吉高由里子はいら立つスタッフに「ねぇ、怒ってるの?」 書道家明かす大河現場の癒しフォロー

「吉高由里子さん(35)と初めてお会いしたのは、’22年の夏ごろ。『光る君へ』がクランクインする1年ほど前の顔合わせでした。まだ設定なども細かくは決まっていませんでしたので、書道の歴史や平安文学などの話をすることから始めました。

平安時代の書道と現代の書道の違いなど、私の書への愛情を一方的に伝えていたのですが(笑)、吉高さんも『こんなに平安の書が好きな人とお仕事をするのだから、私も頑張るよ!』と言ってくださったので励まされました」

そう語るのは書道家の根本知さん。根本さんはNHK大河ドラマ『光る君へ』の出演者への書道指導を担当している。流麗なタイトル文字を揮毫したのも根本さんだ。

「演出家の方から、『紫式部が秘めた想いを持つ藤原道長へ恋文を書くとしたら、どんな題字になるかを見てみたいです』と言われて、筆を動かしたのです。するとまるで、まひろ(紫式部)と道長の想いが入り交じるような題字になりました。平安時代の“へ”は現代とは異なり、横線を一本引いているような感じなのです」

歌人で作家の紫式部が主人公という作品だけに、ドラマでも筆をとるシーンが多く、ストーリー展開上も重要視されているという。根本さんに具体的な指導法を聞くと――。

「私が書いたものを見ながら文字を書いていただきます。ただ平安時代のかな文字は、かなり数が多かったのです。現在のひらがなは46文字ですが、当時は150文字もありました。それが崩し字になっているので、そもそも読めないことも多く、どんな文字かを説明するところから始まります。

特に吉高さんからは、筆の動きを間近で見てから書きたいと希望されていますので、私が書き順や筆のタッチをお見せしてから、稽古しています。見ているときは『こんなにきれいな線引けないよー!』とか、『なんでこんな難しい文字を書かせるのよ!』とか、大きな声を出してとてもにぎやか。リアクションが面白くて思わず笑ってしまうのですが、いざ稽古に入ると、集中力がとても高いので、日々上手になっています。

最初のころは失敗すると、『ぎゃー!』と大きな声を出していましたが、最近ではそんな声を聞くことはあまりなくなりました」

吉高も根本さんとの稽古を楽しんでいるようだ。昨年11月9日付のXでは、こんなコメントを発信していた。

《今日は琵琶の稽古と書の稽古でしたっと 写真は書の根本先生の手 手がすんごい美しいの ねっ 私はこの手が大好きなのです もう授業が終わる頃に慌てて撮らせてもらいました 左利きを恨む期間はまだまだ長いですが稽古に励んでおります》

■実は字が下手だったという藤原道長

吉高は左利きだが、作中では紫式部として右手で筆を運ばなければならない。その苦労について根本さんはこう語る。

「私たちが想像するより難しいことだと思います。稽古を始めたときから私がアドバイスをしているのが、『気楽にしていいですよ』ということ。当時はかな文字が整理されていく過渡期で、のちの時代のように洗練されてはいなかったのです。だから『書道家や字の上手な人から見たら下手でも、気にすることはないですよ』と伝えています。

いつも私自身が反省しているのですが、筆の使い方をうまく見せようとすると、技術に走ってしまって、ついつい筆を強く握ってしまいます。

でも吉高さんは利き手でないこともあって、強く握りません。力まずに、本物の貴族のような柔和な持ち方なのです。SNSでも、“まひろの筆を持つ姿が雅”といった書き込みがありましたが、左利きだったからこそ実現できた雅さなのだと思います。まさに奇跡ですね」

吉高のキャラクターもあって、撮影現場は和気あいあいとしているという。

「吉高さんは、空気を読む人ではなく、空気を察する人だと感じています。現場では監督や助監督だけではなく、若いスタッフたちにも、『寒くない?』『いつもと雰囲気違うね』などと声をかけているのです。

撮影手順に滞りがあったために、少しいら立ったスタッフがいたときも、吉高さんは少し笑いながら『ねぇ、怒ってるの?』と、あえて話しかけていました。するとスタッフも『えっ、怒ってなんかないですよ、そう見えましたか?』と、笑顔を見せてくれたのです。そういった吉高さんならではのフォローもあって、現場のいい雰囲気が保たれているのだと思いました」

紫式部の“生涯のソウルメイト”藤原道長を演じているのが柄本佑(37)だ。

「道長直筆の『御堂関白記』という本があり、筆跡が伝わっています。しかし細かいことを気にしない性格だったのか、あまり上手には見えないのです。きちんと墨をすっていない箇所があったり、筆を寝かせて書いたりしています。

柄本さんも書道は未経験、その拙さを演出にうまくいかせればという思惑もあったようですが、それが功を奏したこともありました。“道長の字”がドラマに登場するシーンがあり、最初はそれを私が書くはずだったのです。

しかし演出家の方から『道長の字にしてはうますぎる』とか『下手に書こうとする作為が感じられる』などと指摘され、困り果てました。そこで試しに柄本さんがいちばん初めに書いたものを演出家さんに見せたら、『これを使いましょう!』ということになりました。柄本さんの書く文字はユニークなので、周囲からは“佑フォント”と呼ばれていました。

そんな柄本さんですが、いまでは上達しすぎて、以前の下手だったころの字をまねて、わざと下手に見せるように努力しています」

根本さんの吉高や柄本への書道指導は今年11月まで続く予定だという。“書は人なり”ともいわれるが、ドラマに登場する文字に注目することで、さらに『光る君へ』を楽しむことができるだろう。

ジャンルで探す