沖縄「高校生失明」事件、殴った警官「罰金100万円」に「軽すぎ」の声…被害者母が本誌に語っていた“慟哭”

事件直後、本誌の取材を受ける被害者高校生の母親

 

 沖縄県沖縄市で2022年1月、バイクに乗った高校生を止めようとして警棒が接触し、右目を失明させたとして、業務上過失傷害罪で在宅起訴された元県警巡査部長に対し、那覇地裁(佐藤哲郎裁判長)は12月25日、検察側の求刑どおり罰金100万円の判決を言い渡した。

 

 判決は、通達で定められた夜光チョッキや警笛などを活用せず、警棒を差し出したことは「重大な傷害を生じさせる蓋然性が高い危険なもの」と指摘。被告は、「警察官の基本的な注意義務に反した」とした。

 

 

 一方、高校生側が警察官を認識し、停止や徐行の措置を取ることができた可能性にも言及し「衝突の要因を被告の過失だけにある、と非難できない」とも指摘した。

 

 高校生側は、禁固刑以上の実刑を科すべきと主張していた。判決後、高校生側の弁護士は「被害を考えると判決は軽すぎる」と述べ、民事訴訟も検討するとした。

 

 罰金100万円という判決には、SNSでも「軽すぎる」という声が巻き起こっている。

 

《片目を奪って一生障害者にしてたった100万円の罰金。警棒が目の位置に差し出されるなど意図的でしかない》

 

《たった100万円の罰金刑かよ。暴力警官には実刑が相応しい。相変わらず公権力には甘い》

 

《これ、暴行だよなぁ。罰金百万、被害者には何の補償もないんだろ。民事でガッツリ取れればいいけど》

 

 本誌は事件の直後、高校生(当時17歳)のAさんの母親を取材、悲痛な胸中を聞き、2022年2月8日に報じている。母親が息子の無念について語るのは、初めてのことだった。

 

「息子は、バイクで走っていたら道の右側から警察官が急に出てきて、棒のようなもので殴られたと話していました」

 

 事故が起こった現場は、道幅3mほどの狭い道路。警察官は物陰に立ち、Aさんのバイクが通過する瞬間に飛び出し、警棒を顔面めがけ振ったのではないかとみられている。

 

「事件の2時間前に『早く帰って来てね』とLINEを送っていたばかりでした。息子は昨年(2021年)9月に免許を取って、125ccのバイクを買ったんです。高校2年で友達も増えて、よく遊びに出ていました。けっして暴走族でもないし、母の日や私の誕生日に必ずプレゼントをくれる優しい子なんです」

 

 母親は嗚咽を漏らしながら続けた。

 

「手術が終わった息子は『お母さんごめんね。夜遅くなったから、こんなことになってごめんね』と言うので、ごめんじゃないよって言ったんです。悪くないから謝らなくていいからねって。

 

 息子は最初、失明したことを知らず、『視力が戻るかな』と期待を持っていました。でも私が、もう見えないね、元には戻らないよと言うと、黙って頷いていました。

 

 私を気遣い『こっち(左目)があるからいいか』って話すので、そうだね、半分でイケメンになろうねって言うのが精いっぱいでした……」

 

 目から血を流すAさんの様子はSNSで拡散され、2022年1月28日未明、沖縄署前に若者ら400人余りが集結し、署を襲撃する暴動が発生した。若者らは、停めてある車を破壊し、玄関に向けて石や生卵などを次々に投げつける騒ぎとなり、“コザ暴動の再来” ともいわれ、注目を集めた。

 

 Aさんは病床でそのことを知り、動揺していたという。

 

「Aは暴動の様子をスマホで見て、『俺の印象悪くないかな。俺のせいでこうなったから』と心配していました。ただ、暴動がなかったら、この事件が注目されることはなかったと思います。不良が警察の制止を振り切って怪我を負った、よくある事件と思われて終わったでしょうね。その意味では感謝しています。暴動ではなく、抗議ならなおよかったとは思いますが……」

 

 2022年9月、沖縄県警は男性巡査を「故意犯」と判断、法定刑がより重い特別公務員暴行陵虐致傷容疑で書類送検した。2022年11月1日には、沖縄署の署長、副署長らがAさんやその家族と面会、「警棒の使用は不適切だった」と謝罪した。

 

 本誌は、警察と面会したあとにも、Aさんの母親に話を聞いている。当時、彼女は苦しい胸の内をこう明かした。

 

「やっとここまできたかという思いです。書類送検されて裁判はこれからです。警察は謝罪に来ましたが、いまだに『制止した』と言っていましたから、裁判でもそう主張するかもしれませんね。

 

 息子は前向きに生きています。『早く解決させて前に進みたい』と言っていますが、これから裁判だというと、『これからか……もう関わりたくない』と言っていました」

 

 また、Aさんの別の親族は当時、こう話していた。

 

「元気に高校に通っていますよ。もともと明るい子で、これまでどおり登校しています。もっとも、この事件が頭から離れることはないでしょう。

 

 当初はサングラスをかけたり、眼帯をしていましたが、いまは何もせず生活はできています。ただ本人は高校3年生で、見た目も気になるようで、たまにサングラスをかけています。

 

『見えないものはしょうがない。早く全部終わらせたい』と言って頑張っていますよ。警察としては沖縄署に対する投石事件は許せないことでしょうが、私たちとしてはあの投石事件があって、全国区のニュースに流れたことで、今回の結果につながったと思っています。今後は刑事裁判の結果を見て、民事でも裁判を起こすことになると思います。まだ長いです」

 

 2023年6月、那覇地検は、故意の立証が難しいとして、「特別公務員暴行陵虐致傷」ではなく「業務上過失傷害」の罪で、巡査を在宅起訴。これを受けて、県警は巡査に停職1カ月の懲戒処分を下した。この処分にAさんは弁護士を通じて「軽い処分でショック。言葉にならない」とコメントしていた。

 

 今回、下された「罰金100万円」の判決。「早く全部終わらせたい」というAさんの願いが届く日は、いつになるのだろうか。

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