小夏に中村静香さん起用の理由は つかこうへいにこだわる俳優が語る「蒲田行進曲」

「たやのりょう一座」の第3回公演は、故・つかこうへいさんの代表作「蒲田行進曲」。中央が、ヒロインの小夏役の中村静香さん=たやのりょう一座提供

 俳優の田谷野亮さん(32)が今春、故つかこうへいさんの代表作「蒲田行進曲」に挑戦する。主人公の銀四郎は自らが演じ、ヒロインの小夏役には、女優でタレントの中村静香さん(30)に白羽の矢をたてた。ヤス役は小谷けいさんが演じ、これまで多くのつか作品を手がけてきたこぐれ修さん(劇団☆新感線)が演出し、振り付けは槙田紗子さんが担当する。舞台を中心に活動するかたわら、2016年に、自分の名を冠した「たやのりょう一座」を旗揚げ、つか作品にしぼって公演を重ね、今回も「一瞬のスキもない舞台を」と意気込む田谷野さんに、ヒロイン起用の経緯や、作品への思い入れを聞いた。【小座野容斉】

「小夏」が演じられる女優、探し求め

 一座として3回目の公演。3本目の芝居に、小説や映画にもなった人気作を持ってきました。

 ◆本当は、最初に「蒲田」をやりたかったのです。つかさんの作品の中で一番やりたかったのが蒲田でした。映画(深作欣二監督、1982年)を見て衝撃を受けました。

 もちろん公開時に見た世代ではない。

 ◆映画の勉強をしようと思って、DVDをレンタルして見ました。2012年に「仮面ライダー」に出ていたころです。舞台や小説も含め、つかさんの作品のなかで最初に出合いました。

 どうして最初にやらなかったのですか。

 ◆ヒロインの小夏役に合う女優さんが周りにずっといなくて。「やっぱり、できない」っていう状況が旗揚げから2年間続きました。演技力だけでなく、小夏という人物自体を演じられる、生まれついてのものを持ったヒロインに出会えなかったです。だから、今いる役者でできる、「いつも心に太陽を」や「ストリッパー物語」を上演してきました。去年の夏に、ヒロインになってくれる人がやっと現れました。それが中村さんでした。

 どういう縁で共演することになったのですか

 ◆完全にこちらからのオファーです。テレビを見ていて、いいなと思っていました。

 自分の中にある小夏のイメージに近かった。

 ◆舞台の小夏は、本当に天真らんまんなんですよ。明るくて。(映画版で)松坂慶子さんが演じた小夏は、少し陰のある松坂さんのイメージに寄せて撮影したのだろうと思います。しかし、舞台だと、もう天真らんまん。元気で可愛らしいんですよ。中村静香さんも小夏のように天真らんまん。多くの人に好かれるであろう可愛さがある。これならいけるんじゃないかなと思いました。

 いつごろオファーしたのですか。

 ◆昨年の夏前です。最初は「スケジュールが厳しい」と断られました。でも、再度お願いしました。「公演の本番の日程さえ合わせてもらえれば、けいこのスケジュールは、こちらが合わせるからどうしても」と。それで、2回目でOKをもらいました。8月15日でした。朝、けいこ場にいたら電話がかかってきて「よろしくお願いします」と言われました。とてもうれしくて、今でもよく覚えています。

 中村さんはオファーをどう受け止めたと聞きましたか。

 ◆私はまだ芸能界では知られていない存在ですから、「誰や、こいつ」と感じたのではないかと思います。中村さんは「全然違うところからゴンと殴られた感じだった」そうです。突拍子もないところから出演依頼がきたという感覚だと言ってました。ただ、僕も「そう思うやろな」と思いながらオファーしたので。「絶対、無理でしょう」とか「よくオファーしたね」と、周囲から言われました。

 魅力的なヒロインを得ての舞台。リーダーとしての覚悟は。

 ◆中村さんは、テレビドラマや映画の出演経験は豊富ですが、舞台はエンターテインメント系のものを2回ほどやったそうです。本格的な芝居はほぼ初めてと話していました。演劇というものを好きになってもらいたいですね。「出てよかったな」と。ただ、彼女だけにかかり切りになって、他のメンバーを置いていってしまうことになってはいけない。まったく違う畑から集まった24人を、けいこ場でどう一つにしていこうかと考えています。とはいえ、あまり考え込んでけいこに臨むタイプではないので。その場その場で、みんなの目を見て、いろいろなことを考えながら積み重ねていきます。けいこは2月から始まります。自分のステップアップにもつなげたい大切な公演なので、失敗しないようにしないと。次のキャスティングができないのも困りますしね。

 舞台での経験が浅いということですが。

 ◆年末にちらし用の撮影のために初めてお会いして話をしたときに、私に似た志というか。同じ熱量を感じたんです。そのとき中村さんは、「壁が高いほど燃える」というスポーツマンのような話をしていました。「これはいけるな」と思いました。彼女も「チャレンジだ」と。それで、安心しました。

 中村さんの他にも、冨田樹梨亜さんや河地柚奈さんといったアイドルが出演します。

 ◆銀四郎のファンの女の子の役です。アイドルは根性がある。ずっと笑顔でいますから。お客さんの前では、どんなときでも笑顔ですけれども、裏で相当な努力をしています。けいこ中も非常にストイック。18年4月の2回目の公演にも出てもらい、それを感じました。

一瞬のすきもないエンターテインメントを

 「蒲田~」はこれまでも上演されています。

 ◆演出のこぐれ修さんは、つかさんの芝居では「本家」の方。だから本物のリズムと芝居になると思います。「蒲田行進曲」は、みんながよく知ってる芝居。僕が演じる銀ちゃんにしても、小夏もみんな知っている。中村さんもそう。でも、僕らの劇団のことは知らない。チームを作り上げ、見ているお客さんの感性を超えていく。そんな勢いのある舞台を僕らは作らないといけないと思っています。あそこの芝居を見にいけば、絶対に楽しいと思ってもらえるような状況を作らなければいけない。

 芝居は僕が選手だったアメリカンフットボールと似ています。どれだけ準備してきたか。どれだけ一つになったか。グラウンドで示すことができるチームは、応援されるものです。そういうチームになるべきだし、それを大学時代からずっと学んできました。準備する。チームを作る。覚悟を決める。そういうことです。単に「『蒲田行進曲』やっています。楽しいです」ではない。この舞台にかけています。

 自分たちが演じる芝居のどういう部分を見てほしいですか。

 ◆一瞬のすきもないエンターテインメントを見せます。お客さんが納得する舞台にします。1分1秒でもすきがあると、客が寝てしまうとよく言われます。けいこ場で徹底的に仕上げたい。だからこそ、チームになる必要があるのです。一人がせりふをサボると、ポンと穴が開く。チーム全員が自分のアサインメントをやりきる必要がある。

 つかさんの芝居にこだわっているのはどうしてですか。

 ◆自分の身の丈に合ってないものをやりたいんです。挑戦したいという動機が自分の中に本質的にあるのだと思います。つかさんの芝居をやりたい。主演をやりたい。もっと大きな劇場でやりたい。「蒲田」をやりたい。ヒロインは中村さんを呼びたい。そういう自分の理想と、理想よりも常に下にいる自分。理想を超えようとする作業をしながら成長してきたと思います。芝居も、自分の身の丈に合った、今できるものだけをやっていれば楽しいでしょう。しかし、それでは満足できない。常に何かに挑戦している状態です。だから、毎回つらいのだと思います。唯一、お客さんの拍手をもらったときだけは、芝居をやっていてよかったなと思います。そういう瞬間があるから、続けられています。ただ単に、自分が楽しいだけの芝居ばかりやっていたら、芸能界では生き残れないのではないでしょうか。お客さんからお金はもらえないと思います。

 一座以外でも、つか作品に数多く出ています。脚本に対する見方は変わりましたか。

 ◆それは変わっていません。ただ、言葉の深さや意味をもっと理解するようになったと思います。つかさんは「好き」というときは必ず「嫌い」っていう逆の表現をする人。ただ単に「嫌い」と突っぱねるだけではなくて、「嫌い」と言いながらも、前に進んでいく。そんな役者になることができてきたかなと思っています。

芝居は何が正解かわからない

 一座以外でも出演されています。

 ◆所属会社がやっている劇団の「チーズtheater(シアター)」の舞台にずっと出ています。無戸籍の人々や震災という、社会派の芝居をやっています。

 スポーツの世界から転向して7年目です。

 ◆楽しさとともに本当の意味でのつらさを知ったような気がします。始めたころは楽しかった。スポーツでも同じですよね。しかし、トップになろうと、本当の意味で努力し始めたときに、怖さとつらさが勝っていく。それを体感し、突っ走っている感じですね。今は。

 具体的なエピソードは?

 ◆アメフットをやっていたころも含めて、日本一を目指す人生しか送ってこなかった。競技を引退した今、全部ひっくるめて振り返ってみたら、楽しかったと言えるだけです。もちろんビッグプレーを決めたときは楽しかったです。でも、試合中は怖いし。緊張する。練習はつらいし、試合の前も不安だった。今の自分の芝居も、たぶんそういう状態なんだと思います。「この劇団がすごい」と評価されて初めて報われるんでしょうね。今まだ一生懸命やって大きくしている段階です。

 スポーツならば頂点は明確に見える。

 ◆芝居では見えないですね。多くの人が口にするけれど、芝居は何が正解なのか分からない。勝ち負けはつかない。ただ、お客さんの拍手の熱さは分かります。「ああ、良い公演できたな」とか「今日は響いていないな」とか。細かなことですが、良い反応があった瞬間が役者にはうれしい。そういう舞台の後は、ビールがうまいですね。

     ◇

「たやのりょう一座」の第3回公演「蒲田行進曲」は、3月27~31日に東京・浅草の木馬亭で。期間中に計8回の公演を予定している。チケットの発売は1月11日から。料金など詳細は一座のウェブサイトで。

プロフィル

 たやの・りょう 1986年9月18日、大阪府出身。少年時代にアメリカンフットボールを始め、関西大倉高、早大、社会人「オービックシーガルズ」でそれぞれ活躍。オービック時代には、日本一も経験している。2011年に負傷のため現役を引退し、俳優を志す。12年に特撮ドラマ「仮面ライダーウィザード」でデビュー。過去2年の舞台出演は「THE VOICE」(17年4月)、「寝盗られ宗介」(同6月)、「Festa.」(同12月)「いつも心に太陽を」「ストリッパー物語」(いずれも18年4月)、「売春捜査官」、「川辺市子のために」(いずれも同年8月)。

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