【医学部不正入試】不正による不合格者は損害賠償請求できる? その範囲や慰謝料は?

医学部入試の不正を認めた東京医科大学の記者会見

医学部入試の不正を認めた東京医科大学の記者会見

 東京医科大学(東京都新宿区)など複数の大学の医学部入試で不正があった問題で、かつての受験生が、受験料の返還や慰謝料などを大学に求める動きが起きています。不正によって不合格になった受験生は、大学側に損害賠償を請求できるのでしょうか。グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

受験料や交通費は請求可、予備校授業料は微妙

Q.入試で不正があった場合の損害賠償について教えてください。

刈谷さん「まず前提として、今回の問題については、何が『不正』だったのかを検討する必要があります。すなわち、医学部の入試における合格判定方法や点数操作自体が『不正』だったことを問題にするのか、あるいは、男性が有利といった合格基準を、受験生が受験を申し込む前に説明しなかった点が『不正』だったのかを切り離して考えなければなりません。

前者は、説明があったかどうかを問わず問題となるのに対し、後者は事前に説明があったかどうかが問題となるからです」

Q.では、合格判定の方法や点数操作自体が「不正」だったとして、その不正のために不合格となった受験生は、大学に損害賠償請求ができるのでしょうか。

刈谷さん「損害賠償請求ができる可能性は十分にあります。具体的には、大学の合格判定や点数操作が不法行為(民法709条)となり、それにより不合格となった受験生に生じた損害について、損害賠償責任が認められる可能性があります。

例えば、何の合理的な理由もなく、女性であることのみを理由に一律に減点する合格判定や点数操作は、日本では性別による差別が禁止されている(憲法14条)以上、平等原則に反する不法行為となるでしょう。

また、浪人回数が多いなど受験生の年齢のみを理由に一律に減点する合格判定や点数操作も、合理的な理由が認められない限り、憲法14条に反しないまでも『不合理な差別』として不法行為と認められる余地があるでしょう」

Q.損害賠償請求できる範囲は、当該大学の受験料、受験にかかった交通費、不正で浪人になった場合に通った予備校の授業料など、どこまででしょうか。

刈谷さん「一般に、損害賠償請求できる範囲は、大学側の不正な行為と受験生に生じた損害との間に因果関係があるかどうかによって判断されます。そして、因果関係は一般的に、『その行為がなかったならば発生しなかったであろう』費用について認められることになります。

具体的には、大学の受験料や受験にかかった交通費などは、大学側が不正を働いたことで無駄になった損害と言えるでしょうから、問題なく認められるでしょう。その他にも、宿泊を必要とする距離からの受験生であったような場合、宿泊費なども対象になります。

一方で、浪人した場合の予備校の授業料などは、一概に認められるかどうかは微妙です。不正が原因で浪人になったのかどうかはっきりしない上、浪人生が必ずしも予備校に通うとは限らず、また、通ったとしても、どれだけの講座を受講するか人によって違うからです。また、不正入試をした大学以外を受験していた場合には、不正入試との関係性がどこまで認められるのかも問題になります。

このように、法的には翌年の予備校の費用などまで認められるかというと、必ずしも認められるわけではないと言えます。特に、合否の当落線上にいなかった受験生、すなわち不正がなくても不合格だった受験生については、翌年の予備校の費用を損害と認めることに違和感を覚える人も多いのではないでしょうか」

Q.もし、他の大学に入った受験生が追加合格となって当該大学に入り直した場合、他大学の入学金や授業料は請求できるのでしょうか。

刈谷さん「追加合格になるということは、不正がなかったならば合格していたということでしょうから、他大学に払った入学金などの費用については、『不正がなかったならば支払うことのなかった損害』と言って問題ないように思われます」

Q.慰謝料も請求できるのでしょうか。

刈谷さん「慰謝料とは、その人が被った精神的な苦痛に対する賠償のことです。従って、入試で不正な操作が行われたというだけでは、精神的苦痛を被ったと言えるかどうかは微妙であり、認められるとしても金額は僅少になるでしょう。

ただし、今回のケースは、不正の態様が女性であることのみを理由とする差別や、浪人生であることのみをもって不利な取り扱いをした、というものですから、被害に遭った受験生が差別を受けたことによる精神的苦痛を請求していくと考えれば、少なくとも一定額の慰謝料は認められるでしょう」

刑事事件になる可能性は?

Q.不正の有無にかかわらず不合格だった受験生は、損害賠償請求できるのでしょうか。もしできるなら、どの範囲まででしょうか。

刈谷さん「不正の有無にかかわらず不合格だった受験生も、損害賠償請求できるとは思われます。しかし、合否の当落線上にいた受験生とは、受けた損害の範囲に差が出てくるのではないでしょうか。

たとえば、すべての不合格者は、このような不正があることを知っていたならば受験しなかったと考えるはずですから、受験料や交通費など受験に関する費用は損害と言えるでしょう。しかし、前述の通り、浪人したことによって発生した予備校費用については、不正の有無に関係なく不合格であったことを考えると、認められないと思われます。

慰謝料に関しては、被った精神的苦痛は、不正がなかったならば合格していたか否かに関係なく認められるものですから、当落線上の不合格者と異なるところはありません。一定の範囲で認められる可能性が高いです」

Q.入試不正が刑事事件になる可能性はありますか。

刈谷さん「刑事事件になり、詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性はあります。具体的には、多数の受験生から受験料を集める目的の下、あえて不法行為となりうる合格判定や点数操作を受験者に伝えず、受験生に公正な入試であると誤信させ、受験生に受験料を支払わせたと言えるような場合、詐欺罪が成立する可能性があります。ただし『あくまで理論上は』であり、実際に受験料をだまし取る意図はなかったでしょうから、犯罪は成立しないでしょう」

Q.過去に大学入試の不正を巡って、損害賠償や慰謝料支払いにまで至った例や、刑事事件となった例があれば教えてください。

刈谷さん「大学入試の不正に関する判例はありませんでした。ただ、年齢を理由に不合格にされたとして、50代の女性が大学を訴えた訴訟の判例はあり、『年齢による差別があったとは認められない』として訴えは棄却されています」

オトナンサー編集部

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