かつて”不治の病”だった白血病のいま 血液内科医が解説する最新治療方法

 水泳・池江璃花子選手が白血病であることを公表して11日。その衝撃は日本中を震撼させている。

【写真】骨髄バンクへのドナー登録サイト

 そもそも白血病は、古くからテレビドラマなどで「不治の病」の代表格として扱われてきたことから、いまも多くの人が、その病名を聞いただけで恐怖を感じるようだ。

リオ五輪にも出場した池江璃花子 ©JMPA

 しかし、近年の医学の進歩は目覚ましく、有効な治療法が開発されている。決して甘く見ることはできないが、不必要に恐れることもない。そのためにも正しい知識を持ってほしい。

日本では3つのタイプの白血病が大半を占める

 白血病は大きく「骨髄性」と「リンパ性」の2つに分類される。それぞれに「急性」と「慢性」の2種類がある。つまり、4つのグループがあるのだ。

 その内訳を順天堂大学医学部附属順天堂医院血液内科主任教授の小松則夫医師に聞いた。

「もっとも多い急性骨髄性白血病が10万人当たり5~6人。次いで急性リンパ性白血病が10万人あたり1~2人。慢性骨髄性白血病はさらに少なく10~20万人に1人程度とされ、慢性リンパ性白血病は、日本ではきわめて少ない。つまり、日本では慢性リンパ性白血病を除く3つのタイプの白血病が大半を占めると考えていいでしょう」

 池江選手の病気がこの中のどのタイプなのかは発表されていないが、過去に白血病になった著名人では、女優の夏目雅子さんや歌手の本田美奈子.さんが急性骨髄性白血病に、歌舞伎役者の市川團十郎さんが急性前骨髄球性白血病という急性骨髄性白血病の一種に分類される病気にかかっている。

 この3人は残念ながら命を落としたが、2000年に急性骨髄性白血病を発症した女優の吉井怜さんは、治療が成功して現在は仕事に復帰している。

白血病になると「白血球をつくる細胞」ががん化する

 そもそも白血病とはどんな病気なのか。よく「血液のがん」と表現されるが、それとて一般の人には理解しにくい。言い換えれば、説明の難しさが、この病気を必要以上に恐ろしい存在に仕立てていると言えるかもしれない。

 血液は骨の内部にある「骨髄」という場所で作られているのだが、白血病になると、血液成分のうち「白血球をつくる細胞」ががん化し、際限なく増え続けるようになる。

免疫機能が低下して、感染症などにかかりやすくなる

 この「白血球をつくる細胞ががん化する」ことから白血病という病名が付いたと思われがちだが、実際は違う。この病気が進行すると、血液中の白血病細胞が多くなり過ぎて、本当に血が白っぽく濁ってくるのだ。もちろん、現代ではそこまで悪化する前に治療が行われるので、血液内科医でも「白い血液」を見ることはほとんどなくなった。

 白血球は、人間の体の中に入り込んできた細菌やウイルスを排除する「免疫」という働きを担っているが、「がん化した白血球をつくる血液細胞」が増え続けると、白血球本来の仕事ができなくなり、免疫機能が低下して、感染症などにかかりやすくなり、悪化しやすくもなる。

 また、「がん化した白血球をつくる細胞」だけが際限なく作られることで、赤血球や血小板など、「正常の血液成分」の生産が滞るようにもなる。赤血球が減ると貧血に、血小板が減ると僅かなことで出血を招き、止まらなくなる。

 そのため、白血病で命を落とす場合でも、必ずしも白血病そのものが死因となるわけではない。白血病はあくまでベースにあって、実際に死因となるのはその先にある肺炎や敗血症、脳出血などだ。

「寛解導入療法」と呼ばれるこの治療法

 このように、病気のメカニズムを見ていくと、確かに恐ろしい病気なのだが、前述のように治療法の開発が進んでいる。

 たとえば急性骨髄性白血病であれば、まず抗がん剤で、見える限りのがんを叩く。「寛解導入療法」と呼ばれるこの治療法について小松医師に解説してもらう。

「広い原っぱに例えると、最初の抗がん剤治療で“見た目”の雑草(白血病細胞)を全部殺すのが寛解導入療法。これがうまく行くと、見た目には雑草が一本もないきれいな土になるが(これを完全寛解と呼ぶ)、実際には土の下に雑草の根っこが残っていて、しばらくするとまた雑草の芽が出てくる。これが“再発”です。なので、見た目に草が見えなくなった後に、さらに抗がん剤を使って“地固め療法”という治療を行う。これで本当に雑草の根まで根絶できれば“完治”となります」

 しかし、この治療の成果には個人差が大きいと小松医師は言う。

「同じ急性骨髄性白血病でも、その中にまた色々なタイプがあって、それぞれで薬に対する反応性も異なる。一概に『これを使えば治る』と言い切れないのも事実です」

かつては発病から1カ月程度で死に至る病気だったが……

 急性骨髄性白血病の一種に、「急性前骨髄球性白血病」とよばれるタイプの病気がある。骨髄にある血液の種(これを造血幹細胞と呼ぶ)が血液細胞に成長していく際、白血球の中にある好中球という免疫細胞が作られる時に「前骨髄球」という細胞ができるのだが、これが異常に増えるのが急性前骨髄球性白血病だ。

 この病気になると血小板と血液凝固因子が減ってしまい、ちょっとしたことで出血を招く。かつてはすべてのあらゆる白血病の中でももっともたちの悪い病気とされていたが、1988年に中国人医師がビタミンA誘導体の飲み薬を使って行う「分化誘導療法」を開発したことで、治療成績は劇的に向上した。

「『ATRA』という薬を使うのですが、今でいう分子標的薬の走りです。かつては発病から1カ月程度で死に至る病気だったのが、この治療によって現在は5年生存率が70%を超えるまでになっています」(小松医師)

さらに治療成績が向上している白血病も

 慢性骨髄性白血病については、さらに治療成績が向上している。

 名前からもわかるように、慢性骨髄性白血病は「急性――」よりゆっくり進行していく。病気の初期は「慢性期」と言って、ほとんど症状もなく安定した状態が続く。

 しかし、ゆっくりとはいえ病気は進行するので、ある一定ラインを超えると一気に悪化する。そして急性骨髄性白血病に似た状態に至り(これを「急性転化」と呼ぶ)、こうなると造血幹細胞移植などの治療が必要になることが多い。

 ただ、慢性期のうちに有効性の高い薬を使うことで、病気の進行を抑え、急性転化をさせないことが可能になってきているのだ。

「慢性期のうちに薬を使い続けることで、がん細胞がほぼ消えた状態を維持できるようになりました。しかも最近は、投薬を中止しても効果が持続するケースもあることが報告されています」(小松医師)

従来型の抗がん剤を大量に使う

 一方、急性リンパ性白血病はどうか。

 この病気は、造血幹細胞から血液細胞が分化される過程で、いずれ成長するとリンパ球になるはずの細胞ががん化していく病気だ。

 これも以前は太刀打ちできない病気の一つとされていたが、やはり新薬の開発のおかげで治療成績は向上している。

 ただし、急性リンパ性白血病の治療は、分子標的薬ではなく、従来型の抗がん剤を比較的大量に使うことが多く、治療そのものは決して楽ではないという。

「急性リンパ性白血病は、小児と成人で治療法が異なります。子供のほうが強い抗がん剤を使えるので治療成績がよく、9割程度は治るようになりました。成人でも比較的若いAYA世代(15歳~30代)であれば、それに近い強力な抗がん剤を使えるので、やはり7割程度はいい結果が得られるようになっています。しかし、それ以上の年齢になると、体力的にこうした強力な抗がん剤治療は危険になってくるのが実情です」(小松医師)

最後の切り札が「骨髄移植」

 このように、どのタイプの白血病にも抗がん剤を用いた化学療法が用意されており、また新薬の開発により治療成績は向上している。

 しかし、すべての症例で思うような効果が得られるわけでもないことも事実。そこで、最後の切り札として用意されているのが「造血幹細胞移植」、いわゆる「骨髄移植」だ。

 あらかじめ大量の抗がん剤で白血病細胞を完全に撲滅し、そこに正常な造血幹細胞を蒔くというイメージ。ドナーの体内から造血幹細胞の入った「骨髄液」を採取し、患者に点滴で投与する治療法。患者の体に入った骨髄液が骨髄に届いて定着すると、そこで造血幹細胞が正常な血液を作り出すようになる――という仕組みだ。

一人でも多くの人にドナー登録してほしい

 これも移植技術の進歩によって、成功率は上がっているが、一番のネックは「ドナー不足」だと小松医師は言う。

「造血幹細胞は誰からでも移植できるわけでもなく、HLAという“型”の組み合わせが合わなければならない。この組み合わせは非常に多くて、よくて数百人に1人、珍しいタイプだと数万人に1人しか適合しないこともある。一番適合しやすいのは両親が同じ“きょうだい”なのですが、少子化の影響がこんなところに響いてきています」(小松医師)

 多くが「骨髄バンク」に登録している人から提供してもらうことになるのだが、ここにも障壁があると小松医師は言う。

「ドナーから骨髄液を採取するにも2~3日の入院を必要とします。せっかくHLAが適合しても、仕事などの関係で見送らざるを得ないケースもある。そんな時は、患者にとって残念なのはもちろんですが、ドナー候補者にもつらい思いをさせることになる。候補者が多ければそうしたことを防げる可能性も高くなるので、1人でも多くの人にドナー登録してほしい」

 池江選手の一件で白血病への関心が高まり、骨髄バンクへの問い合わせも急増しているという。これが一過性のものとならず、多くの国民が白血病という病気に対して、正しい知識を持つことが求められているのだ。

(長田 昭二)

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