アルツハイマー病の新治療薬「ドナネマブ」効果があるのはどんな患者?医師が解説

「認知症に対する不安を抱える患者さんやご家族にとって、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる薬の選択肢が増えることは、明るい希望。認知症治療においても大きな転換点です」

と語るのは認知症治療の第一人者でアルツクリニック東京の新井平伊先生。

9月24日、厚生労働省は米製薬大手イーライリリーが開発したアルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」の国内での製造販売を正式に承認した。

認知症の約7割を占めるアルツハイマー病の治療薬としては、昨年実用化された「レカネマブ」に続いて2例目になる。

「アルツハイマー病は、神経細胞にアミロイドβという異常なタンパク質が沈着。ダメージを受けた神経細胞では、たとえば記憶に関係する神経伝達物質『アセチルコリン』を介した情報のやり取りができなくなるのです。

既存薬はアセチルコリンを補充するなどの対症療法的でしたが、新薬はアミロイドβそのものを除去するため、進行をより遅らせる効果が期待されます。

実際、レカネマブを投与した患者さんのアミロイドβは減っています。

患者ご本人は効果を実感しにくいかもしれませんが、点滴中、以前はボーつとしていたのに、最近では本を読むといった変化も見えています」(新井先生)

■ドナネマブとレカネマブの2つの薬の違いは?

ドナネマブも発症の引き金になる原因物質の除去を狙い、認知症の進行を平均で3年程度遅らせることが期待できるともいわれるが、2つの新薬ではどのような違いがあるのだろう?

国立精神・神経医療研究センター理事で東京大学教授の岩坪威先生がこう語る。

「どちらも現時点でわかっている効き目は、これまでの症状の進行速度が時速100キロだったとしたら、平均で時速7キロに減速できるというイメージです。

両者とも標的にしたアミロイドβに結合し、それを目印に脳内の免疫細胞が除去する薬ですが、アミロイドβが蓄積し、硬くなる前の半熟卵のような状態(プロトフィブリル)を標的にするのがレカネマブ。

ドナネマブは蓄積が進んだアミロイドβに高頻度で起こる特異な変化(ピログルタミル化)を標的にするという違いがあります」

アミロイドβの平均除去率はレカネマブが60%に対して、ドナネマブは84%と差があるが……。

「それでも効き目が同程度なのは、レカネマブが毒性の強い状態を中心に取り除いているからかもしれません。

とはいえ、ドナネマブの治験では、アミロイドβの蓄積量が正常値になると薬の投与を完了させる設定でしたが、12カ月時点で被験者の約半数が投与完了に。

高い除去率により点滴治療が短くなるメリットがあります」

効果が期待される薬だけに副作用も知っておく必要があると岩坪先生がこう続ける。

「アミロイドβを標的にする薬では、同時に血管壁に溜まるアミロイドβも攻撃するため、『脳微小出血』や脳の組織に水がたまる『脳浮腫(むくみ)』といった副作用が出ることがあります。

発現率は除去率が高いドナネマブのほうがレカネマブより2倍弱多いようです。とはいえ、どちらの薬も今後広く使われるようになれば重症例が発生する可能性も。

専門医が注意深く定期的に検査を行っていく必要があります」

気になる費用だが、新井先生はこうみている。

「ドナネマブの薬価はこれから決まりますが、すでに保険適用されているレカネマブと同程度の性能だと判断されれば費用も同じくらいに設定されるでしょう。

患者さんの自己負担額は、一定額を超えた分が払い戻される高額療養費制度により、一定の上限(70歳以上の一般所得層の自己負担額の上限は14万円4千円)があります。

また投与には、アミロイドβの蓄積を調べる『アミロイドPET検査』『脳脊髄液検査』による判定が必要ですが、この検査も昨年から保険診療になっています」

しかし、どんな認知症の患者にも効果があるわけではない。

■認知症中期~後期の症状が出る前の投薬が効果的

「対象となるのは軽度認知障害と早期アルツハイマー病。治験では、認知機能検査の『MMSE』(ミニメンタルステ―ト検査)のスコアが、ドナネマブで20~28点(低いほど進行)、レカネマブで22~30点の人で、アミロイドβの蓄積が認められた人です。

アルツハイマー病の症状は出来事の内容だけでなく、出来事そのものを忘れる『エピソード記憶障害』が特徴的。

もの忘れがあっても、着替えや入浴、外出時の身の回りの支度など生活ができていたとしても、本人が『何かおかしいな?』と自分の変化に気づくことが重要。

それまでの暮らしぶりと比べて違う“何か”を見逃さないで受診することが、認知症新治療薬で治療できるタイミングを逸しない方法です」

昼ご飯に何を食べたか忘れるのではなく、食べたかどうか忘れた、などの症状が出たら手遅れ。

その前に治療が必要だ。予防に心がけながらも「おかしい?」という異変を見逃さないことが画期的な薬と出合う方法のひとつのようだ。

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