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「背後には暴力団が…」後の7人殺害にもつながる松永太の“支配の構図”とは

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

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 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第41回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

◆ ◆ ◆

『松永商店』や緒方純子名義で貸金業登録し、ダミー会社を設立

 1986年、松永太は布団訪問販売会社『ワールド』を経営する傍ら、祖父と父の時代の商号『松永商店』で福岡県知事に貸金業登録を行った。また同年、緒方純子も松永が提供していた福岡県久留米市にあるアパートの住所で会社を興し、貸金業登録を行っている。

 こうした信販契約を締結するためのダミー会社は、それ以降、いくつも作られている。また、松永は87年1月に、『ワールド』を有限会社から株式会社に組織変更した。当初は松永の父親が代表取締役を務め、祖父が監査役になるなどしていたが、松永が代表取締役に就いたのである。

 その『株式会社ワールド』(以下、ワールド)は、資本金500万円にかかわらず、会社登記簿の営業項目については、あり得ない大風呂敷を広げたものだった。

三井物産をまねた営業項目で、重厚長大な事業

 福岡県柳川市の行政書士事務所を訪れた松永は、「営業項目をこれと同じにしてください」と、大企業である総合商社・三井物産の登記簿を渡していたのである。そのため、ワールドの登記簿の営業項目には重厚長大な事業が次々と並ぶ。その一例を紹介すると以下の通りだ。

〈1.次の商品に関する貿易業、売買業、問屋業、代理店並びに仲立営業

 イ.鉄、非鉄金属およびこれらの原料、製品並びに鉱産物

 ロ.石油、石炭、天然ガスその他の燃料並びにこれらの副製品

 ハ.各種機械器具(計量器、医療用具を含む)、製造設備、通信設備、公害防止設備等の設備、車輌、自動車、船舶、航空機並びにこれらの部品〉

 このように取り扱う製品だけでも、石油、天然ガスから航空機、さらには各種化学製品やセメント、工業用水など多岐にわたっている。

従業員から搾取するために虐待・生活制限

 もちろん、これらがまったく実態をともなわないことは、百も承知のうえでのことだろう。それどころか、この時点でワールドは、本業であったはずの布団訪問販売業では、ほとんど収益を上げることができず、名義を借りて信販会社からカネを得る詐欺的な商法や、脅しや暴力などによって、従業員やその親族、さらには第三者に金策をさせるなどの手法で、なんとか会社を保っていた。

 それについて、福岡地裁小倉支部で開かれた公判(以下、公判)における、検察側の論告書には、以下のように記されている。

〈松永は、自社ビル建築費用等の多額の債務の返済に迫られ、名義借り商法等の帰結であるクレジット会社への弁済の資金繰りにも窮し、信販契約打ち切りを回避するため、(1)自身は詐欺的商法に何ら関係していないかのような外形を保ちつつ、従業員らに命じて更なる悪徳商法に手を染めさせ、その支払に対応するべく詐欺的商法を重ねるという悪循環に陥ったこと、(2)ワールドの従業員らにはまともに給料も支払わず、ろくな食事も与えずに労働を強いていたこと、(3)このような搾取を受ける従業員からの反発を防ぎ、彼らをして意のままに使役するため、多種多様な虐待・生活制限を活用して従業員を監禁同然に支配し、その抵抗心を押さえ付けていたこと、(4)従業員らの反発を未然に抑止するため、自らの背後には暴力団組織等が存在するから、従業員が反抗ないし逃走すればこれらの組織力で押え付ける旨脅迫するなどしていたことが、いずれも明らかに認められるのである〉

 なお、同論告書は、この時代の松永の手口が進化を遂げ、後の7人殺害につながる支配の構図に繋がっていると結論付けている。

親戚の詐欺師Zに影響を受けた松永

 当時、この事件を取材していた福岡県警担当記者は言う。

「地元で暴力団と繋がりのあることで知られる『××物産』という会社があるのですが、松永はその会社の名前を頻繁に出し、自分が同社の背後にある暴力団と懇意であることを暗に示していました。また、『××物産』の関係者もワールドの事務所に顔を出しています。それから物故者ですが、松永の親戚に、地元で詐欺をやっていることで有名なZさんという男性がいたんです。彼はそれこそオレオレ詐欺や結婚詐欺、さらにはM資金詐欺などのノウハウを持っている人物でした。Zさんは生前、松永の家にやって来ることも多く、松永は詐欺のやり方について、このZさんに多大なる影響を受けています」

 ここで名前の挙がったZさんについて、元ワールドの従業員だった山形康介さん(仮名)は記憶しているという。2014年に行った取材で、彼は語っていた。

「(福岡県)三潴町に事務所があり、『××新聞』という、夕刊紙くらいの大きさで枚数の少ない業界紙みたいな新聞を出していて、それをワールドに持ってきたことがあります。その人が詐欺をやっていることは耳にしていました。手形を使った金融系の詐欺で、松永は『おじさん』や『Zさん(苗字ではなく名前)』と呼んでいた記憶があります。身長は165センチメートルくらいで、少しやせ型。整った顔立ちで、ジャーナリストっぽくて、小ぎれいにしている印象です。白髪交じりの七三分けで、眼鏡をかけていました。

 Zさんは詐欺のやり方だけでなく、地元のヤクザや権力者の情報も持っていて、松永は情報源と考えていたようです。あとは、こういうカモがいるという話を持ってきていて、その料理法は松永次第という感じでした。行き先は忘れましたが、松永とZさんを車に乗せて、どこかまで連れて行ったこともあります。そのときも車内で親しそうに話をしていました」

代表取締役に就任するなど、繰り返された偽装工作

 松永はZさんやその他の知人などからの指南を受け、検察側の論告書にもある通り、〈自身は詐欺的商法に何ら関係していないかのような外形を保〉つため、新たな会社を設立したり、すでにある会社に取締役として入ったりということを繰り返した。

 たとえば先の『株式会社ワールド』にしても、途中で商号を『株式会社ワールド倶楽部』と改称している。

 ほかにも、松永の父がもともとやっていた『パイロングコーポレーション株式会社』という会社は、いったん『パイロングファイナンス株式会社』と商号が変えられ、その後また『パイロングコーポレーション株式会社』に戻されている。ちなみにこの社名は、松永の苗字である松=パイ(ン)と永=ロングを組み合わせたものである。

 さらに松永の元同級生で、ワールドの従業員だった坂田昇さん(仮名)を代表取締役にして設立された『株式会社フリージア』という会社もあった。ここなどは、坂田さんが代表取締役を1カ月で辞任。改めて松永が代表取締役に就任するなど、偽装工作が行われていることは明らかだ。ちなみにこの会社の営業項目は以下の通りである。

〈1.家具、家具及び寝装インテリアの販売

 2.信用調査業務

 3.日常食料品の販売

 4.化粧品の販売

 5.食堂、喫茶店の経営

 6.衣料品の販売

 7.各種の興行業

 8.前各号に付帯する一切の業務〉

 このなかに、〈2.信用調査業務〉という営業項目が入っているが、じつは先の『パイロングコーポレーション株式会社』にも同じく〈1.信用調査及び集金代行業務〉という営業項目がある。

「探偵事務所」広告で出会った田岡真由美さん(仮名)

 松永と緒方が2002年に逮捕された直後、福岡県北九州市の『泉台マンション』(仮名)の一室で4人の子どもが保護されているが、そのうち2人の子どもの母である田岡真由美さん(仮名)とは、この〈信用調査業務〉の一環として、松永が1989年に電話帳に出していた探偵事務所の広告で出会っている。

 この広告に掲載されていた佐賀県佐賀市、福岡県久留米市、福岡市の電話番号は、すべて転送されるようになっており、転送先は柳川市にある『株式会社フリージア』と『パイロングコーポレーション株式会社』がともに営業項目としている〈インテリア販売〉を謳う電話番号だった。その詳細については本連載の第5回に記しているが、同広告は松永が詐欺の標的を探すために掲載したものと見られている。なお、両社ともに登録されている住所は、ワールド本社に隣接する、かつて松永の実家があった場所である。

ダミー会社として利用され、借金まみれに

 このように、あらゆる手段で“カネづる”を探していた松永は、知人の紹介で知り合いとなった岩見国男さん(仮名)という男性が経営していた『有限会社M企画(仮名)』という会社に、緒方とともに取締役として入っていた。

 この会社は〈絵画の販売及びレンタル〉や、〈音楽会の企画、イベント及びコンパクトディスク、レコードの販売〉などを営業項目にしていたが、松永と緒方が乗り込んできてからは、ダミー会社として利用され、借金まみれになった。しかも、他に同社の取締役として名を連ねている人物を取材してまわったところ、次のことも判明する。

「岩見さんが社長をやっている会社に6、7年いて、たしかそのときに頼まれたんですけど、10年くらい前にやめたので、どうなっているかは知りませんでした」(取締役A氏)

「私はふだん医師の仕事をしていますが、自分がその会社の取締役に名を連ねていることは知りませんでした」(取締役B氏)

 なお、代表取締役の岩見さんについては、最初にこの会社について取材をした2002年3月の段階では、「10年くらい前から行方不明で、妻とは別れ、子供も行方不明」ということだった。だが、とある情報を得たことで、姿を消した彼の、隠遁生活を送っている家を発見することになる。

精気を失い、仙人のように…「北九州監禁連続殺人事件」松永太に騙された男の末路 へ続く

(小野 一光)

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