なぜ同時に滑走路へ? 羽田空港「航空機衝突事故」の焦点 破られた「一つの滑走路に1機」の大原則

羽田空港の滑走路上で、JALと海上保安庁の航空機による衝突事故が発生しました。「一つの滑走路は、一度に1機の航空機しか使用できない」という国際ルールは、なぜ破られたのか。新たな安心のために一刻も早い原因究明が必要です。

事故状況の把握がJAL・海保で異なる

 2024年1月2日17時47分頃、羽田空港C滑走路上で、JAL(日本航空)と海上保安庁の航空機が衝突事故を起こしました。離陸しようとする海保機へ、着陸態勢に入ったJAL機がいわば追突する形で炎上した事故。「一つの滑走路は、一度に1機の航空機しか使用できない」という国際ルールは、なぜ破られたのでしょうか。

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事故が起きた1月2日の羽田空港。搭乗券の払い戻しと振替便予約の長い列ができた(中島みなみ撮影)。

 この事故で、JAL機の乗客乗員は全員が無事でしたが、海上保安庁の乗員5人は死亡しています。

 JALの516便は、新千歳空港を16時に出発し、羽田空港へ17時40分に到着予定で、羽田空港のC滑走路に着陸しようとしていました。一方、海上保安庁羽田基地所属のMA722固定翼機は、16時45分に羽田基地を出発し、空港内を自走してC滑走路に進入しようとしていました。

 C滑走路の長さは3360m。4本ある滑走路の中でも最長です。JALの516便で使うエアバスA350は全長約70mで、このような大型機の着陸に適した長さですが、海保のMA722が使うボンバルディアDHC-8は全長約26m。クルマでいえばトラックと軽自動車のような違いがあります。海保機はC滑走路の半分ほどの距離で離陸できるため、滑走路に進入するJAL機と比較すると、かなり前方で離陸態勢を取ります。

 今回の事故では、降下するJAL機が離陸しようとした海保機へ、どのような状態で衝突に至ったかが、原因究明のひとつのポイントになります。前方に位置する海保機に対し、着陸後に滑走するJAL機が追突する形で事故が起こりましたが、海保機が滑走路という本線に誘導路という枝道から入ろうとした出会い頭の事故という可能性もあり、事故状況が定まっていません。

 2日にそれぞれ会見を行った海上保安庁とJALの現時点での状況把握は異なるものです。

「滑走路を離陸滑走中のところ衝突したと報告を受けている」(海上保安庁)
「滑走路に通常どおり進入し通常どおりの着陸操作を開始したところ衝撃があって事故に至ったことは確認している」(JAL)

 なぜ両機が同じタイミングで滑走路に進入したのかということが、現時点では謎のままです。

「一つの滑走路に1機の航空機」のはずが

 ここでもう1つ、気になるのが航空管制です。国際ルールでは「一つの滑走路は、一度に1機の航空機しか使用することができない」とあり、このルールが厳格に守られることで、離発着の密度が高くても、事故のない運航が可能です。この司令塔となるのが航空管制です。

 航空機の離発着には管制の許可が必要です。管制と乗員は無線による音声通話でやり取りをしていますが、国土交通省航空局は「許可がどういう形で行われたか確認中」としています。

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2日深夜に行われたJALの会見(中島みなみ撮影)。

 警視庁はこの事故について業務上過失致死傷の疑いで刑事責任を追求しますが、事故原因の調査は運輸安全委員会の調査官に委ねられます。多くの場合、その結果が定まるまでには長い時間が必要です。

 滑走路に進入する場合の乗員の安全確認は大前提で、その部分はフライトレコーダーの解析などを待つ必要がありますが、管制との会話は地上で記録されていて、それほど時間を待たずに概要は明らかにできるとみられます。

 もしも衝突のタイミングがずれていたら、JAL機の乗員乗客の避難が遅れていたら、人的被害はさらに大きくなったかもしれません。利用者に待ち望まれるのは、再び事故が繰り返されないための原因が一刻も早く明らかになり、それが対策として生かされることではないでしょうか。

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