核のごみ 文献調査大詰めの北海道寿都町でシンポ 住民138人参加

シンポジウムの様子=寿都町で2024年11月15日午後6時54分、伊藤遥撮影

シンポジウムの様子=寿都町で2024年11月15日午後6時54分、伊藤遥撮影

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定に向け、文献調査が最終段階の寿都町で15日、町民向けのシンポジウムが開催された。町は次のステップの概要調査に進むかどうかを住民投票で問う方針だ。この日は、処分事業に賛成、反対の立場の地質学者2人が招かれ、参加した地域住民138人が放射性廃棄物処分の最新技術やリスクへの理解を深めた。

 冒頭、片岡春雄町長は「約4年前、この問題に一石を投じようと考えたのは、誰かがスタートボタンを押さなければ全国的な議論にならないと思ったため。町民を不安な思いにさせてしまったが、さまざまな経緯や考え方に触れてほしい」とあいさつした。

 最終処分の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)は、地層処分の基礎的な仕組みを説明した。放射性物質をガラスで固め、厚さ約20センチの金属製容器に入れた上で厚さ70センチの粘土で覆い、地下300メートル以上の岩盤内に埋める。適地の調査は、文献(約2年)▽概要(約4年)▽精密(約14年)――の3段階を設け、「概要調査に進む場合は知事、市町村長の意見を尊重する」と強調した。

 パネリストとして招かれた北海道教育大の岡村聡名誉教授(地質学)は、地層処分の先進地である北欧に比べ「日本は地震活動や地殻変動が段違いに激しい場所」と指摘。処分場の選定基準が、フィンランドなどは「長さ100メートル以上のいかなる断層も避ける」とされているのに対し、日本は「活断層と10キロ以上の断層のみ」で、甘い基準だと説明した。

 また、町北東部の磯谷溶岩が処分場建設の対象から外すべき「第四紀火山」にあたる可能性が高いとする新知見にも触れた。岡村名誉教授は「寿都町での建設はやはり避けるべきだ」との見解を改めて示した。

 日本大の竹内真司教授(環境地質学)は、アフリカで約20億年前にウランが自発核分裂してできた「オクロ天然原子炉」(ウラン鉱床)が、長期間にわたりほとんど移動していないことを紹介した。このことから地層処分は有効で、日本にも同じような場所が存在すると解説した。

 今夏、町民が国やNUMOに宛てた「地層処分の技術は確立されていないのでないか」との質問にも答えた。岡村名誉教授は「放射性廃棄物の毒性が鎮まるまでに数万年~10万年かかると言われている。その間、(放射性物質を固める)ガラスや容器が本当に安全なのかは実証されていない」と回答。竹内教授は「地層処分の技術研究は1970年代に始まり、50年以上、常に進化してきた」と答えた。

 参加した町民の声も途中で集められて、会場で読み上げられた。「やっと賛否の専門家の話が聞けた。なぜもっと早くやらなかったのか」「調査をするだけで90億円以上の交付金をもらえるなんて、こんなにおいしい話はない。全国的に大々的に調査を進めるべきだ」などの意見が報告された。

 終了後、シンポに参加した建設業の男性(54)は「詳しい調査に進まないと何も分からない。調査で適地となれば処分場ができるのはオーケー」。宿泊業の女性(73)は「やはり寿都町の地盤は安全じゃないと感じた。以前から危険性が指摘されているのに町が調査を進めるのは、国からのお金欲しさだけだと思う」と話した。

 報道陣の取材に応じた片岡町長は、概要調査の受け入れに関して「私が決めるのではなく、住民投票で答えを出し、私はそれに従う」と従来の意向を堅持。今後も住民の理解度に応じて、シンポジウムを開催するという。

 最終処分場選定を巡っては、経済産業省の有識者会議が今年8月、寿都町全域と神恵内村の一部が概要調査の候補地になり得るとする文献調査の最終報告書案をおおむね了承した。今後、報告書が公表される。【伊藤遥】

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