奄美中1自殺は「指導死」 第三者委が市に報告書提出

サッカー部でゴールキーパーとしてプレーしていた男子生徒のスパイクとグローブ。生徒は亡くなる前日にも試合に出場していた=鹿児島県奄美市で樋口岳大撮影

 鹿児島県奄美市の市立中学1年の男子生徒(当時13歳)が2015年11月に自宅で自殺し、市の第三者委員会は9日、自殺直前に受けた担任の男性教諭の指導と家庭訪問が生徒を追い詰めたとする報告書を市に提出した。担任が十分に事実確認せずに「同級生に嫌がらせをした」と思い込んで指導と家庭訪問をしたことが「不適切だった」と判断した。【樋口岳大】

 15年11月4日午後6時55分ごろ、帰宅した母親が、首をつった状態の男子生徒を発見。その後、死亡が確認された。生徒のズボンのポケットには「こうして罪を償うことを決めた」などと記した遺書が入っていた。

 報告書によると、その2日前の同月2日、同級生の男子が「友達に嫌がらせを受けるので行きたくない」と欠席した。4日に同級生が登校した際、担任は「他の生徒からされた嫌なことを書くように」と指示。同級生は5人の行為を挙げ、その中の「方言を言ってくる」相手の一人に男子生徒を挙げた。

 放課後、担任は男子生徒らを呼び、自らの行為を書くように指示。男子生徒は「自慢話の時、『だから何?』と言った。話を最後まで真剣に聞けていなかった」と書き、方言を言ったと認めた。担任は男子生徒らに謝罪をさせ、同級生も「僕も方言の意味が分からなくて文句を言われていると思っていた」と謝った。

 担任はその場で男子生徒ら5人に「(同級生が)学校に来られなくなったら、お前ら責任を取れるのか」などと叱責。下校させた後、事前連絡せずに男子生徒宅のみを訪問し、生徒に「誰にでも失敗はある」「改善できればいい」などと言った。生徒は泣いていたといい、直後に自殺した。

 遺族が16年5月に事実究明を求めて市に第三者委の設置を申し入れ、学者や弁護士ら委員が17年5月から調査し、生徒や教職員への聞き取りなどをした。

 その結果、第三者委は、男子生徒が使った方言は「友人同士の他愛のないやり取りだった」と指摘。同級生が第三者委の調査に「男子生徒は友達。方言は遊びみたいなもの」と話したことや、男子生徒が指導を受ける直前にも同級生に給食を運んだり、サッカーに誘ったりしたことなどから「心身に苦痛を与える嫌がらせとは認められない」と判断した。

 そのうえで、担任の生徒指導について、第三者委は「同級生からは十分に話を聞かずに『嫌なこと』を書かせた。男子生徒らにも言い分を丁寧に聞かずに紙に書かせ、事実確認も不十分なまま一方的に嫌がらせがあったと思い込み、不要な指導をした」と認定した。

 さらに、男子生徒に対して担任が家庭訪問で「誰にでも失敗はある」などと伝えたことで「過大で理不尽な自責感をもたらした。自殺の引き金になった」と認めた。また、第三者委は、担任が他の教員と情報を共有せずに1人で対応したとして「学校には組織対応するという意識が欠如していた」と指摘した。

  ◇   ◇

 第三者委は、生徒死亡後の市教委や学校側の対応の問題点を指摘した。

 報告書では、男子生徒が死亡した翌朝に開かれた市内の臨時校長研修会で、市教委が「いじめた側の子が責任を感じて自殺した」と説明したことを明らかにし「臆測が地域に広がった」と批判した。

 また、遺族が16年5月に市に第三者委の設置を申し入れた3カ月後、当時の校長が遺族に「再考できないか」と思いとどまるよう迫っていたと指摘。校長は「全部、公になる」「マスコミも来る」「学校は混乱する」などと理由を挙げたという。

 第三者委は「自殺が学校生活に関係すると疑われる場合には第三者委などによる詳細調査に移行すると定めた文部科学省の背景調査指針を無視し、大きな問題だ」と批判。一連の市教委や学校の対応について「事実に向き合おうとする姿勢が見られなかった」と結論付けた。

 文部科学省の統計によると、17年度に小中高校から報告があった児童、生徒の自殺者は250人だった。このうち教師からの指導を含む「教職員との関係での悩み」が背景にあったとされるのは7人で、08年度からの10年間では22人とされる。一方、警察庁統計では、08~17年に自殺の原因に「教師との人間関係」があった子供は、39人とされている。

 教師の指導をきっかけとした自殺を遺族らは「指導死」と定義し、約10年前には根絶を目指し「『指導死』親の会」が結成された。同会の安達和美共同代表(57)=福岡県宗像市=は、奄美市の中1男子が命を絶ったことに「これまでに同じように苦しみながら亡くなっていった子供の命が生かされていないと感じ、悔しい」と語った。

 安達さんの次男雄大さん(当時14歳)も、長崎市立中2年だった04年に、教師から生活指導を受けた直後に自殺した。安達さんは、教師を目指す大学生らに講演し「子供の声をしっかりと聞いてほしい」と訴えてきた。しかしこの間も、17年3月に福井県池田町で中2の男子生徒が自殺し、有識者による調査委が「担任らから強い叱責を受けて追い詰められた」と結論付けるなど、「指導死」は続いている。

 安達さんは「生徒を『上から押さえ付けて管理する』という教師の姿勢を、『生徒を支援する』という方向に変えない限り、指導死はなくならない」と警鐘を鳴らす。

 一方、指導死の問題に詳しい教育評論家の武田さち子さんは「指導死には『悪いことをした子供を指導した教師は正しい』といった見方が根強いため、親が声を上げられないケースが多い。指導は密室で行われ、学校や教委は責任追及を恐れて隠す。統計に表れているのは氷山の一角だ」と指摘する。

 武田さんが新聞報道などで確認できただけで、1952年以降の指導死は101件(うち未遂11件)に上った。武田さんは「指導死を『その子の問題』ではなく、学校が内包している問題として捉えなければならない。そのために、国は正確に実態把握をすべきだ」と語った。

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