「振り飛車って冬の時代なの?」20代イケメン将棋棋士2人の答えとは

「谷川って人から電話だよー」20代イケメン棋士2人が語る“振り飛車でプロになるまで” から続く

【写真】黒沢五段×都成五段の写真をすべて見る(全13枚)

 振り飛車党のタイトルホルダーがいなくなった。2018年度に菅井竜也王位が豊島将之棋聖、久保利明王将が渡辺明棋王にタイトルを奪取されたからで、昔からトップ棋士は居飛車党のほうが圧倒的に多い(肩書はいずれも当時)。 
 振り飛車で棋士になった黒沢怜生五段と都成竜馬五段から見て、振り飛車の未来はどう映るのか。キーワードになったのは「将棋ソフトの研究」。ほとんどの将棋ソフトは振り飛車を評価しておらず、飛車を振っただけで評価値が下がる。また、ソフトで研究を従来より深く掘り下げることができるようになり、進化のスピードは加速するばかりだ。その中でどう勝負するのか、棋士も苦心している。

(全3回の3回目/#1#2より続く)

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ファンに棋譜を見られるプロのプレッシャー

――プロになって黒沢五段は5年、都成五段は3年半たちます。奨励会と戦い方は変わりましたか。

黒沢 序盤で悪くなるときついです。玉の堅さ(玉の回りに金銀を密集させれば、囲いが強固になる。典型例は穴熊)より、陣形の厚み(陣形を立体的に構え、模様を広げる作戦。位を取ってじわじわ押したり、相手を押さえ込む展開が多い)を重視する棋士が多く、古い形と戦うことが増えました。ベテランの先生には、なるべく角道を止めません。急戦とか昔の定跡は分からないので、やられたら困るんですよ。

都成 いろんな年代の棋士と指すと、奨励会では経験したことない展開になり、新鮮です。戦い方は、自分自身が常に変わっているので、プロになって変わったというのはないかもしれません。

都成竜馬五段

――三段リーグのプレッシャーがなくなって、伸び伸びと指せるんじゃないですか?

都成 そうでもないです。最初はあるかなと思ったんですけど、プロはプロで年々、プレッシャーがあります。ファンの方々に棋譜を見られますし。

黒沢 奨励会だと勝てばいい、それだけでした。プロだといい将棋も求められています。

――都成五段から見て、黒沢将棋の特徴を教えてください。

都成 振り飛車党のなかで芸域が広く、対抗形(居飛車対振り飛車のこと)が抜群にうまい。先手中飛車のイメージが強いながら、角交換振り飛車も指しますし、作戦を絞られにくいです。

――黒沢五段はかなり作戦を散らしていますが、どうやって決めていますか?

黒沢 気分のときもありますけど、だいたい3択ぐらいはあります。基本的に研究会(練習将棋)で1日3局、色々な振り飛車を指しているので。

都成 黒沢さんがうらやましいのは、長所と武器がはっきりしていて、勝ちパターンがあること。手が見える(直感に優れている)終盤派で、見えないところからパンチが飛んできます。三段リーグで戦ったとき、終盤で勝ちだと思っていたのに、気がついたら負けちゃって。感想戦で「耐えていると思いました」といわれました。

黒沢 生意気でした……(笑)。

都成 いやいや、さすがの見切りでした。

――では、次は黒沢五段から都成将棋をお願いします。

黒沢 新手や新構想が多いオールラウンダーで、色々な将棋が指せるのがうらやましいです。一手一手が丁寧ですけど、序盤型というよりは中終盤型ですかね。

都成 序盤でいろいろやるけど、結構うまくいかないから(笑)。

――都成五段は何で色んな戦型で新手を指せるんでしょう。

都成 相居飛車で前例をめちゃくちゃ覚えて、細かいところを研究する。これが自分に向いていないからです。せっかく研究しても、よく忘れちゃう。それで少し変化する手を考えています。力戦派(定跡形ではない戦いを好むタイプ)なんですよ。

黒沢 その場で考えるタイプじゃなくて、事前準備がある力戦派ですね。

都成 相手を見て作戦を考えるスタイルは、プロになっても変わっていないと思います。

将棋ソフトは使っている?

――振り飛車の研究で大事にしていることは何ですか?

都成 突き詰め過ぎないこと。細かい手の損得を気にするよりも、戦法のツボを理解するのが大事だと思います。

――いまはソフトで深く研究したり、評価値(ソフトが形勢判断を数値で表す)を気にする人もいます。

※補足※
ソフトごとに評価値の計算方法は違い、人間とソフトの指しやすさ、読み筋や大局観にはズレがあるケースが多い。ソフトと人間の形成判断が一致する目安として、評価値がプラス300~400点ぐらいなら有利、600~800点ぐらいになれば優勢といえる。

都成 自分はソフトを使っていません。めちゃくちゃ依存しようとした時もありますが、使い過ぎると飛車を振れなくなると思いますよ。特に振り飛車は人間とソフトの感覚にずれがあり、300点ぐらいは関係ないでしょう。数字信者になっちゃうと「マイナス200になったら、もう無理無理」となる(笑)。気持ちはもちろん分かります。ただ、それなら居飛車をやったほうがいいかな。定跡が細かいから何十点の世界で勝負できるし、0(互角の数値)とかよく出るでしょう。

――黒沢五段はどうでしょう。

黒沢 互角ならいいので、研究は突き詰めないです。あと、悪くなっても粘れるように、相手より玉が堅い形を評価します。

 私もソフトを使っていないです。人を通して分かるからで、研究会でソフトを使っている相手の指し手を見れば、ソフトの考えを把握できます。

……でも、そろそろ使わないとだめですかね。後手番の振り飛車に自信がなくなってきて、いい勝負になる順をひとつは見つけたい。自分で考え出せればいいんですけど、難しいところもありますし、1回指すと相手に研究されてしまうので。

振り飛車党の今のエース戦法は?

――10年前から見て、振り飛車党のエース戦法の移り変わりはどうですか。

黒沢 先手番だと石田流と中飛車、後手番はゴキゲン中飛車と角交換振り飛車。それは、当時もいまも変わっていません。でも、居飛車側の対策が進み、ここ数年はノーマルな振り飛車(角道を止める昔ながらの振り飛車で、2000年代は減少していた)をやらざるをえなくなってきました。

――振り飛車への対策が進んだ背景は?

黒沢 やっぱり、ソフトの影響もありますかね。

都成 ずっと互角で振り飛車もやれると思っていた局面が、ソフトに数字で不利と出され、具体的な手順を示されますから。

黒沢 持久戦より、急戦の対策がきつくなってきた印象です。石田流だと、ここ1、2年は右四間飛車の急戦(A、B図)が強敵です。

――急戦は同じ形になりやすく、ソフトで研究すればハメやすいですもんね。

黒沢 先手は石田流じゃなくて、初手▲7八飛(三間飛車)や先手中飛車が増えています。初手▲7八飛は△8四歩を突かせるのが大きい(C図、D図)。これなら石田流と違って、飛車先を省略されたまま右四間飛車にされないですから。初手から大変な時代になりました。

「ソフトもいってたし」を持ち出されると……(笑)

――ソフトの研究を警戒しながら、作戦を決めないといけない時代?

黒沢 そうです。でも、振り飛車がやることは、そんなに変わっていない。初手で変化はあれど、感覚の違いはない。居飛車が変わってきたので、それに対応しているのが現状でしょう。例えば、居飛車側から端攻めする組み立てが増えました。

――端攻めは終盤の手筋。それを急戦の研究に組み込み、一気にリードを奪う作戦が増えたんですね。

都成 振り飛車で先後の差は大きい。後手だとゴキゲン中飛車がきつくなってきました。

――ゴキゲン中飛車に対し、居飛車は超速▲3七銀の急戦がほとんどです。急戦で変化の余地をなくして、「私がいいでしょう。ソフトもいってたし」と攻めてこられたら、きついですよね。

都成 ソフトもいってたし。それを持ち出されると……(笑)。

黒沢 まあ、いわれるのも慣れてきましたけど(笑)。

――相手が使っていると聞いただけでも、研究にハマりそうで嫌ですよねぇ。

都成 そうなんですよ! 奨励会三段もソフトを使っていて、右見ても左見ても、同じ局面とかあるらしい。でも、プロだと半分ぐらいは使っていないと思います。

――いまの後手振り飛車の主流は?

黒沢 ソフトを使う人は角交換振り飛車を避けていると思うので、ノーマルな振り飛車(角道を止めるタイプ)ですかね。

都成 でも、めちゃくちゃ流行っている感じはない。後手振り飛車が生き残っていくには、作戦を散らすのが大事な気がします。ゴキゲン中飛車は隠し玉で使うとか。ゴキゲン中飛車が主軸の人は、戸辺(誠七段)さんや里見(香奈女流六冠)さんですけど、相当に深い研究をしないと大変ですよね。

――ノーマルな振り飛車が注目されているのは、居飛車急戦の定跡はあっても、いまはほとんど研究されていないからですか?

黒沢 そういうのもあります。

都成 ノーマルな振り飛車に対しては穴熊などの持久戦が主流なので、それなら出たとこ勝負になりやすい。ノーマル振り飛車が急戦に潰される未来は想像できないです。

振り飛車党で注目の棋士は誰?

――振り飛車党で独創的なタイプは、菅井七段です。

都成 菅井さんは自分なりの独自の研究を持っていますけど、多少は作戦を散らしているイメージです。

――菅井さんみたいに新作戦、新手を生み出すタイプは、ほかにいますか。

都成 いないでしょうね。関西の若手振り飛車党で注目しているのは、西田(拓也四段)さん。何でも指しますし、研究が深くて、振り飛車に命を懸けている。多分、ソフトをうまく取り入れていると思います。

――黒沢五段から見て、注目の振り飛車党は?

黒沢 あえていえば、山本(博志四段)君ですかね。ノーマル三間飛車の流行は、彼の影響だと思います。でもデビューして1年ですし、まだどういうタイプかわからないですね。

――変わっている振り飛車党といえば、デビューしたころの永瀬拓矢叡王が浮かびます。駒得重視、受け潰しを狙うタイプでした。

黒沢 私は永瀬さんと練習将棋を結構指していて、影響を受けています。

――ストイックなところも?

黒沢 それは尊敬するだけで……(笑)。彼は居飛車党になって、将棋の質が変わりました。すごく現代的になって、でも永瀬さんらしさも残っていて、形にとらわれない指し方をしてきます。

都成 振り飛車党はソフトを使っていない、大らかな人も多いですよ。もともと、振り飛車はそんなに研究していなくても、ノリで指せるところもあるので。

黒沢 ただ、藤井(猛九段)先生はちょっと違いますよね。大らかじゃなくて、緻密な印象を受けます。

――藤井猛九段タイプの振り飛車党はいますか? ソフトを使わずに、藤井システムなどの新戦法を自分で一から組み立てて、体系化するような。

黒沢 いないんじゃないですか。

都成 これからも出ないかもしれないですね。

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 藤井猛九段は、自ら創案した戦法でタイトルを獲得した誇りを持つ

 昭和後期以降、対振り飛車は急戦や位取りから、玉の堅さを主張する左美濃や穴熊が主流になっていった。1992年、大山康晴十五世名人が竜王戦1組・順位戦A級に在籍したまま69歳で逝去する。振り飛車党の第一人者がいなくなったなか、1997年、藤井は四間飛車の「藤井システム」で当時の谷川浩司竜王を破り、初タイトルの竜王を獲得した。藤井システムは左美濃、居飛車穴熊をシステマチックに撃破する作戦。ひとつの戦法を独自に創り上げる棋士はそういない。

 黒沢五段と都成五段は「振り飛車が苦戦している」と素直に認めた。だが、それは振り飛車が逆襲に転じる、嵐の前の静けさに思える。羽生九段が角道を止める四間飛車を連採しているのも、そこに鉱脈を見つけようとしているからだろう。

「若者には挑戦する資格と義務がある」と芹沢博文九段は説いた。黒沢五段と都成五段が様々な作戦にチャレンジできるのは、力に自信がある証拠である。振り飛車は「不利飛車」ではない――それは盤上で示すしかない。

#1「将棋棋士ってオフの日は何をやってるの?」20代イケメン棋士2人に聞いてみた”へ)

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写真=松本輝一/文藝春秋

黒沢怜生五段(くろさわ・れお)/1992年3月7日生まれ、埼玉県熊谷市出身。高橋道雄九段門下。2014年、四段。2016年、五段。
関東所属の振り飛車党。中終盤に力を発揮する。
2016年、第29竜王戦5組で優勝。2017年、第43期棋王戦で挑戦者決定二番勝負まで進出した。2018年、第44期棋王戦でベスト4入り。

 

都成竜馬五段(となり・りゅうま)/1990年1月17日生まれ、宮崎県宮崎市出身。谷川浩司九段門下。2016年、四段。2018年、五段。棋戦優勝1回。
関西所属のオールラウンダー。2019年4月からNHK「将棋フォーカス」の司会を務める。
2013年、第44期新人王戦で優勝。奨励会員が優勝したのは史上初。2018年、第76期順位戦でC級2組からC級1組に昇級。第31期竜王戦ランキング戦6組で優勝。

(小島 渉)

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