「超高齢社会」なのに「介護後進国」!? 日本で幸せな老後を送るために知っておきたい“3つのポイント”

 少子高齢化が深刻化し、高齢化率が21%を超える「超高齢社会」を迎えた日本は、誰もが介護とは無縁ではいられない社会だ。しかし、介護についての有益な情報が広く知れ渡っているとは言い難い。

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 ここでは、リハビリ専門デイサービス「リタポンテ」を運営する神戸利文氏、上村理絵氏による著書『道路を渡れない老人たち』(アスコム)の一部を抜粋。高齢者が幸せに生きるために大切な3つのポイントを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

なぜ介護をする必要があるのか?

 ここからは、支援のやり方に相当な課題があるということについて、お話ししていけたらと思います。

 まず、前提として知っておいてほしいのが、残念ながら、日本は娯楽、福祉偏重型介護の介護後進国だということです。

 あれこれと、施策をほどこし、立派な建物や機器を揃えていますが、現状、体制、人材の育成の面で十分には整っていません。

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 本人の社会的な自立を後回しにした、一時的な家族の負担軽減のみを重視している短絡的な介護を提案され、それに従ったためにどんどんと身体が弱っていった方。

「今度また誤嚥性肺炎になったら生命の危険だ」という医師の意見に従って、胃ろうというお腹に小さな穴を開けて胃までチューブを通し、そこから栄養を摂る方法にして、食べる楽しみを奪われた方。

 もちろん、そのような処置をすれば、どうなるのかをきちんと理解したうえで、本人や家族が希望してそのような処置をしたのなら、それはそれでいいと思います。

介護は何のためにするのか

 しかし、どうなるかを知らずに、ケアマネジャーや医師が言ったとおりに実行して、事の重大さに後から気づき「これで良かったのか」と悩み、後悔しているケースも少なからず見受けられるのです。

 そもそも介護は、何のためにするのでしょうか?

 介護保険制度の大本となる1997年に成立した「介護保険法」の第一章、第一条にはこうあります。

「この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排泄、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。」

 これを簡潔にいえば、高齢者の基本的人権を尊重し、その人権を「護る」ために社会が「介入」することが、介護によって行われるべき支援であるといえるのではないでしょうか。

 いうまでもなく、基本的人権は、生まれながらにして誰もが持っているべき権利であり、社会生活を送るうえで重要なものです。

 それが、高齢者だからといって、守られなくていいというわけではありません。

 しかし現状の介護支援では、そこが抜け落ちているケースによく出会います。

トイレにすら行けないのに、ほうっておかれる人たち

 在宅で介護をする場合、介護者が困りごとや負担に感じやすいのが、排泄の支援です。

 また、介護される人も、自身の尊厳にかかわると考えがちなため、できるだけ失敗しないつもりで頑張ります。

 そうした事情から、時として、トイレの介助支援がなおざりにされるケースがあります。

 こんなことがありました。

 東京都中野区にお住まいだった中川さん(80代女性・仮名)も、以前、そうした状況に置かれていたのです。

 中川さんは、廃用症候群(生活不活発病)の状態になっていました。

 廃用症候群とは、何らかの理由で長期間安静を続けることにより、身体機能の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状のことです。

 具体的な症状としては、筋萎縮、拘縮(なんらかの原因で、関節が正常な範囲で動かせなくなってしまった状態)、骨萎縮などの運動器障がい、誤嚥性肺炎、心機能低下、血栓塞栓症などの循環・呼吸器障がい、うつ状態、せん妄、見当識障がいなどの自律神経・精神障がいが見られます。

立って歩くことができず、家の中は荒れ放題

 中川さんは、ご主人を亡くされた精神的ショックから何もやる気が起こらなくなり、ほとんどの時間を自宅の布団の上で過ごしていたために、廃用症候群になってしまったのです。

 その中川さんが私たちのデイサービスでリハビリを受けることになり、スタッフが車で自宅までお迎えにあがりました。

 中川さんのお宅に到着して、ドアを開けると、ご本人は這はうようにして玄関まで出てこられたのです。

 拘縮のせいで足首が動かず、立って歩くことができなくなっていました。

 そうした状態にもかかわらず、中川さんは一人暮らしを続けていたので、家の中は荒れ放題でした。

 お世辞にも、衛生的とはいえない環境です。

 何しろ自由に動けないので、必要なものもゴミも身の回りに一緒くたに置かれています。

 食品、調理器具、残飯、さまざまなゴミ……。

 それらに混じって、使用済みの紙おむつがありました。

 廃用症候群が進み、1人でトイレに行けなくなった中川さんは、介護用の紙おむつを使用され、それを漏れないように重ねばきをして、用を足していたのです。

 症状の進み具合を見る限り、おそらく数カ月~数年もの間、中川さんは紙おむつを使い続けていたのでしょう。

 この時点で私たちの施設に通うことになったのですから、中川さんが必ずしも孤立無援だったわけではありません。

 介護の支援を担当するケアマネジャーがいなければ、デイサービスを利用することはできないからです。

リハビリの結果、自分でトイレに行けるように

 正直、中川さん宅をお伺いし、初めてお話をお聞きしたとき、基本的人権が守られている状況には到底見えませんでした。

 もちろん、いろいろな要素があったのかもしれませんが、適切な支援がなされていなかったのではないかという疑念はぬぐいさることはできません。

 事実、中川さんは、この後、リハビリを懸命に取り組んだ結果、歩行器を使い立つことができるようになり、紙おむつは外せませんでしたが、自分でトイレに行けるようになったのです。

 これは決して特別な例ではなく、長年介護支援に携わっていると、基本的人権を守るために支援をするという、重要な点が抜け落ちているケースによく出会います。

 もちろん、そうせざるをえないケースもあるとは思いますが、トイレに行けなくなったからおむつをする。脚がふらついて転倒が怖いから、動かさない。そういったマニュアル化した短絡的な支援を提案する専門職が多いように見受けられます。

 これはそのような場合に支援をするための人材、施設の体制や支援がしっかりと揃っていないからです。正しい情報の提供も十分ではありません。

 これから徐々に改善していくのかもしれませんが、同じ日本で同じ介護保険で差異が出ることを、成熟期のこの国はどう考えているのでしょうか。

 今がこのような状況だからこそ、日本は介護後進国であるという認識を持って、自分たちの幸せな老後を守るために、必要な情報、知識を身につけて予防していき、後悔しない人生の選択をするようにしていただきたいのです。

支援をとことん利用する意識

 では、もっと具体的に、間違った介護支援で不幸にならないためにはどうすればいいか、話していきます。

 これは今、介護をしている人にとっても、これから介護が必要な年齢にご自身や家族がなる方、両方に大切なことです。それは次の3つです。

 ・支援をとことん利用する。

 ・情報を集め、他人に任せず、本人もしくは、家族が考えて選択して行動する。

 ・身体機能を維持させることを第一に考える。

 1つひとつ説明していきます。

 まず、「支援をとことん利用する」という意識を持ってください。

介護支援の難点

 介護保険という保険制度を利用することで、多くの人が介護支援を受けられる制度があります。

 これは、40歳になると、自動的に保険料を支払うようになるものです。

 ですから、利用するのは、当然の権利といっていいでしょう。

 また、粗大ゴミを自宅の前で回収してくれたり、交通機関の利用料金が安くなったりと、さまざまな自治体などのサービスもあります(公開されていないものも多く、非常にわかりにくいのが難点ですが……)。

 ただ、これらは、自分で申請しないと活用できません。

 忘れずに申請をする必要があります。

親の面倒は子どもが見なくてはならないという幻想

 また、自分の親のことは自分がよくわかっている、自分の親のことなのだから、子どもが面倒を見なくてはならない、自分のことをよくわかっている子どもたちに面倒を見てほしいと、そのような支援を受けない人も少なからずいます。

 もちろん、家族のことをよくわかっているのは、家族なのかもしれませんが、だからといって、そこに固執するのは、本人や家族にとって本当に幸せなことなのかというと、そうではないと私は考えます。

 なぜなら、特に高齢者の身体機能の維持には、専門職の意見は欠かせません。

 ほとんどの人が、初めての介護になる一方で、いろいろな高齢者の身体を見てきた人の知見は、必ず役に立ちます。

 また、介護する家族の人生も、同様に大切な人生です。

 介護が負担になって追い込まれるようなことがあってはいけません。そうならないための介護保険制度です。

 ぜひ、介護支援を利用することを当然のように第一の選択として、家族も本人も考えてください。

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(神戸 利文,上村 理絵)

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