家族葬ホール増加で住民とのトラブル続出…京都では「事前説明なし」「威圧的態度」専門家は「要綱無視は大問題」と指摘

建設反対を訴える「守る会」。道行く人にビラを配っていた

 

 価値観の変化やコロナ禍を背景に、少数の近親者で営む家族葬が増えている。その葬儀場は小規模なため、認可が必要な項目が少なく、建設は比較的容易だ。そのため、近所のコンビニが突然、家族葬ホールに変わるといったことが全国で起きており、地域住民との軋轢がしばしば生じている。

 

 京都市右京区太秦でも、住民の反対運動のなか、2023年11月に家族葬ホールの建設が始まった。場所は、東映京都撮影所からほど近い住宅街。有名俳優らが足しげく通う店などが点在する一角だ。

 

 

 同年12月、本誌が工事現場を訪れると、「葬儀場建設反対!」と大書された赤いのぼり旗を立てたグループが、「らくおうは住民が合意していない工事を中止しろ」「嘘をついて取った建築確認を取り下げろ」などと訴え、行き交う人々にビラを配っていた。

 

 住民たちが怒りを向けるのは、「家族葬 らくおう」の「太秦ホール」。「らくおう」はライフアンドデザイン・グループ西日本株式会社が京都を中心に運営する家族葬ホールのブランドで、同社はほかにも大阪などで「セレモニーハウス」という名前で展開している。

 

 また、同社の親会社の株式会社ユニクエストは、「小さなお葬式」という葬儀手配事業をおこなっている。

 

 反対運動に参加する女性は、本誌の取材にこう語った。

 

「らくおうは終始住民を無視したり、嘘をついたりしてきた。当初、住民説明会を求めると、『うちは説明会はやりません。当社はもともとしない方針です』と頭ごなしに拒否。

 

 さらには、『建てます、建ててみせます、建つんです!』とか『この建設に反対するなら、みなさんは得られるものも得られなくなりますよ』などと、威圧的な態度を取ってきた。挙句の果てには、我々との合意なしに着工。絶対に許されへん」

 

 らくおうに対する住民の不信感がピークに達したのは、「建築確認」をめぐるいざこざがきっかけだった。

 

 建築確認とは、これから建てようとする建物が法律や条例に適合しているかどうか、自治体もしくは指定の民間検査機関が審査すること。審査を通過した建築計画は公的な許可を得たことになる。

 

 住民らは、らくおうの建物に建築確認が下りているのかどうかを確かめようとした。ただ、住民は専門家ではないため、建築用語に明るくない。ある女性はこう怒りをぶちまける。

 

「『葬儀場建設に対し、京都市の許可は下りているのか』と尋ねると、らくおうの担当者は何度も『許可は下りている』と繰り返したんです。当然、らくおうのいう『許可』は、建築の世界で言う『建築確認が下りた』という意味だとばかり思っていました」

 

 ところが、らくおうが2021年9月に建設計画を発表した時点では、まだ建築確認は下りていなかったのだ。

 

「たまたま住民の中に建築関係の仕事をしている方がいて、京都市に問い合わせたところ、らくおうはまだ建築確認を申請していないことがわかったんです。それで、みんな『嘘をつきおった』『騙された』と怒り、らくおうに苦情を言いました。

 

 ところが、らくおうは『建築確認が下りたとは言っていない。京都市との事前協議の結果、市から住民に対し計画を説明してもいいと許可されたという意味で言った』と、苦しい言い訳をするんです。『建築確認が下りています』と担当者が答えたのを聞いた住民もいるのに。

 

 公的な許可を得たと最初に伝え、住民にあきらめさせようとして嘘をついたとしか考えられない。らくおうはほかのホールの建設現場でも同じことをやっていると聞きますから、反対派を抑え込む常套手段のようです」(同前)

 

 らくおうのトラブルは、太秦だけにとどまらない。京都市北区に立つ「堀川北大路ホール」の近くに住む男性は、3年ほど前にらくおうから突然、「京都市の建築確認は下りていますから、着工します」と伝えられたという。男性は当時を振り返りながら、「今さら反対しても無理だとあきらめてしまった。ちゃんと市に確認すべきだった」と悔やむ。

 

 また、ライフアンドデザイン・グループによるらくおうとは別ブランド「セレモニーハウス高槻中央」が建つ大阪府高槻市の男性は、「外から葬儀の様子が見えないように植栽を要望したが、4年間ほったらかしにされた」と語った。

 

 太秦の反対派住民は、らくおうの一方的な態度を受け、「映画の街太秦の住環境を守る会」を結成。そして2021年10月、「守る会」は自分たちで募った2432筆の署名とともに建設反対の請願書を市に提出。行政担当者と市議会議員が地域課題について話し合う、市の「まちづくり委員会」で討議されることになった。

 

 京都市では、かつて葬儀場建設をめぐって事業者と住民の対立が頻発したことから、紛争を事前に防ぐために独自の「指導要綱」がまとめられた。

 

 建設前に計画を近隣住民に説明することや、住民から協議の要望があれば応じること、さらに開業後は景観を損ねるような広告をしないことなどを事業者に求め、一定の歯止めをかける内容となっている。「守る会」にとっては、京都市ならではのこの指導要綱は頼みの綱だった。

 

 当初、「説明会はしません」と断言していたらくおうだが、京都市からの指導のもと、2022年5月に第1回住民説明会を開いた。同時に「まちづくり委員会」でも審議は進み、同年9月開催の委員会で京都市は、建築確認は住民との合意ができた後におこなうものだという認識を表明。

 

 京都市のこの発表から、「守る会」は、住民との合意がなければ建築確認を申請できないものと確信した。ところが、2週間後に開催された第2回住民説明会で、「守る会」にとって驚きの発表がらくおうからなされた。

 

「すでに8月9日に建築確認は下りました。10月初旬に着工します」

 

 既成事実とでもいうような発言に、会場は騒然となったという。

 

「建築確認を申請していたなんで、我々にとってはまさに寝耳に水。住民の合意がないどころか、こちらにはいっさい連絡なし。当然ながら説明会は紛糾し、『そんなの無効や!』『卑怯な手を使うな』と、誰もが声を荒らげました」(「守る会」メンバーの一人)

 

 さらに、らくおうの担当者の「このことは京都市さんもご存じです」という発言から、らくおうの建築確認申請について住民に知らせなかった京都市に対しても、「京都市は何してんのや。ちゃんと指導してるんか!」などと怒号が飛んだという。

 

 じつはその京都市も、最終的に建築確認が下りたことは知らなかった。らくおうは7月に民間の検査機関に建築確認の事前申請をおこない、そのひと月後、同機関に本申請をして、正式な建築確認が下りた。京都市の建築指導課は、「事前申請をおこなったのは把握していましたが、まさか本申請を提出するとは思わなかった」と取材に答えた。

 

 住民説明会の2日後に開かれた「まちづくり委員会」では、市の建築指導課と市議がらくおうへの遺憾を表明し、会場は重苦しい雰囲気に包まれたという。後日、市はらくおうに対し、住民側に建築確認の経緯をていねいに説明するよう求めた結果、着工は約1年延期されることになった。

 

敷地を覆うフェンスの中では粛々と工事が進められていた

 

■らくおうの反論

 

 なぜ、らくおうは住民や市から批判されるような強引な形で建築確認を申請したのか? らくおうの弁護士は取材にこう答えた。

 

「建築確認は、決して秘密裏に申請したものではありません。まず、本申請の約1カ月前の7月1日に事前申請をおこないました。本申請は、審査機関が30日以内に結論を出さないと却下されたことになる。なので、書類の不備等がないかをあらかじめチェックするために、実務上、事前申請という形を取りました。

 

 事前申請については、京都市はご存じのはずです。というのも、事前申請をしてしばらくたった7月26日に、京都市の建築指導課からメールで、『建築確認申請は、今の計画で着工するという意思表示と受け止められるので、しっかり住民側の意見を汲んで調整のうえ、申請をおこなってください』と伝えられ、それは事前申請の認識があったからこその内容だと思います。

 

 また、この返事の内容に対しても即反論しました。指導要綱のどこを見ても、住民の合意ができるまでは建築確認を申請してはならない、あるいは葬儀場を建ててはならないとは書かれていない。

 

 そもそも指導要項とは、自治体からの『お願い』でしかない。その指導要綱にすら書かれていない、『住民との合意ができるまで建築確認を申請してはならない』という命令とも受け取れるメールが来たので、『それは法的におかしい』と言わざるを得なくなったわけです。

 

 仮に葬儀場建設に住民の合意が必要というルールがあったとすれば、もはやどこにも建てられません。それも営業の自由の侵害で、市民の権利を奪うことになります」(弁護士)

 

 すると同日、京都市はすぐに返信してきたという。

 

「その趣旨は、建築確認申請は指導要綱とは別物なので手続きを進めてかまわないし、指導要綱についてはあくまでも市からのお願いだ、というものでした」(同)

 

 つまり、市は建築確認申請についてあれこれ言うことはできないとして、らくおうの主張を認めたということだ。

 

■京都市の主張

 

 らくおうの建築確認が下りていたことについて、京都市は本当に知らなかったのか? 同市建築指導課に見解を取材した。

 

「把握していませんでした。市ではなく民間の検査機関に申請されたため、タイムラグが発生してなかなか把握しきれなかったと前任者から聞いております。

 

 事前申請についてはすでに知らされていましたが、当時はまだ『まちづくり委員会』で住民の請願を審議している最中だったため、その段階でまさか本申請をおこなうとは思っていなかったとのことでした」

 

「まちづくり委員会」において市は、建築確認の申請は住民との合意ができた後におこなうものだという認識を示したが、実際にはらくおうがその手順を踏まなかった。それについてはどう考えるのか?

 

「まず指導要綱について、勘違いされている方もいらっしゃるかもしれませんが、葬儀場をここに建ててはいけませんと規制するようなものでは決してありません。市には建築確認申請や着工を止める権限はありませんし、やってはいけないとは言えない立場です。

 

 では、何を事業者に指導しているのかというと、あくまでも葬儀場の建設は前提として、住民の要望や意見をできる限り取り入れたものにするということです。

 

 つまり、市が意味する住民との『合意』とは、建物の内容についてのもの。葬儀場を建てること自体に合意が必要だとは決して言っていません。

 

 葬儀場は社会のなかで必要な施設だと考えています。また、事業者にも営業の権利があるわけで、ある地域で、特定の業種だけを規制することは行政にもできません」(建築指導課)

 

 この発言から、市と「守る会」の「合意」についての認識が異なるものだとわかる。市の意味する合意は、あくまでも建設を前提に、事業者は建物の内容に住民の希望をなるべく取り入れるべきというもの。一方、住民側の合意は、葬儀場を建てるか否かについてのもの。そもそも前提が違い、互いに話が噛み合っていないのだ。

 

■第三者の専門家の見解

 

 この紛争について、第三者の専門家はどう見るのか。京都の開発事情に詳しい飯田昭弁護士に尋ねた。

 

「太秦の事例で注目すべきは、映画を中心とした文化芸術の街にそぐわない建物が突然建てられようとしていること。また、地域住民からは建設に反対する激しい怒りが噴出していること。そして、家の前を霊柩車が何度も行き来するなど、葬儀場の営業が住民の生活環境やメンタル面に大きな影響を与え得ること。それらはすべて、『人格権の侵害』に当たる可能性があります。

 

 また、らくおうは、かなり強引に建設を進めようとしてきた。たとえば、指導要綱違反。たしかに法的拘束力は弱く、指導要綱に従わなかったからといって、ただちに建設差し止めとはならないでしょう。

 

 しかし、指導要綱はこれまでに京都市で葬儀場建設に関する紛争がいくつも起こった経緯から、地域の環境と住民生活を守ろうとしてつくられたもの。そうした背景から生まれた要綱を、らくおうが軽視してきたのは由々しき問題です。

 

 さらに、建築確認を申請する際も、住民に事前説明をしないなど、正当な手順を尽くしていません。

 

 こうした紛争によって、最終的に事業者が撤退するケースは実際に見られます。それは法律に違反したからではなく、報道などを通じて反対世論が巻き起こるといったダイナミズムが働いた結果なのです。今後も、住宅密集地での葬儀場建設の問題は頻発すると思われ、私たちは注視していく必要があります」

 

 葬儀場は国民生活に必要な施設だが、身の周りには建ててほしくないという典型的な社会的ジレンマだ。一筋縄ではいかないが、事業者はていねいに説明をおこない、住民はそれに真摯に向き合って互いの妥協点を見出すしかない。

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