「袴田事件」再審無罪で「2億円超補償」と「国家賠償」の可能性を元検事が指摘

無罪判決後、支援者から花束を受け取った、袴田巌さんの姉・秀子さん(写真・梅基展央)

 

 事件発生・逮捕から実に58年を経た無罪判決だ。1966年、静岡県でみそ製造会社の専務宅が全焼。焼け跡から4人の遺体が発見され、警察は強盗殺人事件として捜査を開始。みそタンク内で見つかった5点の衣類を証拠として、同社従業員だった袴田巌さんを同容疑で逮捕・起訴した。

 

「袴田さんは公判では一貫して無罪を主張しましたが、1980年に最高裁で死刑が確定しました。翌年に第1次再審請求、さらに2008年に第2次再審請求をして、2014年に静岡地裁で再審開始が決定され、袴田さんは釈放されました」(事件担当記者)

 

 2023年には、一度決定を取り消した東京高裁も再審開始を認め、同年に静岡地裁で再審は開始された。

 

 そして9月26日、静岡地裁は「5点の衣類は、捜査機関によって捏造されたと考えるほかない」と厳しく批判、袴田さんに無罪が言い渡された。

 

 袴田さんは拘禁反応とみられる症状が残り、公判には姉のひで子さんが出廷していた。判決後、ひで子さんは袴田さんとともに自宅に戻り、「無罪の判決が出た。あんたの言う通りになったで」とうれしそうに語りかけた。

 

 袴田さんは晴れて無罪となったわけだが、今後の焦点は「検察が控訴するのか」「賠償はどうなるのか」に移る。

 

「逮捕起訴され、無罪になると『刑事補償』の対象になります。金額は拘束1日あたり1000円~1万2500円。しかし上限の1万2500円が支払われたとしても時給に換算するとおよそ500円。この金額が妥当なのかどうか、たびたび議論になります」(司法担当記者)

 

 

 今回のケースでは、どのような補償が想定されるのだろうか。元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏に聞いた。

 

「申し立てれば、ほとんどが刑事補償を認められます。袴田さんは死刑判決も受けているので、精神的苦痛は相当なものだったでしょう。1日当たり1万円以上の支払いになると思います。支払いは直ちに行われます」

 

 仮に上限の1万2500円が支払われるとすると「1万2500円×365日×勾留48年」となり、2億円を超える補償額になる。

 

 さらにこの刑事補償のほかに「国家賠償」もある。

 

「これは検事や刑事が、被疑者が犯人ではないと知りながら証拠を捏造して逮捕勾留した時などに適用されます。

 

 一般的に『故意にやった』ことが明らかにならないといけないので、『国家賠償』が認められるにはハードルが高いですね。しかし袴田さんの場合は『捏造があった』と静岡地裁が認め、さらに最高裁でも死刑判決が出されているので、その辺りがどう評価されるかにかかっています」(若狭氏)

 

 多額の補償がなされたとしても、袴田さんの「失った58年」は戻ってこない。

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