行っており、現在は3カ月に1回程度の通院で、服薬もごく少量となっています。

《ピッタリ系》は、若年発症の傾向があります。このケースでは小学生で発症しており、経過も含めて典型的と言えます。「読み書き」に関する強迫症状もしばしば認められますが、見ていただいたとおり、特に勉学面に大きな影響を及ぼすため、今後の人生を左右しかねません。夏樹くんの場合、学校に早く復帰したいという強いモチベーションがCBTの推進力となり、幸い治療を順調に進めることができました。

 なお、夏樹くんは親をほとんど症状に巻き込んでいませんが、これは子供のケースとしてはやや例外的です。子供の例はこの次にもう一つ取り上げますので、そこで改めて子供の特徴について詳しく解説します(編集部注:書籍『強迫症を治す 不安とこだわりからの解放』内で紹介)。ここでは《ピッタリ系》について解説しましょう。

《ピッタリ系》の特徴

《ピッタリ系》は感覚重視のタイプです。聴覚や視覚、触覚などの感覚に関わる「不全感」や「気持ちの悪さ」に駆動される衝動(前駆衝動)により、“まさにピッタリ感”と称される感覚や納得感が得られるまで、強迫行為を繰り返します。一つ一つの動作に時間がかかるために、なかなか次の動作に移れない――このタイプによく認められる現象ですが、これを特に「強迫性緩慢」と呼ぶのでした。

 このタイプは、強迫観念の介在が目立たないこと・遺伝的な要素が比較的強いこと・若年発症の傾向があること・チック症と合併しやすいこと、などを特徴とします。《ピッタリ系》を他のタイプと見分けることには、治療者にとって意義があります。薬物の選択の参考になるからです。一般に、抗精神病薬を(抗うつ薬に加えて)投与することが有効とされます。

適切な薬物を選択できるかどうかも治療のカギ

 さて、《ピッタリ系》は他のタイプと比較して、「自我親和性」の傾向が強いとされます。自我親和性というのは、その名のとおり、症状が自我に親和しているという性質を意味する言葉です。つまり、《ピッタリ系》の患者は、強迫行為自体には比較的不合理感を持たず、「やりたくてやっていること」と捉えがちということ。このことは《ピッタリ系》が完璧主義的な性格の延長線上に出現しやすいことにも起因しています。

 ということは、強迫行為それ自体にはさほど困っていないことが多いと言えます。しかし、結果的には大いに困ります。たとえばノートの字にこだわること自体に困っていなくとも、黒板の字を時間内に書き写せなければ授業についていけません。要は過程に支障を感じなくとも、結果には支障を来している。これが《ピッタリ系》でしばしば認められる、生活機能面での障害です。

 この自我親和性という特徴はCBTを進める上で厄介です。強迫症状を敵視しにくくさせるからです。すると行動を修正するモチベーションも低くなりがちで、「不全感」や「気持ち悪さ」といった感覚になかなか耐えられません。この点を考慮すると、薬物の重要性が比較的高いと考えられます。したがって適切な薬物を選択できるかどうかも治療のカギを握ることになります。

《ピッタリ系》のCBTのコツ

 一般的には《ピッタリ系》は暴露反応妨害法(ERP)の対象外とされています。なぜなら、暴露すべき不安たる強迫観念が存在しないから、と言われています。しかしながら、「落ち着かない感じ」という点では「不安」も「不全感」も「気持ちの悪 さ」も同じことです。結局、これらの「落ち着かない感じ」に晒されつつも、それを解消する行動(強迫行為)を実行しない、という点が重要なのです。

 ですから、《ピッタリ系》のCBTでも戦略はほぼ変わりません。鉄則も同じです。『逃げない・繰り返さない・巻き込まない+ググらない』を適用するならば、実際の行動としては「気持ち悪さを感じても同じ行動を繰り返さずに、さっさと次の行動に移れ」が正解になります。たとえ文章を読むときに“しっくり感”を得られなくても、とにかく最後まで読み通す。書くときに自分の字に納得がいかなくても消しゴムを使わず、とりあえず最後まで書き通す。

わざとゆっくり動作を行い、自制の感覚を回復する

 特に「強迫性緩慢」に手こずる場合は、「ペーシング」と「プロンプティング」が役に立ちます。自分がどの動作にどのくらいの時間をかけているのか、症状を分析した上で、時間の枠組みを設定する。決めた時間を順守し、強迫行為を切っていく(ペーシング)。他者からの声かけ等の協力も得る(プロンプティング)。それにより「強迫性緩慢」によって動けなくなっている状態を打破します。必然的に「気持ち悪さ」に耐えることになりますが、それが結果的に治療効果を生むわけです。無論、次第にその「気持ち悪さ」の強さはCBTを重ねるごとに減っていき、正常な行動習慣に適応できるようになります。この点は不安の減衰のメカニズムと何ら変わりません。

 また「気持ち悪さ」をやり過ごす手段として、ときにリラクゼーションが有効となります。つまり、全身の力を緩め、大きな深呼吸を数回繰り返してみる。一見単純な技法ですが、最近は衝動コントロールの手段としても注目されており、意外と侮れません。その他、強迫行為に夢中になって自分を見失った状態(つまり「強迫性緩慢」の最中)では、「マインドフルネス」という技法が活用できます。これもCBTの技法の一つで、冷静に自分の状態を、リアルタイムに観察・認識し、運動動作や身体感覚に注意を向けながら、わざとゆっくり動作を行い、自制の感覚を回復する、という方法です。

発症当初の症状を知っておくことは治療的には大事

 なお、この《ピッタリ系》は、発症当初は純粋にピッタリ感を追求するだけの症状であっても、後付けで不安を伴い、結果的に他のタイプの強迫観念が混ざってくることも珍しくありません。《汚染/洗浄系》との合併については先に述べたとおりです。他にも魔術的思考と呼ばれるような、不吉への恐れが伴うパターンもあります。たとえば、「茶碗をしまう際、柄をきちんと少しも傾くことなく揃えておかなければ、家族の誰かが事故に遭ってしまう」といった症状です。さらには、ピッタリの追求が、正確さの追求に移行し、「それが間違っていないか何度も確認する」という《確認系》と変わらない症状に変化する場合もあります。このような場合、もともとの下地である《ピッタリ系》の症状が埋もれることがありますが、それでも先述の薬物の有効性は変わりません。ですので、発症当初の症状を知っておくことは治療的には大事なのです。


 

(亀井 士郎,松永 寿人)

ジャンルで探す