交通事故より年間死者数が多い「ヒートショック」 どんな症状が出る? どう防ぐ? 専門家に聞いてみた

入浴時などは「ヒートショック」に要注意

入浴時などは「ヒートショック」に要注意

 気温が低い冬は室内が冷えやすく、暖房を使用している部屋とそうではない部屋とで寒暖差が生じる傾向にあります。寒い部屋と暖かい部屋とを行き来すると、温度の急激な変化によって健康被害を引き起こす、いわゆる「ヒートショック」になりやすいといわれており、注意が必要です。

 そもそも、ヒートショックになると、どのような症状が出る可能性があるのでしょうか。どのように予防すればよいのでしょうか。訪問看護ステーションの経営などを手掛けるシャーンティ(神戸市西区)の社長で、ヒートショックの予防方法に詳しい龍田章一さんに聞きました。

心筋梗塞、脳梗塞などの原因に

Q.「ヒートショック」によって、体にどのような影響を及ぼす可能性があるのでしょうか。主な症状も含めて、教えてください。

龍田さん「『ヒートショック』とは、『暖かい部屋から寒い部屋(屋外)に移動する』『寒い部屋(屋外)から暖かい部屋に移動する』といったときに生じる急激な温度変化によって、体がダメージを受けることを指します。ヒートショックによって、体に次のような影響を及ぼす可能性があります」

(1)血圧が急激に変化
温度が急に変わると、血管が急速に収縮または拡張するため、血圧が急激に変動します。その影響で心臓や脳などに負担がかかり、高血圧のほか、心筋梗塞(こうそく)などの心疾患、脳梗塞や脳出血といった脳疾患のリスクが高まる可能性があります。

特に冬場においては、リビングなどの暖かい部屋からトイレや脱衣所といった寒い場所に移動後、服を脱いだときに急激な血圧の変動が起こりやすいため、注意してください。

(2)免疫系の機能低下
体温の変化は免疫系にも影響を及ぼすため、ウイルスや細菌に対する抵抗力が低下することがあります。

ヒートショックによる症状は、軽度から重症までさまざまです。軽度の場合、目まいや吐き気、頭痛、倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)、立ちくらみなどの症状が生じ、安静にすると治りますが、重症の場合には、失神や心筋梗塞、意識障害などを引き起こすことがあります。

厚生労働省の研究では、ヒートショックが原因による年間の死者数は、約1万9000人と推計されています。一方、警察庁の統計によると、2023年の交通事故の死者数は2678人です。つまり、ヒートショックが原因による年間の死者数は、交通事故の年間死者数よりも多いため、油断しないように注意してください。

Q.どのような人がヒートショックになりやすいのでしょうか。

龍田さん「主に高血圧などの既往歴がある人や高齢者は、日頃から血管がダメージを受けているケースが多いため、注意が必要です。

高齢者は感覚機能の衰えにより、『喉の渇きを感じにくく、水分が足りていない』状態、つまり『隠れ脱水』が起きている可能性が高いです。脱水症になると、体の体温調節がうまく機能しないため、その状態で寒い場所で脱衣をしたり、浴室で熱い湯につかったりすることで、血圧が大きく変動するケースが非常に多くなります。そのため、脳出血や脳梗塞などを発症する可能性が高まります。

若い人でもヒートショックを引き起こす可能性があります。例えば、飲酒時はアルコールの影響で体から水分が抜けているため、気付かないうちに体が脱水状態に陥っていることがあります。その状態で入浴すると、脳出血や脳梗塞などの危険性があります」

Q.ヒートショックを防ぐには、どうしたらよいのでしょうか。

龍田さん「次のような取り組みが重要です」

(1)温度変化を緩和する
屋内外の温度差をできるだけ小さく保つことが重要です。例えば、室内の暖房の設定温度などを適度に調節し、屋外に出る際は適切な防寒着を着用することが有効です。脱衣所や浴室、トイレといった寒くなりやすい場所に小型ヒーターなどの暖房器具を設置し、他の部屋との温度差を小さくするとよいでしょう。

(2)十分な水分補給
水分は体温調節に重要な役割を果たすため、寒い時期でも意識的に摂取することが大切です。先述のように、高齢者は感覚機能の衰えにより喉の渇きを感じにくくなるため、長時間水分を摂取しないまま過ごしがちです。その状態を続けると『脱水症』に陥る可能性があり、重症化すると命を落としてしまう危険があります。

当社がお客さまに訪問看護サービスを行う際は、温度計、湿度計を用意していただき、水分摂取の徹底のほか、室内の温度や湿度を定期的に確認していただくようお願いしています。

冬は暖房器具の使用により、部屋が乾燥しています。その際、体が体温調節のために、目に見えない汗をかいているため、気付いたときには脱水症を発症していたというケースがあります。入浴前はコップ1杯の水を飲むことをお勧めします。

(3)適切な方法で入浴
入浴時は急激な温度変化を防ぐため、「足元からゆっくりと浴槽に入る」「湯の温度をできるだけ低めにする」「長湯をしない」「浴槽から急に立ち上がらない」といったことを心掛けてください。

食事後や飲酒後に入浴をする場合は、安全上、1時間以上空けるとよいでしょう。同居する家族がなかなか浴室から出てこない場合は、「大丈夫?」と声をかけ、体調に異変がないかを確認してあげると、命を守ることにつながります。

(4)健康的な生活習慣を維持する
定期的な運動や栄養バランスの取れた食事は、体の抵抗力を高め、ヒートショックによる健康被害のリスクを軽減します。栄養が偏った食事を続ける人の中には、肥満になるだけでなく、気付かないうちに血管にダメージを与えたり、血液がドロドロになったりする人も多く、血管に強いストレスがかかっています。

ドロドロの血液が血管の中を流れると、血管内に血栓ができやすくなります。すると、血栓が剥がれて脳や心臓の血管に詰まり、脳梗塞や心筋梗塞などの病気を発症してしまう可能性があります。その場合、後遺症が生じたり、高次脳機能障害を発症したりしてしまう危険性が高くなるため、注意が必要です。

ヒートショックは適切な予防策を講じることで、その影響を最小限に抑えることが可能です。特に高齢者のほか、高血圧などの既往症がある人は、冬季の温度管理に注意するとともに適切な治療を行い、生活習慣を改善することが大切です。

ヒートショックになったら?

Q.自分や家族が「ヒートショック」と見られる症状に陥った場合、どのように対処したらよいのでしょうか。

龍田さん「目まいや吐き気、頭痛、動悸など、ヒートショックと見られる症状が出た場合は無理に立ち上がろうとせず、体勢を低くして、気分が落ち着くまで安静にしましょう。失神や意識障害、心筋梗塞などの症状が出た場合は、すぐに救急車を要請してください。

家族が浴槽の中で意識を失っているのを見つけた場合、溺死を防ぐため、浴槽の湯を抜いてから、家族を引き上げましょう。家族を引き上げられない場合や家族の意識がない場合は、湯を抜くとともに直ちに救急車を要請しましょう」

 龍田さんによると、持病のある人や高齢者だけでなく、健康的な若い人もヒートショックになる危険性があるということです。室内の寒暖差を小さくするのはもちろん、「飲酒後にすぐに入浴しない」「水分を適度に摂取する」などを心掛けてみてはいかがでしょうか。

オトナンサー編集部

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