政府の緊急事態宣言 今後の方針は

大阪市の小中オンライン授業は何だったのか 現場から見えた課題

通常授業が再開した後も、授業でタブレット端末を活用する大阪市立柏里小の児童たち=大阪市西淀川区で2021年5月24日午前9時11分、猪飼健史撮影(画像の一部を加工しています)

通常授業が再開した後も、授業でタブレット端末を活用する大阪市立柏里小の児童たち=大阪市西淀川区で2021年5月24日午前9時11分、猪飼健史撮影(画像の一部を加工しています)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言を受け、大阪市が市立小中学校で唐突に実施を打ち出したオンライン授業が物議を醸した。インターネット環境の整備が間に合わず、対面授業と遜色なく実施できた学校は一部に限られたが、家庭との双方向通信を試す好機にもなった。トップダウンの方針決定は、混乱だけでなく収穫をもたらしたのか。市教委の調査結果や専門家の見解から、今後の課題を探った。【野田樹】

 事の発端は、松井一郎市長が4月19日に「原則オンライン授業」の方針を突然表明したことだった。3月末までに1人1台のタブレット端末を配り終えたことを念頭に置いた発言だったが、市教委は準備が追いついていない現場の状況を踏まえ、動画視聴を含むオンライン学習などに範囲を拡大。宣言の期間中に、双方向通信の接続テストも実施するように求めた。

双方向通信、小学校半数が「不安定」「つながらない」

 市教委が市立小中の全418校に実施したアンケート結果によると、宣言中の4月26日~5月11日に小中学校の9割以上が双方向通信(接続テストを含む)を実施。だが、子供が教諭に質問したりする双方向通信で学習活動ができたのは、小学6年で54%、中学3年で50%にとどまり、小中共に学年が下がるほど実施率が下がった。

 また、双方向通信に取り組んだ小学校のうち、約半数が「通信が不安定だった」「接続できなかった」と回答。中学校の3~4割でも同様の事態が生じた。双方向通信を実施した頻度は調査対象外で、どの程度浸透したかは不明だ。

トップダウン 現場の準備追いつかず

 教員や保護者の声からは、厳しい現状が垣間見えた。市南部の市立小では、操作方法を教える指導が間に合わず、主にプリント学習で対応した。男性教諭(39)は「端末は2月末に届いたばかり。必死に準備したが課題が多すぎて、間に合わなかった」と振り返った。生野区の市立中に長女が通う母親(39)は「オンライン授業は接続テストの一度きりだった」と漏らした。

 調査や学校現場の状況からは、テストを含めた双方向通信を実施したものの、多くの学校で学習に活用するまでの準備が追い付いていなかったことがうかがえる。市教委の担当者は「教員や子どもへの支援方法を検討し、サーバーの強化といったハード面の課題にも取り組んでいく」と話す。

識者「身軽な使い方から試して」

 一方、教育のICT(情報通信技術)化に詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授(教育工学)は「接続テストだけでも、多くの学校で双方向通信をしたことは前向きに評価すべきだ」と肯定的に捉える。

 家庭にいる子どもと接続テストをするためには、双方向通信ソフトのIDを配布する▽端末の操作に慣れさせる▽家に端末を持って帰る――などの手順が必要となる。元から仕事量が多い教員の新たな負担になりかねず、導入をためらう自治体が目立つという。

 豊福准教授は「いきなりオンライン授業ではハードルが高いので、身軽な使い方から試してほしい」と提案する。例えば、端末を活用して連絡帳をデジタル化すれば印刷物が減り、保護者への連絡漏れも防げる。子どもと教員、保護者が互いにメリットを感じられれば、浸透が早まると期待を寄せる。

 一方で、「教員がメリットを感じられるかどうかで、学校ごとにICT活用の格差が広がる。市全体で底上げする必要が出てくる」と約16万人の児童・生徒を抱える大都市ならではの課題を指摘した。

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